第11話   リリーの結婚式(1)

 リリーは両親を迎えに行った。リリーの家の横には猛獣を閉じ込めるための檻が置いてある。リリーはそれを綺麗に拭いて、マットレスを敷いた。使用人が荷物を運んでくる。リリーが受け取り、檻の中に入れていく。


「お嬢様、幸せになってくださいね」

「ありがとう」


 使用人が声をかけてくれる。幼い頃から世話を焼いてくれた者たちだ。皆にそれぞれに思い出がある。リリーは皆にお礼を言う。


 最後に両親と兄がやって来た。


「リリー、頼むな」

「はい」


 運搬はリリーの仕事だ。


 季節は春になり、温かな陽気だ。


 春のワンピースは、少し窮屈になり、ビエントに新しく買ってもらった。


 兄がウエディングドレスの入った衣装ケースを持ってきた。リリーの顔を見て、兄が微笑む。リリーも微笑み返した。


 両親が乗り込んで、扉を閉める。


「行ってらっしゃいませ」


 使用人が声を合わせて声をあげた。


「行ってきます」


 リリーは答えた。


 両親たちが乗った乗り物を持ち上げながら空に浮かんでいく。


 家が見えなくなるまでゆっくり飛び、それからスピードを上げていく。


 すぐに王都に入った。ゆっくり高度下げていく。


 王宮に着くと、ビエントが待っていた。


 ゆっくり降りていく。そっと乗り物を下ろすと扉を開けた。

 父が出て母が出て、兄が出てくる。


「ようこそお越しくださいました」


「良い季候だ。天気も良さそうだ。良かったな」


 父は機嫌がいい。


 ビエントの後ろに並んでいた使用人が、荷物を下ろしていく。


「どうぞ中にお入りください」


「お邪魔をする」


 荷物は使用人に任せて、王宮に入っていく。


 客間は三つ用意されていた。荷物の部屋と兄の部屋。あとは両親の部屋だ。


「ようこそ、おいでくださいました」


 国王陛下が出てきて、両親を歓迎してくれる。


「上空は冷えませんでしたか?」


「温かな陽気で、気持ちが良かったです」


「それは良かった」


 使用人が応接間に案内してくれる。


 両親は長椅子に座り、その向かいに国王とビエントが座り、ビエントに手を引かれたリリーが座った。


 兄が目の前にいる。


 お洒落なカップが並べられた。温かな紅茶だろう。


「王妃様はまだご旅行でしょうか?」


 父が聞いた。


「王妃とは別居をしています。恥ずかしいお話ですが、うまくいかず、離縁をするわけにもいきませんので、別邸で暮らしています」


 リリーは初めて知って、ビエントを見た。リリーは本当に旅行に出かけていると思っていた。王妃様を追い出して、ここにいてもいいのだろうか?と急に心配になってきた。


「いいのですか?王妃様は私を認めてはいませんでした」


 ビエントの手がリリーの手をしっかり握りしめてきた。


「私が許可を出した。この国で一番権力のある私が認めたのだから、安心していい」


「……はい」


 リリーは俯いた。


「リリー、国王様がいいとおっしゃったのだから、心配しなくていい」


 父が声をかけてくれる。


 それでも、嫌な胸騒ぎがして、怖い。


「教会はこの国で一番格式の高い教会を準備しておる。結婚式の後、馬車で王都をパレードする。終点はこの宮殿になる」


「大々的な結婚式をありがとうございます。娘が幸せになれるように私たち一家は願っております」


 両親と兄が国王陛下に頭を下げた。


「式は明日だ。今日は宮殿で寛いでほしい」


「ありがとうございます」


 父と国王が和やかに雑談を始めた。


「リリー、大丈夫だから」


「ビエント様、私、怖いです」


「危険はない。絶対に守る」


「……はい」


 ビエントが大丈夫だというなら大丈夫なのだろう。けれど、リリーは怖かった。


 扉がノックされて、モリーが姿を現した。


「ごぶさたしております」


「モリー、元気だったか」


「はい。よくしていただいております」


「それは良かった」


「お嬢様、明日の準備を始めましょう」


「はい」


 リリーは立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。


 これから、ネイルアーティストが、リリーの指を飾る。その後は体を清め、オイルでマッサージをされて、全身磨かれていく。


「失礼いたします」

 

 リリーは退出した。


 磨かれる前に、乗り物を避けておかなければ。


 モリーに待ってもらい、乗り物を見えない場所に置くと、リリーはモリーと一緒に部屋に上がった。




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