俺、パーティを追放されるはずじゃなかったっけ……?

椎茸大使

俺、パーティを追放されるはずじゃなかったっけ……?

「おい白、こいつも洗っておけよ。それと馬車の手配もやっておけ。」

「あ、私、イーグルの新作ネイルが欲しいのよ。でも買うには朝早くから並ばないといけないのよ。だから、よろしくね。」

「な、何がよろしくなんだよ!?」

「あ? いいから黙ってやれよ。」

「くっ……わ、分かったよ。」


俺の名前はロイ・マクロム。

白魔導師だ。

これが俺の日常。

地元で白魔導師としてずっと頑張ってきて、その努力が認められて俺は王国から勇者パーティに参加するように指令が下りた。

その時は舞い上がったもんだ。

だって勇者だぜ?

王国が認めた最も優れた剣士に王家から聖剣を貸し与えられ、あらゆる困難から国を護る護国の英雄。

それが勇者。


俺も子供の頃から絵物語に出てくる勇者に憧れ、木の棒を持って勇者だなんて言いながら走り回ったりしたものだ。

残念ながら俺には勇者どころか剣士になるだけの才能は無かったが。

でもその代わりに俺には白魔導師としての素質があった。

この世界には赤、青、緑、黄、黒、白の6つの魔導体系がある。

俺の白魔導は回復・支援・浄化に特化した魔導体系だ。

その為教会とも強い関係がある。

俺自身、白魔導の基本は学校で習い、それより上の階位の魔導は教会で習った。

少なくないお布施を取られたが……それでもその高い金を払ったのも無駄じゃなかったと、その時はそう思った。


だが、勇者と対面してすぐに勇者に対する憧れは儚くも崩れ去った。

勇者は確かに剣技は凄かったが、ただそれだけだ。

性格は最悪で勇者だからとわがまま言い放題で何かとすぐに暴力で訴えてくる。

こんなのが勇者なんてあんまりだろ……。

そのくせ外面だけはいいから誰かに勇者の本性を言ったところで信用されずむしろ俺の人格を疑われるまである。


更に最悪なのが、パーティメンバーもまたロクな人格をしていないという事だ。

先程ネイルがどうのと言ってきたのが赤魔導師のアリエッタ。

赤魔導師でありながら青、緑の魔導体系も習得している天才で宮廷魔導師なのだが、自身を飾ることにばかり執着する金食い虫。

ちなみに勇者の女。


今この場に居ない人もいる。

盗賊のギルムは簡単に言えば勇者の太鼓持ちで、いつも勇者の側に居て甘い汁をすすっている。

今この場に居ないのは鍵開けに使う道具の整備に行っているから。


武道家のアリスは修行バカで強くなる事しか考えていない。

なので突然ふらりとどこぞに修行と称して出掛けてしばらく帰ってこないなんて事も時々あるし、強そうな魔物が現れれば一対一で戦わせろと言ってきたりする。

それで怪我をして俺が治療する羽目になる上に、1人で戦うものだから時間がかかって移動する距離が減ることがしばしば。


エルフで弓使いのセシルは大の男嫌いで近づかない、口を聞かない、機嫌が悪ければ睨みつけてくる事もある。

ただまあ、それは男であれば誰に対してでもで、勇者が声をかけた時も一応仕事だからと話は聞くがすごいしかめっ面で嫌悪感を隠そうともしないので、勇者の顔が引きつってたのには内心スッとしたりもしてたり。


最後の1人、盾使いオージェスは……正直よく分からん。

常に無口で誰とも喋ろうとしないので何を考えているのかも分からない。


俺をいびってくるのは最初の3人だけで残りの3人は特に何かしてくる事はない。

ないが、助けもしてくれないので何の救いにもならない。

寧ろ見てるのに、何もしてくれないというのは絶望にしかならない。


今日も今日とて馬鹿どもの雑用を任されて夜遅くまで作業をして、そんで明日の朝にはなんとかのネイルを……。



「はぁ!? 寝坊して買えなかったですって!? ふざけんじゃないわよ! あれがどれだけの価値を持ってると思ってるのよ!? この私が流行遅れとか、そんなの耐えられないわよ!」

「だ、そうだ。何がなんでも手に入れてこいよ? そうだな……もし無理ならお前、パーティ抜けろ。」

「はぁ!? 何言ってんだよ!? そんなくだらない事でなんで抜けないといけねーんだよ!?」

「俺達はこの国で1番のパーティだ。そんな俺達が、流行遅れだと馬鹿にされる? そんな事あっていいわけねーだろ! 俺はなぁ、何においても1番じゃないと気が済まないんだよ! それが例え小さな事でも誰かに馬鹿にされるなんて、許せるわけねーだろうが! だから、もし無理だったなら、責任を取って辞めてもらうぞ。これは決定事項だからな。」


そう言って2人はどこかに行ってしまった。


「くそったれどもめ……。地獄に堕ちればいいのに……。」


当然、既に売り切れ。

買えたという人がどこに居るかを探すこともままならず譲ってもらうことも出来なかった。


「これで俺も無職か……。はは……たかだかネイル1つでクビになるとはな……ここまで来ると笑えてくるぜ。」


思い返してみれば、ろくな事が無かったな。

このパーティに入ってからまともに笑えた事なんて無かった気がする。

鏡を見てみればなんて酷い顔してるんだか……。

目の下のクマは消えず、辛気臭い顔が気に食わないと殴られ、殴られないように化粧で隠すようになって……。

辞めさせられてむしろスッキリ出来そうだ。

そもそも、このパーティにこだわる必要なんて無かったんじゃないか?

そうだ。

これからが本当の人生なんだ。

きっちりとこれまでの人生を精算して、本当の自分を始めよう。


「つまり、買えなかったと?」

「ああ。もうこのパーティを抜ける覚悟は出来ている。」

「ちっ! まあいい。どうせお前なんてなんの役にも立てないお荷物だ。さっさと出て行けよ。ああ、所持品は装備も含めて全部置いていけ。それは全部パーティ資金から出ているんだ。つまりそれらはパーティの物という事だ。なら、抜けるお前が持っていけるわけないよな?」

「……そうかよ。」


パーティ資金から出してくれた事なんて無かったじゃないか!

全部全部俺のわずかな取り分から必死になって貯めて買った物だ。

だけど、ここで駄々をこねた所でこいつが聞くとは思えない。


「ちょっと待て! ロイ、こいつらの言う事なんて聞く必要ないぞ!」

「そうね。貴方は私達には無くてはならない存在よ。出ていくなんて、私が許さないんだから。」

「そうだ……好きなだけいればいい。」

「アリス、セシル、オージェス……てめぇらいきなり何言ってやがるんだ?」


意見が一致したのには不服だが、確かにその通りだ。

今まで何もして来なかったくせに、いきなり何言っているんだ?


「ユリウス、お前の今までの態度は目に余る。お前は気付いていないようだが、これまでお前が自由に動けたのは全部ロイのお陰だ。捩れ角トカゲの突進を受けた時、毒沼ガエルの毒液を受けた時、黄泉帰り魔道王の呪法を受けた時、どうしてお前が無事だったか分かるか?」

「そんなの、聖剣の加護があるからだろ?」

「違う! 全部全部ロイの支援魔法のお陰だ! ロイが居なければお前なんてとっくにあの世行きだ。攻撃するにしたって、普段ろくに鍛錬を積んでいないお前が凶悪な魔物相手にまともに攻撃できるわけないだろ! それもロイが魔法で力の底上げをしていたからだ!」

「それに、アリスがなんで一対一で戦いたがるか分かる? そうしなければ腕が鈍るからよ。鍛錬だけじゃ限界があるし、いざという時でもロイが居れば安心だからね。」

「だからってこいつである必要がないじゃないか? それにセシル。お前だってこいつのこと嫌いだろ? いつも睨んでいたからな。俺知ってるんだぜ?」

「あんたからの誘いを断った私がロイと親しくしてれば嫉妬から仕打ちが酷くなるのなんて目に見えてるじゃない。だからそういう風に振る舞うしか無かっただけよ。それに知ってるのよ。あんた、アリスの事も狙ってたでしょ? そんなアリスがロイの事好きだから、ロイを追い出そうと躍起になってたんでしょ?」

「は、はぁ!? 何言ってんだ? 俺がそんな事するわけないだろ? 勇者のこの俺が、どうしてこんな雑魚を追い出す為に躍起になる必要があるっていうんだ!」

「何言ってるんだ? 雑魚はお前だろう? ろくに鍛練も積まず、ロイの支援に頼りきりのお前が1番のお荷物だろうが。だから、今までの事は全て国に報告させてもらった。」

「な……に……?」

「もっとも、私がそんな事をするまでも無かったようだがな。」


アリスがそう言うと、アリスの後ろから高そうな軍服を見にまとった男が現れる。

所々髪の毛に白いのが混ざり顔に刻まれた皺からそれなりの年齢だと伺えるが、軍服を押し上げる鍛え上げられた肉体がまだまだ現役だと訴えている。

それどころか、今俺の前にいる勇者よりも強いのではと錯覚させるほどの圧力を纏ってさえいる。

この人は一体……?


「私は王国近衛騎士団団長、ガイアヌス・クロム・スペンサーだ。勇者ユリウス……いや、元勇者ユリウス、お前から勇者の称号を剥奪する。これは王命である。」

「なっ!? ふ、ふざけるなぁ!! この俺が、勇者の称号を奪われるだと!? そんなふざけた事、認められるか!!」

「お前が認めようと認めなかろうと関係ない。これは王命である。」

「このっ、クソジジイがぁぁぁ! 俺が勇者だ!」

「舐めるな若造!」


突然聖剣でガイアヌスさんに斬りかかるユリウスだったが、聖剣を籠手で逸らされて床に深くめり込ませる事となり、隙だらけになったユリウスの頭をガイアヌスさんは掴み取ってそのまま床へと思い切り叩きつけた。

この人、強い……。


「王国の調査力を甘く見るなよ。ここ暫くの貴様の行動は全て把握している。それ故の資格剥奪だ。それと、そこの女魔導師。お前も宮廷魔導師の資格を剥奪。勇者パーティの名を汚した罪を償ってもらう。お前ら、連れて行け。」

「ちょっ、離しなさいよ! 私を誰だと思ってるのよ!」

「それと、盗賊の男も逃すなよ?」

「「「はっ!」」」


ガイアヌスさんが声を掛けると更に後ろから騎士が現れてアリエッタを拘束し、伸びているユリウスと一緒にどこかへと連れて行ってしまった。

えっと……。


「ロイ君と言ったかな。元勇者の馬鹿が随分と迷惑をかけてしまったようだ。すまなかった。」

「い、いえ、ガイアヌスさんに責任はありませんから。」

「それでも、迷惑をかけた事実は変わらないさ。今後の事についてはまた後日連絡が行くだろう。それまで申し訳ないが、外出は控えてくれ。」

「は、はい。」

「では、私はこれで。」


ガイアヌスさんも去っていき、この場に静寂が戻る……事は無かった。


「ロイー!」

「うわっ! あ、アリス!?」


突然アリスが抱きついてきたからだ。


「今まで助けられなくてすまなかった! セシルから必要以上にロイと接すると余計酷くなると言われて何も出来なかったんだ。だが、それももう終わりだ。これからは何も気にする必要は無い。」

「そ、そうか……。」

「ロイ。私はお前の事が好きだ! 愛してる! 私と付き合ってくれ!」

「ちょっと待ちなさいよアリス! 抜け駆けはなしって言ったはずよ!」

「あ……すまない。気が昂ってつい、な。」

「ロイ……私もね、貴方の事が好きよ。」

「せ、セシル!?」

「あー、積もる話もあるだろうし……俺は席を外しておく。」


突然の告白に気が動転している間にオージェスはどこかへと行ってしまった。

というか、アリスだけでなくセシルまで俺の事を好きって、一体どうなってるんだ!?

というか、さっきまで俺が追放されるって話だったはずなのに、なんでこんな事になっているんだ!?

まるで意味がわからない!



それから数日後。

ユリウス、アリエッタ、ギルムが逮捕され勇者パーティをクビになった。

ユリウス、アリエッタの横暴な行いは国がしっかりと把握していたらしく、勇者として相応しくないと考えていたそうだ。

そんなユリウス達が俺を追放しようとしているという情報を聞き逮捕する事を決めたそうだ。

それまではまだなんとかなるんじゃないかと期待していたそうだが、とうとう我慢の限界に来たとの事。

また、教会は教会で自分たちが推薦した白魔導師である俺が不当な扱いを受けているとして、細かな調査をしてその結果を持って王国に訴えたそうで、それも今回の逮捕騒動の後押しになったらしい。

俺は王国と教会推薦の元勇者パーティに加わる事になったのだが、その俺をクビにするという事は王国と教会の顔に泥を塗る行為であり到底認められないとかなんとか。

その辺の事は詳しくないが、まあ、国と教会の見る目がないと言うようなものだからな。

で、ギルムはギルムで勇者パーティの名前を使って結構好き勝手遊びまわっていたそうで、それが逮捕の理由だそうだ。


この辺の情報はセシルが教えてくれた。

そんなセシルはなんだかんだあって俺と交際することになった。

あ、アリスもね。

セシルとアリスがどうして俺の事を好きになったのかが分からなかった俺は意を決して2人に聞いてみた。

自分で言うのもなんだが、顔自体はそれなりには整ってはいると思うが、顔だけならユリウスの方が数段上だ。

それにパーティ内では虐げられていたし惚れる要素なんてどこにもないと思うんだけど。


そんな俺の自己評価とは裏腹に、セシル曰く、そうやって言われた事を投げやりではなく全力でみんなの事を考えて行っていたのを知って、それを見ていたら自然と好きになったとか。

後、ちゃんと反感を抱いているのも良かったとかなんとか。

気が弱いわけでも従順になるわけでもない所も良いらしい。

その辺の事はよく分からない。

アリスはアリスで修行でボロボロになったり、勝手な戦闘で大怪我をしたりした時に必死になって治療してくれる姿に惚れたとか。

こっちは後遺症が残らないようにと一生懸命やっていたというのに暢気な事で。

それと、これは2人が同じ事を言っていたが、俺の支援魔法を受けると、俺に守られているような温かい気持ちになれて安心するそうだ。


ちなみに、どうして俺が2人と付き合う事になったかは、武道家相手に白魔導師が勝てるわけがなかったとだけ言っておこう。


勇者パーティの残る1人であるオージェスは1人肩身の狭い思いをしているのかと言えばそうではなく、なんでも結婚を約束した幼馴染がいるらしい。

初耳なんだけど?


そして俺は、追放されそうになったがそれはユリウス達が勝手に言った事であり国も教会もそんな気はないとの事でこれまで通り勇者パーティの一員として活動して欲しいと言われた。

これまで得られなかった報酬や諸経費の補填もされ、それだけではなく迷惑料や雑用をしていた期間の手当なんかも支給されたりとこれまでの事を正当に評価された事もあって、一度は辞めようかとも思っていたが、俺は勇者パーティとして活動していく事にした。

なんだかんだで、恋人が2人も出来て働き口も必要だしな。


「ロイ、そろそろ行くぞ。」

「ほら急いで。予約した時間を過ぎちゃうじゃない。」

「あ、ああ。」


そんなわけでまあ、今をそれなりに幸せに過ごしてます。

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俺、パーティを追放されるはずじゃなかったっけ……? 椎茸大使 @siitaketaisi

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