四十一、ダンジョン調査依頼 3

 さて、アリスはどうするか。まだモンスターはこちらに気づいていない。このままお互い気づかずに通り過ぎるか、モンスター側が気づいて向かってくるか、アリスが気づけるかだろうが、三つ目の可能性は少ないかな。まあ、向こうが気づいて襲ってくる可能性が高いだろう。


 ダンジョン内のモンスターは外にいる奴らとは少し違う。外にいるモンスター達はここにいる奴らと比べると少し大人しい。だからこそレベルも低いのだろう。


 ダンジョン内のモンスターはかなり気性が荒い。そのため、モンスターは近くに来た人間にはすぐ気づき襲ってくる。だからこそ、ダンジョンが管理されていなかった時代なんかは死者がかなり出たらしい。それから、ギルドの手によって管理され始めたのだ。


 俺は周囲を探る鑑定を使いモンスターの動きを探った。そして、俺達とモンスターの距離が三十メートルほどになった辺りでモンスターの方が俺達に気づいた。


 階層全てが草原と言っても短い草や少し長い草など様々であり、座っているモンスターの姿を隠してしまう場所もある。今回のモンスターは丁度そういった場所に隠れていた。


 ゆったりとこちらの様子を見ながら動くモンスター。


「マイルさん、モンスターがこちらを見ています」


 気付いた。俺は気づくまでにもう少し時間がかかると思っていたが、まさかこんなに早く気付くと驚いた。


「そうだな。たぶんいるのはオオカミ種のモンスターで以前戦ったことがあるレッドウルフだろう。Dランクだで以前戦った時よりもレベルが高いぞ」


「分かりました。マイルさんは手を出さないでください。私一人で戦います」


「分かった」


 アリスが自分から一人で戦いたいと言ったのを初めて聞いたため、それなら任せてみようと思った。


 そうと決まるとアリスの動きは速い。モンスターレッドウルフは俺達の背後へとゆっくり回り込んでいた。アリスはレッドウルフがいる方向へ体を向けると同時に、杖を構える。


 そして、


「ファイアーランス!」


 火の槍を五本出してレッドウルフに向かって放つ。そのことに気づき、危険を感じたレッドウルフをアリスの魔法を回避してこちらへと向かってくる。


 だが、


「狙い通りです」


 小声で呟くと、


「ウインドボム!」


 対象の目の前に風の爆弾を仕掛けて爆発させる。ただし、威力はかなり抑えてあり、驚かせる程度ではあるが、レッドウルフの動きが完全に止まった。


 そこへ、


「縮地!」


 一気にレッドウルフとの距離を縮めて懐へと潜り込む。その後、間髪入れずに腰につけている古龍の短剣で首を斬り飛ばし息の根を止めた。


 戦闘自体かなりスムーズに進んでおり、これもレベルアップの効果かと思う。見ている限りだが、身体強化のスキルも使ってなかったように見えた。


「終わりましたマイルさん」


 アリスは清々しい顔で戻ってくる。その顔からは疲れを一切感じない。


「凄かったよ」


 いつもは俺が指示を出し魔法を使っていたが、今回は全ての判断をアリスにゆだねていたがかなり良かったように思える。


「ありがとうございます。接近戦、久しぶりにしましたが凄く体が軽かったです」


「そう言えばこの一週間、魔法戦しかしてなかったからな」


 俺はこの一週間事を思い出す。お互いに武器がなかったが、アリスを成長させてやりたかった。だから、討伐依頼では魔法のみでモンスターと戦わせていた。


「そうだろな。あのモンスターの大群との戦いの時以来だからな。あの時に得た経験値でかなりレベル上がっているから当然だがな。それでも、流れる魔法の発動なんかもかなり良かったし、一階層の戦闘はアリスに任せられそうだな」


「はい、私頑張ります」


 凄く張り切っている。これはこれでなかなかの経験を積めるだろうと思っていた。そして、俺はこの一階層にあるであろうある物を探していた。このダンジョンの醍醐味ともいえる物を。


「そう言えばマイルさん、先程から辺りをキョロキョロして見られていますが、何か探されているのですか?」


 アリスから俺が待ちに待っていた言葉出た。


「よくぞ聞いてくれた。俺が一週間前にダンジョンの説明した時に、ダンジョン調査依頼には醍醐味があるって言ったこと覚えているか?」


「え~と、確か宝ですか?」


「そうだ。一階層にある物だからそれほどレア度が高い物は入ってないだろうが、それでもどこかにはあるはずなんだ。それをずっと探していてな」


 俺は話しながらも辺りを見渡すが何もない。かなり小さい宝箱に入っているので、中々見つけにくいのだ。


「私もお宝見つけたいです」


「俺もだ。だが、お宝探しに夢中になって辺り警戒を忘れるなよ」


「は~い!」


 俺達は、辺りをキョロキョロとしながら一階層の探索を続けていく。だがなかなか宝箱は見つからない。


「やっぱし、見つけにくいな」


「そうですね。お宝と言うだけあります」


 俺達はここでお宝を見つけるのを諦めて先へと進もうとした時、


「誰かー! 助けてくださーい!」


 二階層へと続く階段のあるところより声が聞こえてきた。それと同時に、俺達以外でこのダンジョンに潜っていたのであろう冒険者三人とすれ違ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る