第3話 幼女に接近

 勇人との電話を終えた童子は、小学生たちの放課後の観察の準備を始める。小学生たちと言ったが、今回に関しては「坂田真莉」の監視に徹するらしい。

 「児童監視員」が結成されてから約一年が経過するが、放課後は公園での観察がほとんどだった。つまり、個人の観察は未経験なので、童子は少し張り切りつつも緊張していた。


 とはいえ、さっそく最初の壁にぶつかった。家がどこにあるかわからないのである。

これでは監視のしようがない。


 まずいなぁ......


 童子は始めはそう思ったが、登下校する時の道はある程度知っている。小百合小学校がある、この「雌蕊町めしべちょう」では、主に住宅地が広がっているのだ。角を曲がったところからは、公園からは死角で登下校の様子が見えないので、そこからは地道に表札を見ていくしかないが。


 結局、坂田家を見つけるのに一時間程度かかってしまったが、なんとか見つけることに成功した。正直、近所の人からは少し変人と思われていたであろう。変人ではなく変態だが。

 見つけてからは家から出て行く様子はなかった。が、夜の7時40分頃に自転車に乗って帰ってきた。家を探している間に出かけていたようだ。


 待ってて良かった、これは収穫だ!


 その日は水曜日で、真莉ちゃんは何かリュックを背よっていた。おそらく塾かなんかの習い事だろう。

 この時童子は、放課後までストーキングする、変人を超えたナニかであると悟られないため遠くから双眼鏡で見守っていた。



 そしてその夜が明け、木曜日の朝当然のように小学生たちが登校していた。その中には真莉ちゃんの姿も見えた。そのとなりには小林由依ちゃんの姿も、


 あっ、今こっち見た!


 どうやら由依ちゃんも童子のことを知っているようだ。



 そして、下校時刻になると二人の幼女が公園に入って、童子のところまでやってきた。


 おいおぃ、心の準備はしてきたが...、相手は小学生と言えど女の子だ...。おれからしちゃぁ、こんなの緊張しないほうがおかしいぜ!


 童子はこれまでに対女性の予防接種を受けたことがないので、女子に対する免疫がついていないのだ。


「おにいさんはなにをしてほしいの?」


「......えぇとね......」


 童二は真莉ちゃんの唐突でストレートな質問に戸惑った。そのせいで少し空気が重くなるように童二は感じた。


 早く返さないと...!


「......そうだなぁ、おにいさんはぁ......あ、頭を撫でてほしいかなぁ...」



 やってしまった。


 すぐに返さないといけないという焦りと、撫でてもらいたいという欲望が化学反応を起こしてしまった。


「......いやぁ、...いまのは.....あのぉ......」


 童子は小学生相手に申し訳なさそうに小声で言う。そうするしかなかった。


「いいよ!」


「いいの⁉︎」

つい叫んでしまった。

 そうか、小学生は警戒心があまり高くない。ましてや、俺のような男など不審者の内に入っていないのだろう。服を脱ぐなど、やりたくないことでなければ多分何でもやってくれるだろう。


「お、お願いします...」


 すると真莉ちゃんのちっちゃくて、柔らかくて、あったかい手が童子の頭にやさしく置かれ、撫で回された。


 これはイイなぁ......


「ほら、ゆいちゃんもっ」

そう真莉ちゃんが言い、少し恥ずかしそうに由依ちゃんも同じことをした。由依ちゃんはちょっとシャイなのだ。


「いやぁ、ありがとねわざわざ寄り道してまで元気づけてくれて。」


 童子はナニかが満たされたようだ。


「ぜんぜんいいよ!またあしたもくるからね!」

真莉ちゃんはそう言った。


 なんて心強いんだ。これもちゃんと勇人に報告してやるっ!童子はこれがいつまでも続けばいいなと思った。それは不可能と知っていていても。

                 3話 完

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