第9話 暗闇の日
童子たちは高校生らしき女子が例の児童たちと群れている光景を見て思わず驚いた。その女子は制服を着ていた。その制服は童子たちも通っていた「県立小百合高等学校」のものだった。
「おい、勇人見ろよ女子高生がみんなと戯れているぞ、」
童子は驚きを隠せなかった。児童と戯れたがるのは自分たちだけじゃなかったということに。そして、同族がいたという事に喜びもあった。それは人類が危惧している世界線で、自分以外のヒトを目の当たりにするのと同義だった。
「行くぞ...」
童子はそう言い、勇人は頷いた。そして童子たちは、恐る恐るみんなのところへ足を踏み入れた。
「こんちゃーす、遊びに来たよぉ!」
童子は緊張していたため作った笑顔で挨拶をした。そのとき、例の女子高生は童子たちを見つめていた。
「わー、おにいさんだー!」
真莉ちゃんは笑顔になってそう言った。そして、俺も笑顔になった。
すると、女子高生が童子たちのもとへ歩いてきた。
おいおい、なんで近寄って来るんだよ。俺たち怪しいやつじゃないんだぜ?いや、違う。これはあれだ、児童に近づいて来る俺たちを仲間だと思ったんだ。そうに違いない......。
童子はそんなことを考えながら手に汗を握っていた。
そして、女子高生が目の前まで来ると、笑顔でこう言った。
「もしかして、寿也と遊んでくれた方ですか?」
童子たちの驚いた顔を見て感じとったのか次に続いて、
「あー!私は寿也の姉です」
なるほど、そうきたか。確かに児童好きなのかもしれないが、弟と遊ぶのなら割と普通だ。つまり、俺たちと彼女は同業者ではなかったのだ。
すると、勇人が口を開いた。
「その制服、小百合高校のやつでしょ?」
何言ってんだ勇人のやつ、口説いてんのか?
そう思った童子は勇人のフォローをした。
「そんなもん地元なんだから見たらわかるだろ」
「俺たちと同じ高校通ってたって言いたかったんだよ!」
なん、だと...!?別に口説いてたわけではないのか?頑張ってフォローしようとしていた俺が恥ずかしいじゃないか。
そんな俺たちのやりとりを見ていた女子高生が質問をした。
「もう卒業したってことですよね。今おいくつなんですか?」
「あー、二十歳だね、」
彼女の素朴な疑問に、童子は次は大学はどこなのか訊かれるのではないかとビクビクしながら答えた。
「わー、3つも上だよ」
じゃあ高2くらいなのか?と童子が考えていると勇人がまったく同じことをきいた。
「じゃあ高2くらい?」
「そうですね、ちなみに私の名前『優梨』って言います。お二人の名前は?」
童子は、この子めっちゃぐいぐい来るなあと思いつつ、名前を言った。そして、勇人も名前を言ったあと、ナイスなタイミングで寿也くんがやってきた。
「お姉ちゃんはやく遊ぼうよ」
「あー、ごめんごめん」
そして、さっきまでやっていたドロケイに童子たちが参加して続きが始まった。やはり、公園で身体を動かすのは清々しいと童子は感じた。そんな時、優梨が児童を追いかけているのを見た。
優梨って結構スタイルいいし、胸もなかなかだよなあ...。俺の目のセンサーの調べによるとDは堅いだろう。
「あっ!童子さん今胸見てたでしょ!」
そして優梨が近づいてきた。
嘘だろ...ッ!?確かに結構離れていたじゃあないか!?あの距離でピンポイントで胸を見ていたことがわかったというのか!?
「男の人っていつもそうですね...!私たちの胸をなんだと思ってるんですか!?」
「魅力があるなと......」
童子はそう小さな声で呟いて論点をずらす為に続いた。
「それにしてもそんなすぐに気づくものなの?」
するとどうやら優梨は怒っていないようですぐに答えた。
「あー、たぶん私は他の子よりも敏感なんですよ。ちょっと前に痴漢されたんですけど、あれはなかなか気づけないと思うんですよね」
童子はその話を聞いた途端にその痴漢魔の顔が思い浮かんだ。
「自転車に乗ってた人?」
「えっ!知ってるんですか!?もしかして知り合いですか!?私交番に行ってそのこと伝えちゃったんですけど!?」
童子の想像した人物と優梨の想像していた人物が一致していたので、優梨は驚いた。
「あー、違う違う。この前その男の犯行現場を撮影して交番に行ったんだよ。どうしても許さなくてね」
またしても優梨は驚いて言った。
「じゃあその人をやっつけたんですね!すごいじゃないですか!」
「怪しかったから撮っただけでたまたまだよ。あとそんなに褒められたら流石に照れる」
誰にも言うつもりは無かった事件だったが喜んでくれる人もいるのだと知って童子は興奮していた。
そんなこともあって計11人で遊び回っていると日が少し暮れてきた。
「なんかもうドロケイ飽きてきたなあ」
槍杉くんが言った。
そのことは童子も感じていたし、勇人以外の全員がそう思っていた。
すると、寿也くんが提案した。
「そうだ、あの山に登ろうよ!」
そう言って寿也くんが指を刺したところには『潮谷山』があった。潮谷山はそこまでは高く無いが、それなりに複雑な道をしているので、活発な人にはスリルがあって気持ち良すぎだろ、と定評のある山である。
すると優梨が心配そうな顔をして言った。
「だめだよ!今から暗くなるんだから、もし迷子になっちゃったらどうするの!?」
童子はまあそう考えるのは当然だろうなと思った。自分は全然登りたいと思っているが。
他の児童たちは悲しそうな顔をしていた。おそらく山に登りたいと思っていたのだろう。
「暗くなる前に帰るから大丈夫だよ」
寿也くんはそれでもひかなかった。
「万が一を考えないといけないんだよ。せめてライトがないと安心できないでしょ?」
すると勇人は急にカバンを漁り始めた。そして、ライトを3本取り出した。
「ライトあるよ!」
空気読めよ。というかなんで3本あるんだよ。
童子はそう思った。
勇人のその言葉を聞いて児童たちは喜んだ。そして、優梨は仕方ないなあと言いたげな顔をした。
だが当然ここでリタイアする子がでてきた。それは由依ちゃんと小雪ちゃん、幸之助くん、吾郎くん。どうやら時間の関係で帰ることになったらしい。
優梨はこの帰省ラッシュに乗り遅れまいと寿也くんたちを帰らせようとするがうまく行くことは無かった。このとき、勇人はどういう気持ちなんだと勇人を見ると、槍杉くんと蒿里ちゃんと勇人がこそこそと会話をしていた。勇人も馴染んできているんだなと思った童子は微笑ましいと感じた。
なんだかんだでこの山には7人で登ることになった。勇人は優梨と童子にライトを渡して自分用はカバンに入れたままにしていた。2人のライトの電池が切れた時の予備らしい。
その山に設置されている微妙に長い階段を登っていると勇人が怪談を話してきた。
「そういえばここの都市伝説みたいなのがあるらしいんだけど、夕日が完全に沈むと怪奇現象が起こるらしいんだよね」
「へー、俺聞いたことないな...。どんなことが起こるんだ?」
まったく聞いたことのない勇人の語る都市伝説に、童子は興味深々で訊いた。
「なんか色々あるらしいんだよな、この山の近くに住んでいた少女が学校でいじめられていたらしいんだよな。それで親にそのことを話したら、『なんでそんなに協調性がないの?』って親にも見捨てられたらしい。勇気を出して話したのに悲しいよな。それである日、その子が自殺したらしいんだよな、ここの山でちょうど日が沈む頃に。だから皆んなはいじめたらだめだし、いじめられている子を見たら助けなけゃいけないぞ。それでその子が幽霊になってちょうどその時刻に登ってきた人を襲うらしい。」
「ちょっとそんな話しないでくださいよぉ」
優梨が少し怯えた声で言った。
「そんな話知ってて何で登ろうと思ったんだよ」
「まああくまでも噂だからな」
そう言って勇人は笑った。
児童たちはあまりその話を理解していないようだったが、自殺という言葉を聞いて怯えているようにみえた。
そんな話をしているうちに階段を登り切るとそこに道が続いていた。少し先に行くと分岐点がありさらに奥に行くとさらに分岐点があるといった感じなのだが、少し複雑になつているので童子たちはその道をほとんど、どんなものか覚えていない。その頃、相当あたりは暗くなっていて、もうすぐ日が沈むように思えたのでライトをつけることにした。
「なんかこうゆーのわくわくするなあ」
寿也くんが興奮した様子で言った。
「なんかちょっとこわいねー」
真莉ちゃんはそう言うが楽しそうに見えた。槍杉くんと蒿里ちゃんも案外楽しそうにしていた。子どもの好奇心ってすごいんだなあと童子は感心した。なんだかんだで一番怖がっているのは優梨だった。
「怖かったから来たくなかったの?」
童子は少しニチャアと笑みを浮かべ優梨に聞いた。
「そんなわけないじゃないですかぁ、危険だと思ったからですよ」
その言葉とは裏腹に優梨は動揺を隠せていなかった。
そんな会話をしている内に太陽は完全に沈み、辺りはライトで照らさないと形が見えないほどだった。結構道が長いなあと童子は思っていた。そしてその時、少し後ろの方から勇人の声が聞こえた。
「ちょっと、待って!」
とても慌てたような声であった。振り返ってみると、勇人はもう相当後ろの方に走っていて暗闇に消えていった。消えたのは勇人だけでは無かった、槍杉くんと蒿里ちゃんもその場に居なかった。
勇人は消えた2人を追って行ったのか?
童子はそう考えた。しかし、残された4人は次に何をすべきなのかわからずにいた。
9話 完 次回最終話
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