01
バスを降りるとき、排気ガスの臭いに顔をすこししかめながら顔を上げた。家の前ではどんよりとしていたはずの空は、碧色に晴れ上がっていた。
そこから校門までの道すがら、朝練をしている運動部の生徒と何人もすれ違う。私はその状況に少しだけドキドキとしながら、スマホに目が向いているフリをしつつ歩みを進める。
やがて見えてきた校門をくぐると、校庭を挟んだ向こう側に集まる陸上部のメンツが目に入った。
「――――」
先頭を走る彼女と一瞬、目が合う。
千香は一瞬だけ、私に微笑みかける。周りがキラキラと輝いて見えるのは汗の輝きか、それとも彼女が放つオーラなのかは判らない。
だけど、だからこそきっと。今日は多分、良い日になる気がする。
†
――そうやって威勢の良いモノローグが吐けるときは、大抵その逆のことが起きてしまうのである。
私はいつもそうだった。絶対にいけると信じて疑わなかったあの時も。
「今日は、転校生を紹介します」
担任の
「
『それ』はそう言って。
「よろしく」
こちらに右手を軽く振って見せた。
「(――え?)」
時が止まった気がした。私は慌てて他のクラスメイトの方を向く。しかしその顔は誰もが真顔で(一部の人は興奮した様子で)、豆鉄砲を受けた鳩のような顔をしている生徒は誰も居なかった。
誰もこの状況を疑問に思っていないという事実だけが、私の孤独と不信を強めた。
赤月先生は幸か不幸か私に目もくれず、その転入生の身の上を軽く述べて、座る席を指示した。
「急ごしらえなんで申し訳無いんだけど、窓際の一番後ろの席でお願いできる?」
ハッと気づいて、今度は窓際へ振り向く。私の左斜め後ろに、空席が一つ出来上がっていることに気がついた。
私の隣の席でないことは行幸だった。だけど一瞬、それが私の隣を通り過ぎる瞬間。
「よろしくね」
『それ』は確かに私にそう言った気がした。ただこの『言った』というのは、『紙に書いた文字を私自身が朗読させられている』という感覚に近い。
首筋から氷の塊を突っ込まれたかのように、全身が総毛立つ。
「
なっちゃん先生の声に、クラスメイトの原山がやや陽気そうに応えているのが不思議でならなかった。私の膝は、こうして両手で押さえていないと今にも音を立てて震えだしそうだ。
何故か、って……見れば分かるでしょ。その転入生――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます