天空に最も近いBAR「Heaven's Door」

命煌社

第1話・現実と仮想空間の狭間に存在する天国の扉

「Are you happy now?」


お客様の入店と同時に、スタッフはそう問いかける。


「Yes! I'm Happy Now !」

 

誰も足を踏み入れることができない生駒山頂に、人知れず存在するBARがある。それが「Heaven's Door」だ。


ここはリアル店舗がありながらも、リアル営業は行っていない。コロナ禍で外出自粛制限が世界中に広がる中で、その状況を逆手に取って営業を始めた不思議な店だ。


営業は、仮想空間のみ。


ZOOMというオンラインサービスを活用して開店するこのBARが提供するものは、エネルギーのみ。マスター曰く、通称「エネルギーBAR」らしい。まったくの意味不明だ。

 

にもかからわず、このおかしなBARには、作家・ラジオパーソナリティー・朗読家

主婦・アルバイター・たこ焼き屋・元スーパーニート・介護士・ヒーラー・イラストレーター・音声心理士・会社員などなど。


日本全国世界各地から多種多様な人たち、いや「変わり者たち」が、Heaven's Doorへと来店する。しかもこのBARは、今幸せを感じている人しか来店できない仕組みである。


「Are you happy now?」


「No I'm Unhappy Now...」


そう、もし今の私は幸せではないと答えようものなら。


「では、ここに来る前に、まずは心理学を勉強してきてください。日本メンタルヘルス協会がおすすめですよ!では、また!!」


と、客を返してしまう。まったくの意味不明な接客対応だ。しかし、なぜかこの店には人が次々と集まってきているようだ。


もうひとつおかしなことは、BARでありながら酒やソフトドリンク、食事などは客が各自で用意するスタイルという部分。オンラインで提供するBARだからこそ、物理的に料理は届けることは難しいにしろ、酒も、酒の肴も客が自分で用意するだなんて、そもそもBARですらないのではないだろうか。


それでも何故か不思議と、この店に人が次々と来店する。


気になった私は、この店に来店してみることにした。営業開始したのは、令和3年12月3日。毎週金曜日の23時から1時までの2時間のみで営業。なんともやる気がない店で、そんなスタイルで営業は成り立つのだろうか。


「正直、Are you happy now?とか聞かれても、答えたくないけどな。まあ、追い返されたら嫌だし、とりあえず形式的に答えておこうか・・・。」


次回は12月10日(金)、23時からオープン。今日は先週開店してから2回目の営業日のようで、マスターは比叡山に行ってきたらしい。そのエネルギーを届けていくという予告をしながら、乾杯は比叡延暦寺参拝記念日本酒「比叡の山桜・多賀」で行い、前菜は「比叡山延暦寺での不思議話」を用意するとのこと。


乾杯はともかく、前菜については、全くの意味不明である。


「まあ、これも忘年会の話のネタにでもするために、1回だけ参加してみよう。」


そう思って軽い気持ちで申し込みをした私だったが、まさかこの1回の来店によってとんでもない未来がやってくることを、この時の私は知る由も無かった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る