未練ノ花畑

岡山ユカ

第1話 白いポピー

 …。

 …。

 …ん…。

 「…あれ…ここ…どこだ…?」

 ここは…一体どこだっけ。それに僕は…誰だったっけ。

 廃墟のような場所で僕は目覚めた。何も自分のことを知らない空白の状態で「眠り」から覚めた。辺り一面…森のようになっていた。植物のツタが古い建造物に絡まっていたり、建造物に苔が生えていたり、地面は長い間整備されていないような雰囲気だった。こういう光景はまるで廃墟という薄暗い雰囲気を持つ場所というよりも遺跡という森星な雰囲気を持つ場所に似ているような気がする。太陽が当たって色々光って見えるから廃墟と言える雰囲気ではない。…雰囲気だけでこうも場所が違って見えるなんて。本来はただの廃墟なんだろうけど…。

 「…そういえば僕…ここで何をしていたんだろう…。…何も思い出せない」

 思い出そうとしても空白だから思い出す記憶なんてなかった。記憶がどこかにあるような気がするけど…「気の所為」って事で終わらせる。…僕は「空白」だった。頭の中にはなにもない。色彩の記憶がない。色々な感情が混ざり合う色彩豊かな記憶…それがないから「灰色」になるんだ。

 廃墟のようには見えない場所…寂しい一つの色しかない。本来なら。…太陽で色彩豊かになっている。僕と対象的な場所…であり、似ている場所でもあるのかもしれない。本来なら一つの色しか持っていない、それは「灰色」しか持っていない僕と似ている。だけど太陽がこの景色を彩っているから様々な色を持っている。だから僕とは対象的なんだ。

 「…とりあえずここを散策してみようかな。何か分かるかもしれないし」

 様々な色を持つ場所を歩く。太陽が個々に色を強調させているから色とりどりに見えるんだ。…灰色の僕が歩いてもいいのかな。

 ここはまるで花畑のように色とりどり。そんな場所を歩いていると…僕はあることに気がつく。

 「…建造物の中に何かないかな。僕の記憶の手がかり…とまではいかないけど…この場所についてなにかわからないかな」

 古い建造物は…というより廃墟は倒壊の危険性があるから普通なら入ってはいけないんだけど…でも知りたいこともあるし…倒壊しないことを願って入るしかない。何かあったら…魔法を使ったらいいしね。…僕がどんな魔法を使えるのか分からないけど…。

 「…自分のことは何も覚えていないけど…知識は覚えているのかな。…あれ?魔力が体にないような気がする」

 気がするじゃない。本当に魔力が体内にない。…この場合だと大気中の魔力を使って魔法を放つ必要性がある。大気中の魔力を使って自分の魔力を温存する魔法使いはいるけどそれはだいぶ上級者向け…だったはず。自分の魔力じゃないから制御能力をだいぶ鍛え上げないといけない。…と…誰かが言っていたような気がする。

 やっぱり僕には記憶があるのだろうか。…まだ自覚していないけど…というかまだ思い出せていないけど…何か僕には秘密があるのかな。…知ったら後悔するのかもしれないな。…でも記憶喪失のままでいるわけにもいかないから。

 「…入ろう」

 少し倒壊しそうだけど植物のツタが…守ってくれる…かな?強度が十分にあったらいいな。

 「…古いなぁ…何年前の遺跡なんだろう。…部屋もだいぶ古いみたい。…何かないかな」

 古い部屋を散策した。それは隅々まで散策した。カビついたベッド、傷んでいる机と椅子、古びた本棚、割れている鏡…などなど。この中で一番気になるのは本棚だ。まだ本がある…腐食していなければ…ちゃんと読めるかもしれない。

 「…何々…」

 幸い腐食していなかった。だからちゃんと読める。少しかすれているけど問題なく読める。「ちゃんと」という部分は間違っていたかもしれない。

・・・・・・・・・

 日に日に人々が死んでいく。

 この地域は呪われている…魔女によって。

 自分が死なないために…魔女が根城にしているこの地域を去る事にした。

 私も去る事にした、そう私「も」だ。

 人々は死んで、そして死ぬのが怖くてこの地を去る。

 私もこの中の一人となる。

 私は思い出よりも自分の命を優先することにした。

 みんな…この地の思い出を捨て去った。

 強欲の魔女を恐れて…もうこの地へ戻ってくることはないだろう。

 魔女によって殺され、死を選ぶ事が分かったとなれば…怖くなる。

 …すまない、私も思い出を捨てることになる。

 この地は魔女がいなくなった時に慰霊の地として語り継がれる。

 魔女によって死んでいった者の慰霊碑も…全てが終わった時に。

・・・・・・・・・

 「…強欲の魔女…?魔女…?」

 なんだろう?僕…なんだか懐かしい感じを…記憶はまだ思い出せていないのに…。なんでだろう?懐かしい感じがしたのは…でも理由すらもわからないんだろうなぁ…。僕は僕自身に関する記憶を…全て失っているから…失っているというより…「忘却」…している。

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