70、天使VS悪魔に俺を添えて



 頭が痛い。

 目も霞む。

 うん、かなりやばい。


 目の前で大剣を担ぐ、ゴスロリ少女の強さに引いてます。


 ──もう一度逃げるか?


 まあ、無理だろうな。

 あれ以上の速さで逃げる方法なんて、考えつきません。


「あの、見逃してくれたりとか‥‥‥しませんよね?」


「‥‥‥」


 話し合いも無理ときました。

 ‥‥‥詰んでます。





「おいおい、やばそうじゃねえか」


 後ろから聞いたことがあるような、ないような偉そうな声。


 ──この展開は助っ人?!


 『天使ちゃん一号』に匹敵する強さの持ち主が、助けに来てくれたのか!

 期待を込めて振り向くと、イケメン魔族が胸を張って立っていた。


「‥‥‥いやいや、あなたじゃ無理ですって」


「‥‥‥なんだテメェ、せっかく助けに来てやったのに、なんか腹立つな」


 イケメン四天王ヴィラル様。

 ‥‥‥なんでお前なんだよ。

 

「ヴィラル君、助太刀はありがいけど、気持ちだけ頂いとくよ。今すぐ逃げたまえ」


「テメェ本当に馬鹿にしてやがるな。魔王様に言われて俺だって嫌々来てんだよ!」


 馬鹿にはしてない。

 ヴィラルは強かった。

 でもそれは、俺のレベルがまだ100前後の時の話。

 『天使ちゃん一号』は、レベル900を超えた俺でも苦戦してるんだぞ?

 

「‥‥‥ヴィラル、こいつは本当にやばいんだぞ?」


「それくらい知ってる。絶対テメェより俺の方が『天使ちゃん』について詳しい」


 ‥‥‥知ってるんだ。

 真面目な顔でイケメンが『天使ちゃん』って言うと、なんかツボに入りそうだ。


「‥‥‥可哀想に。ヴィラルは魔王に愛想を尽かされて、捨て駒にされたんだな」


「テメェいちいちムカつくな! んなわけねえだろ!」


「‥‥‥じゃあ何しに来たんだ?」


「だから助太刀だって言ってんだろ。テメェがもし祠に入る前に襲われることがあったら、助けに行けって言われてんだよ。まんまと見つかって襲われやがって」


 ‥‥‥本当に助けに来たんだ。

 こいつ、役に立つのか?!


「ヴィラル、お前『天使ちゃん一号』について詳しいって言ったな? 女神様が『天使ちゃん一号』なのか?!」


 せめて情報だけでも教えろ。


「お前そんなことも知らねえのか。こいつは多分『一号』だから、女神じゃねえ」


「‥‥‥なんかわかりにくい説明だな」


「女神じゃねえ事は確かだ。とにかく今はこいつをなんとかするぞ!」


 こんなに同じ顔で、別人とか本当にありえるのか?

 ‥‥‥しかしこの状況で、流石に嘘はつかないはずだよな。


 ──よし、信じよう!


 このゴスロリ少女は『天使ちゃん一号』で女神様じゃない。

 一つ悩みが解決した。


「ヴィラル、本当に戦うのか? お前そんなに強いのか?」


「テメェと戦った時は、手加減してたのにも気付いてねえのか?! あそこで俺が本気出してたら、勇者を本当に殺しちまってただろうが!」


「何言ってるかわからん!」


「説明は後だ、とにかく戦うぞ! アイツは女神じゃねえから、安心してテメェも本気で戦えよ! 俺1人じゃまず勝てねえ」


 そう言うと、ヴィラルは身体を中腰にし、歯を食いしばり力を入れだした。

 背中の黒い二枚の羽根からバチバチと稲妻が走る。

 稲妻は集まり黒い球体に形を変え、ヴィラルを包んだ。


 ──こいつ、何してんだ?!


 暫くすると黒い球体はフッと消え、中から身体が真っ黒の悪魔のような物体が現れた。

 顔は鬼のような形相で牙が凄い。

 背中からは黒く立派な羽根。

 身体の至る所から角みたいな突起が出てます。


「‥‥‥なに、怖い! 絶対、悪者だ!」


「‥‥‥テメェいい加減、真面目にしろよ」


 話せるんだ。


「変身したの?」


「どう見てもそうだろうが!」


 ゴスロリ少女『天使ちゃん一号』の仲間になりたいくらい、ヴィラルは悪魔的な変身を遂げていた。


「‥‥‥仕方ない。お前のせいでどう見てもこっちが悪者みたいになってしまうが、一緒に戦ってやる!」


「テメェそれが助太刀に来た奴に言うセリフか? 後で覚えとけよ!」


 なんとなく分かる。

 今のヴィラルは強い。

 完全に見た目の影響かもしれないが‥‥‥。

 見掛け倒しでない事を願います。



「さあ、こっちのターンからだ!」


 俺は石を構えた。

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