番外編1 【ヴィラル様の憂鬱】


 

 魔王城。

 玉座で足を組み気怠そうに座る銀髪のイケメン魔族。

 彼の職業は魔王。

 魔王の代表的な仕事と言えば、世界の征服やそれを阻止せんとする勇者を倒す事である。

 だが、この魔王には世界を征服するつもりがまるでない。ゆえに勇者も攻めてこない。

 そんな彼の仕事は魔族の統率である。

 そして人間と魔族の共存の模索。


「‥‥‥めんどくせぇ」


 そもそも彼ら魔族にとって、人間など蟻と変わらないくらいの、ちっぽけな存在でしかない。死のうが生きようが本当にどうでもいいのだ。

 彼自身もそうだが、人間と共存など理解できる魔族は少ない。


「ほっとけば勝手に増えんだ、少しくらい数が減っても別にいいだろうに‥‥‥」


 今日も一部の魔族が人間と小競り合いをしたようで、彼は人間側からのクレーム対応に追われていた。


「もう、めんどくせぇ。お前行って謝ってこい」


「‥‥‥魔王様、私がですか」


 魔王は、肌が黒く羽根の生えた魔族を指差し指示を出した。


「誰かが頭を下げねえとおさまんねぇんだ。お前の部下が人間と揉めたんだろうが。責任とってさっさと行きやがれ」


「人間に頭を下げろと‥‥‥」


「嫌だったら部下の躾ぐらいしときやがれ。お前らも自分の管轄の者が不祥事を起こしたら、こうなるって覚えとけ」


 魔王の言葉に玉座の前に集まっていた魔族達は、溜め息をつきながら魔王の間を去っていった。




「‥‥‥めんどくせぇ。人間と共存なんて俺ら魔族には、そもそもできねぇんだよ‥‥‥」


 だが実は、前任の魔王は美しい人間の女性であった。

 彼女は突然魔王を辞任し、今は見染めた男の元へ行き人間の宿屋で働いているそうだ。

 彼は彼女に忠誠を誓い、どこまでも付いていく覚悟だった。

 その忠誠心が人間で言う淡い恋心だったということは、魔族である当の本人には全く理解出来ていないのだが‥‥‥。

 

「宿屋はねぇだろ‥‥‥。全部あのヤロウのせいだ」

 

「ヴィラル君、浮かない顔してどうしたの?」


 突然目の前に現れたのは、マスク姿の男。


「‥‥‥テメェは急に転移してくんじゃねぇ」


「急に転移出来ない転移魔法なんて、もう転移魔法じゃない」


 屁理屈を言うこの男こそ、彼から忠誠の対象を奪った人間である。


「人間のくせに、魔王城に簡単に転移してくんじゃねぇって言ってんだよ」

 

「‥‥‥何を今更言ってんの? そうそうヴィラル君、今日は良い話があってきたんだ」


 人間にとって魔族とは恐怖の対象でしかない。

 しかしこの男は、魔族の王にさえ畏怖することがない。

 ‥‥‥逆に礼儀すらないのだが。


「テメェの話が良かったためしがねえ」


「そんな事言うなら、連れて行ってあげないぞ!」


「‥‥‥話してみろ」


「実はトシゾウと今からコンパに参加する事になったんだ。人数が足りないから、ヴィラルも入れてあげるよ」


「‥‥‥コンパ? なんでぇそれは?」


 トシゾウとは創造主の事である。

 この人間の男は魔王どころか、この世界の創造主でさえ恐れる事がないようだ。


「人間との共存で苦労してるんだろ? 人間の事を知るいい機会になるぞ」


「ほう」


「ヴィラルは顔が良いから大丈夫!」


「‥‥‥顔?」


「初めは皆んな緊張するんだ。今回ヴィラルはただの人数合わせだから、気負わずに参加したらいいよ」


「‥‥‥人数合わせだと? テメェ、俺がまるで役に立たねえみてえな言い方だな」


「無理に頑張りすぎて空回りする。そして失敗へ‥‥‥これはコンパ初経験の全員が通る道だ。ヴィラル、あまりコンパを甘く見るな‥‥‥」


「テメェも俺をあまり甘く見んじゃねえ!」


「‥‥‥ヴィラル、自信があるのか?!」


「コンパぐれえ軽く屠ってやらあ」


 玉座から立ち上がり、拳を握る魔王。


「ヴィラル、いい心がけだな。初めてのコンパに挑むには、強い気持ちを持つことが大事だ」


「うるせぇ、テメェに講釈は受けねえ! さっさと連れて行け」


 人間の男は掌に魔力を込めた。

 転移魔法の構えである。


「じゃあ行こう。トシゾウと可愛い女の子が待っている」


「‥‥‥敵は女なのか?」


「ああ。ヴィラル侮るなよ!」


「舐めんな、油断なんかするわけねえだろ!」


 魔王が男の出した魔力に入ると同時に、2人の姿は一瞬で消えた。

 戦場であるコンパ会場へ向かうために───





 彼がコンパとは何かを理解したのは、創造主と魔王の参加する3対3のコンパが盛り上がりを見せ、帰るに帰れなくなってしまってからの事だった。




───────────────


最近何も書いてなかったので、サポーター様限定近況ノートに以前書かせてもらったものを、コッソリアップです_φ(・_・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る