グレーテル怪奇譚

華夢

プロローグ

 ――病室番号は「一〇一」、少女は今日もスヤスヤと眠りに陥っている。青年は安堵の表情を見せ踵を返す、そのやりとりが今回に渡り何度目なのかも数えていない。

 アバターだとか、空想理論だとか、そういった事柄に溺れた人間はどうなるのだろうか。死後も尚、人は夢を見るのだろうか。夢というものは、本当に非現実的なものであろうか。

 青年は眠る少女を思い浮かべながら、出来事を日記に綴る。少女の代わりに、青年はラジオの空耳を聞き、部屋を片付け、花を生ける。

 少女が眠りから目を覚ますことを祈って、青年は重く冷たい誓いへと手を伸ばした。

 ラジオから歌が聞こえる、少女はゆっくりと目を開いた。白い服の裾が汚れぬように、空を飛び立つ彼に向かって手を振っていた。

 走り、走り、待っておりますと、声の限り叫び続けていた。


 罪を断つのは執行人、正しい道を照らすのは案内人。

 しかしその二人が、過ちを犯したらそれは悪となるのだろうか。ある人物の似たような問題が、どこかの世界に存在した気がする。

 ――これは、狂気を狂気と認識できない役者の話である。

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