勃発!コンビニ大戦争

燻製マーガリン

第1話 岸本目線

よ、よう。俺の名は岸本。


職業は自宅警備をしている、今日も大忙しだ。


え?何が忙しいのかって?


ふ、ふふ。ぐ、愚問だな。


俺を見てみ、ろよ?


こ、こうして息を吐いたり吸ったり、足の筋肉を使って床の上に立ったり・・・


はぁ。


こ、こんなのあまりにも重労働じゃないかな。


その点い、いいよなぁ。だってケロはそうして物置の上で座って俺を眺めているだけでいいのだ、だから。


え?何だって?


親指を合わせても命は宿らないし、ぬいぐるみのぼ、僕に話しかけてもしょうがない?


ふ、ふふ。そ、そうだね。


ぬ、ぬいぐるみに「生きろ」なんて言っても、し、しょうがない、よね。


で、でもず、ずっと、長いことしゃべってないから・・・ね?


もう、うまく、ね?話せなくなっちゃったから。


大好きなケロと練習しておかなきゃいけないと思って。


・・・だって、ね、き、今日はコンビニに行く日だから・・・ね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夏の半ば。


どれほど前の事だったか、正確に記憶はしてはいないが、少なくとも2か月は経過しているだろうか。


「あ、暑い。し、死にそう。」


そんなことを言いながら、本来なら見慣れているはずの道をたどたどしく歩くこの男は、食糧調達のため、ついに家を出ることを決意した。


暗い住宅街に灯る街頭に照らされながら思うが、夏とはいえ今は夜。それも深夜である。


この気温で死んでいたらお昼に外出するには命がいくつあっても足りないだろう。


もっとも、命という概念がない僕が言うことでもないかもしれないが・・・。


まあ、とにかくこの男はいわゆる引きこもりニート。


約10年前から自分の部屋にこもって以来、親とろくな会話もせず、食事はすべてインスタントとコンビニ弁当で済ませ、外出は約2か月に一度の買い出しだけである。


そんなこんなでいつの間にか親が家を出て、ついに、この家の住人は一人とぬいぐるみ一匹になってしまったのだ。


「なぁ、ケロ~。やっぱり、こ、怖いよぉ。」


「え?うん。そ、そうだよね。ケ、ケロが応援してくれるもんね。う、うへ。」


どうやらこの男は僕の名前を口にし、表情をゆがめているみたいだが、理解ができない。


もし僕が話すことができたのなら、とりあえず家に帰らせるだろう。愛情をこめてお世話してもらっている身だが、申し訳ないが、その伸びきった髪、異臭を漂わせる服、そしてその顔はまさに不審者である。


しかも、ぬいぐるみと会話までしているのだから、怪しさマックスだ。


職務質問でもすべき警察の方も、あえて交番から一歩も動かず、見て見ぬふりをしている始末だ。


・・・とまあ、そんなこんなしているうちに片道1分のコンビニが見えてくる。


「は、はぁ。お、俺がんばるから、ね?ケロ、そこで見てて、ね。」


なるほど。どうやら僕はお役御免らしい。


迫りくるリュックの口を見上げながら思う。


「頑張れ。」と。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いらっしゃっせ~~。」


く、くはぁぁぁ。


と、扉を開けた瞬間にひ、光が!


は、はぁ。や、やっぱり来なければよかった・・・うぅ。


は、はやく買い物を済ませよう。


な、なんか店員にみ、見られている気がするし!


え、えと買うものは・・・あ、あれと、こ、これ・・・。


えっと、そしてこれ・・・。


こ、これは・・・い、一応、ね?そ、その電波悪い時とか困っちゃうから・・・仕方なく・・・。




・・・





よ、よし。


あ、あとはか、会計だけ、だ。

よかった、こ、この時間はやっぱり客がい、いないから。


ケロにもげ、元気も、もらった・・・から。


いこう!


「ど~ぞ~。お預かりしま~す。うぇ」


あ、あとは「カードで」って言う・・・だけ。


はぁ。


・・・な、なんか笑われてない?


それにしても、な、長い・・・な。


って、そ、それもそうか。これだけ買ったんだ、から。


そういえば、ひ、久しぶりに誰かに話しかけられたな・・・。


ちょっとう、嬉しい、かも。えへ


「袋はお付けしますか?」


「ふぇ!?は、え、あ・・・。」


や、やってしまった!


袋の事を聞かれるの、そ、想定していなかった!


な、なんて答える?あ、え・・・


「おね、がし、ま・・・あっ」


「一袋につき3円プラスさせていただいて、合計1万と2719円になります。」


よ、よかった。ど、どうにか、な、なった!


って、あれ。


な、何?なんで店員さんこっち見てるの?


「合計一万2719円になります。」


あ、ああ!そ、だよね。


支払い!


えと、こういう時は、そ、そうだ。


「ぁ、カ、カード・・・で。」


よ、よし!


「差し込んでくださ~い。」


「は、はぃぃっ、あ」


あとは、カードをリュックから出すだけ・・・。


あ・・・れ。


!!!


さ、さいふ、わす忘れた!!


あ、や・・ば。


あ、ぁ・・ぅ。


「お、お客様?」


「あのぉ、さ、ぃふ。わ、忘れてっ・・・あ。」


「はぁ。さようですか。すぐ取ってこられるのでしたら、このまま取りに行っていただいて構いませんが・・・。」


「あ、ぃ、きまふ。あ、いき・・・ます。」


は、早くと、取りにいかない・・・と。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ、ぇっと!さ、さ、さっきの者、です、が・・・?」


あ・・・れ。


これ、も、もしかして。


「おい!動くな!手をあげろ!」


で、でっかい袋を持って、グラサン、マスクはや、やばいやつ・・だよぉ。


しかも・・・包丁が・・・。


「あ、ぇえと?あ・・・」


「んじゃゴラァ!?」


ひょえぇ!!?


あ、ま、ずい。ど、どうしよ。


か、帰り際の強盗に、は、鉢合わせちゃった、かも!


「お、お客様!この方に従ってください!」


そ、そうだ。と、とりあえず、手を上げないと!


「よし、いいぞ。・・・おい、金、はないのか?あ?」


「ひぇぇああああ、そ、そこ、でぅす。はい。」


そ、そうだ。に、荷物も何も持たずに、い、家に帰ったか、ら。


「見せ、てもらう。」


あぁ!俺の、り、リュックがあさられてる!




・・・あ。




「そ、それ・・・は!」


「なんもねぇじゃねーかよおい!・・・あ?このカエルがどうかしたのか?」


・・あ、あれ、こ、この人、今なんて・・・。


い、いや、今はそんなこと関係ない!


ケロが強盗につ、つかまれてピ、ピンチなんだ!


「か、かぇえして!」


「へぇ俺もこんなん持ってた気がするなぁ。うんうん分かる。

こうゆうの癒されるよ・ね!!!!おら!おら!」


「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


あ。


あ。


あ。


・・・・。


ねぇ。


やめてよ。


なんで?


・・・


「あっはははは!!!なんつ~顔してんだよ!」


なんで?


なんで?


「よく見ろよ!これカエルじゃなくてゴミのぬいぐるみじゃねえか!」


ひどい。


ずっと。


大事にしていたのに。


俺の唯一の・・・


「ねぇケロ。ごめん。」


「あ?え?今なんて・・・。」


「かたきはうつよ。」


「え、おま、あ・・・」




あ、はは。


あはは。


あははははははははははははははははは!!!!


あーあ!


やっちゃったよ!


今お前は俺の持ちうるすべてを奪ったんだ!


あ?そうか。


こいつも協力者か!


「俺からすべてを奪った償いだ!!!!」


はぁはぁ。


あは。


あはははは。





・・・






「ケロ。やったよ。」


もう失うものはすべて失った。


数十年前に一つと、経った今。


家に引きこもって、ゲームして、ケロと遊んで。


うん。悪くなかった。


ケロ。俺も今から会いに行くね。


「今行く・・・っ!!!!!」


「待ちなさい!!!」


え?


あれ。


なんで、刺さってない・・の。あ。


「警察だ。」


なんで逝かせてくれないの?


え?生きろ?


ケロ・・・そう・・・だね。


・・・。


分かった。


君の分まで生きることにするよ。

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