六、報告
街へと戻ってすぐ俺達は冒険者ギルドへとやって来ていた。既に日が暮れ始めて空は紅に染まっている。この時間帯は冒険者ギルドへと戻ってきている冒険者が多く混みあっている。俺達もその中の一部であるため受付の列へと並ぶ。その間、周囲からの視線にさらされているアリス。なんだか辛そうであった。
「大丈夫かい?」
「は、はい。ですがいつもは混みあう時間をさけてきていたのでこんなに人がいるのは初めてで、それになんだか他の冒険者の人達から見られているようで……その~……」
この街でエルフ族はかなり珍しいと言うより、人以外の種族がいること自体が珍しいのだ。たぶんアリスもそのことを理解していたからこそ遅いく、人が少ない時間帯に冒険者ギルドへとやって来ていたんだと思う。
今回は俺がケイル達と鉢合わせをしたくなかったこともあり、街に戻って来てすぐに冒険者ギルドへとやって来た。だが、もう少しアリスの事を考えてやるべきだったと思う
「すまん、ごめんな」
「え!?」
「もう少しアリスさんの事を考えるべきだったと思ってな」
「そんなことは、マイル様は私の命を助けて下さりました。それだけで十分です」
「そうか、ならいいんだが」
「はい!」
笑顔で返事をしてくれる。
「でももしつらくなったら言ってくれ、列から外れてもいいんだからな」
「分かりました」
俺がそばにいれば問題はないか。他の冒険者も見ているだけで近づいて来ようとしないし。
暫くして、
「次の方どうぞ!」
受付の人が俺達の事を呼ぶ。
「二人分の報告依頼なのですがいいですか?」
「大丈夫ですよ」
俺はゴブリン七体分の証拠部位と依頼書を出す。それに続きアリスも薬草を五本と依頼書を出す。
「確認しますので、少しお待ちください」
受付のお姉さんは俺達の依頼書と証拠部位と薬草を確認している。
そして、
「確認いたしました。アリスさん、依頼達成おめでとうございます。それからマイルさん。依頼達成ですが、ゴブリンが二体ほど依頼書に書かれているより多いようですので、報酬にプラスさせていただきますね」
「ありがとうございます」
「ではこちらをお二人にお渡しいたします」
俺達は受けつけのお姉さんから報酬の入った袋を受け取る。中身は銀貨二枚と銅貨三枚、銅貨三枚分がプラスの報酬と言うわけか。
この世界のお金は、銅貨一枚が一ユルドと呼ばれている。この一ユルド銅貨が十枚集まると半銀貨になり、半銀貨が十枚集まると銀貨、銀貨十枚で半金貨、半金貨十枚で金貨になる。そして金貨が百枚集まると白金貨になるが、お目にかかれることなどそうそうない。
Aランク冒険者として一日銀貨二枚の報酬はかなり安い。まあ、今回行った依頼がEランクのゴブリン退治だったのだから仕方がない。自分を試すためだったのだからお金がもらえただけラッキーと言う物だ。
隣では報酬を見て笑顔になっているアリス。
「良かったです。マイルさんに出会えたおかげです。本当にありがとうございます」
「俺は別に大したことはしてないぞ」
「いえ、あのときマイル様に出会わなければ、私はここに戻ってくることも出来なかったでしょう。ですのでもし私に何かできることがあれば言ってください。何でもいたします」
グイっと顔を近づけてくるアリス。正直どうしようかと思っていた。ただ助けを求める声を聞いたから助けに行っただけ。それ以上でも以下でもない。なのにここまで感謝されると正直驚きである。
「ご迷惑ですか?」
そんな上目使いで言われたら、
「分かった。なら少し場所を移そうか」
「はい」
俺は行きつけの店へと移動した。ここならケイル達と鉢合わせすることもないし、個別の部屋もあり他の人に話を聞かれることもない。
「いいお店ですね」
「ああ、内装もきれいでかなり気に入っているんだ。それに料理もかなりうまいし、値段も安い」
「そうなんですね」
ここは俺がよく一人で来ている店で、安い報酬しかもらえていなかった俺でも頻繁に通えるようなお店だ。店長も女将さんも凄くいい人達で俺の心の癒しであった。
「今日は俺の奢りだから何でも好きな物を頼んでくれ」
「でも……」
「別に気にしなくていい」
アリスは申し訳なさそうにメニューを見ている。俺も自分の食べる物を決めようとメニューを見ていると、
コンコン! コンコン!
部屋のトビラがノックされた。
「どうぞ」
俺が声を掛けると、
「マイル君、いつもありがとうね。これは私達からの奢りだからね」
女将さんが水と一緒にパルタと呼ばれる麵料理を俺とアリスの分持ってきてくれた。
「いいんですか?」
「いいんだよ。マイル君はよく来てくれているからね。それに、冒険者の人達に紹介もしてくれているだろう。私達も感謝しているんだよ」
「そう言うことなら有難くいただきます」
お礼を言うと、
「それに今日は彼女さんと一緒なんだから、少しいいとこ見せときなよ」
耳元で囁かれた。
「そんなんじゃないですよ」
「おや! 顔を真っ赤にして慌てちゃって」
俺の正面に座っているアリスが、よく分からないと言う感じに首をかしげている。
「女将さん! からかわないで下さい」
「そうかい、そうかい」
俺の事を笑いながら戻っていった。
「マイルさん、まだ顔が赤いようですが大丈夫ですか?」
「気にしないでくれ」
「分かりました」
少しキョトンとした顔をするアリス。女将さんがあんなことを言うからまともにアリスの顔を見られなくなってしまった。これから大事な話をしようと思っているのに。
それから数分、俺とアリスは一切言葉を交わさず黙々とパルタを食べる。
そして俺は話を切り出すのだった。
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