第14話 決闘。


 魔術師の男の忠告通りに、薬術の魔女は周囲を警戒しながらグランドに向かう。


「(何も変なことなくない?)」


 気になることは妙に女子が多いこと、そのうち数名が厳しい視線をよこしたことくらいだろう。


×


 決闘場所のグランドに着くと、たくさんの見学者が集まっていた。


「(……なんだろ。何人か教師がいる)」


視察の魔術師達とかも。おまけに、なんか偉そうな格好の人もいる。


「(……貴族の扮装ふんそうかな)」


そして、決闘なのに意外と女子も多い。

 集まった学生達の数名は、魔術師の男が時折行う課外授業に何度か参加している者のようだ。おそらく、噂を聞きつけてやってきたのだろう。


「あ、こっちこっちー」


「飲み物、一応買っておいたわよ」


 友人達を探して周囲を見回していると、友人Bが薬術の魔女に向かって手を振り、友人Aも手に持った容器を掲げた。


「ただの私闘なのに見学者多くない?」


 と、薬術の魔女は友人Aと友人Bに問いかける。下手すれば、メインであるはずの武闘大会の不人気な者同士の戦いよりは多いかもしれない。


「あなた知らないの? あの転入生、割とモテるのよ」


「そうそう。特に最近は学年どころか教師とか色々構わずにファンとか作ってるんだよ」


「へー」


 なんだ、その1がモテ男で魔術師の男が顔の良い人だから人が集まってる感じ? と、内心で思う。

 他の、偉そうな人はもしかすると相手の魔術師の男が『宮廷魔術師だから』、集まったのだろうか。


「(そっか。少し心を入れ替えた(っぽい)その1は妙に偉そうなその態度を辞めてから、人にモテ始めていたのか)」


 あまり興味ないが。ついでに、そんな彼のファン達は『親衛隊』と呼ばれているらしいと聞いた。つまり、道中にすれ違った数名の女子達の正体はその親衛隊達。


「……なんであんなに廊下や通り道を陣取ってたんだろ」


 ちゅう、とベリーミックスハーブティーをストローで飲みながら、呟いた。


×


「びびらずに来たな」


「……何をおそれる必要が?」


「俺とお前の実力差に、な」


「……まあ。確かにただの仔鼠こねずみ猫魈びょうしょう……魔猫まびょう程の差が有りますが」


「それは、俺が『魔猫』って事で良いんだな?」


「……まさか」


 堂々としていて自信満々なその1と、ゆったりと佇む魔術師の男。周囲の声が騒がしく、何を会話しているのかは不明だが、あまり楽しいものではないだろうと予想はつく。


〈それでは、決闘のルールを再確認します〉


 と、音響用の魔道具を持った学生が仕切り始めた。


「あれ誰?」


「親衛隊の一人で、大体ああいう転入生絡みの勝負事に出張でばって進行と審判してる子」


「へー」


「……興味なさそうね」


×


 まずは、魔力さえあれば誰でも無詠唱で放てる魔弾をぶつけ合う、撃ち合わせ。

 二回、任意のタイミングで魔弾を撃ち合い、三度目の魔弾がぶつかった瞬間から本当の決闘が始まる。


〈1!〉

「はぁっ!」

「……」


 小型の杖を振るい、お互いが放った魔弾は大体二人の中間地点でぶつかり、弾けた。


「……互角、だな」

「同威力なだけしょう」


 決闘では、これで大まかな相手の強さを知ることができる。このタイミングで実力差を思い知り、降参することもあるらしい。


〈2!〉

「はっ!」

「……」


 やや強めに放たれた魔弾は、やや魔術師側で弾けた。


「……ふん、どうだ?」

「…………勝ち誇るに尚早では」


〈3!〉

「はっ!」

「……」


 放った魔弾が突如その1の


「ぐっ?!」


その1が後方に吹き飛び土埃が舞う。


 そして。


「……『勝負有り』、ではないのですか」


 土埃が少し収まったその場所には、地面に横たわるその1と、その側にしゃがみ、額へ小型の杖の先を魔術師の男がいた。


×


 あっさりとその1が負けた。


「はっ?! え、この流れだと、俺が勝つやつじゃ……」


「はて……一体何処に其の様な流れが在りましたかな」


 口元へ優雅に手をあて、魔術師の男は目を三日月のように細める。


「な、何故だ……他の魔術師達には勝てていたはずのに……!」


戸惑うその1に、魔術師の男は言い捨てる。


「……数名の、視察の魔術師に勝利しただけの癖に思い上がりもはなはだしい。其れに、わたくし魔術師とは違います故」


 実はこの魔術アカデミー内では、学生と教授以外は魔術の行使が難しくなる効果がかけられているのだ。


。唯の学生如きに遅れを取る等有るものか」


「……くっ!」


 その1は、悔しそうに顔を歪める。


「処で。貴方が敗北した際の指定……されておりませんでしたね」


「……近付くな、っていうのか」


「まさか。


 にこやかに笑みを浮かべた魔術師の男は、握手をするように手を差し伸べ、


「……」


不機嫌そうな顔をしながらもその1はその手を掴む。


「私が唯一言える事は——」


健闘を称えるように、憮然としたその1を引き寄せ


「『二度目はない』。……ただ、それだけで御座います」


 ぽん、とその背を軽く叩いた直後、その1は脱力したようにへたり込む。

 魔術を放たずに、手の表面に魔力の一部を込めた威嚇を行っただけだ。


「では」


 そして、その1を置いて魔術師の男は会場から去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る