63、にらめっこ



 宿屋の一室。

 テーブルを囲む勇者と魔王と俺。

 物凄く変な空気。


「今回は遊びに来ただけで、戦う気はないと」


 切り出したのは俺。

 魔王が遊びに来たらまずいでしょう。


「そうだ。全然来ないからこっちから出向いた」


 ──これ、どうするの?


 勇者パーティーの倒すべき敵。

 その魔王が目の前で座ってます。

 本人は遊びに来たとか言っている。

 しかも、俺のことをお気に入りになったようですけど‥‥‥。


「魔王は世界を滅ぼそうとしてて、勇者パーティーは邪魔な存在じゃないんですか?」


「女神にそう聞いたんだろうが、そもそも俺は何のために世界を滅ぼすんだ?」


 俺が知ってる訳がない。


「‥‥‥普通は魔族の世界を作るために『このムシケラ共め』とか言って、邪魔な人間を滅ぼそうとするんじゃないですかね」

 

 RPGの定番。


「魔族の世界に興味はない。人間も生きようが死のうがどうでも良い」


 ‥‥‥なにこの無気力魔王。


「じゃあなんで、国を滅ぼしたんだ?」


 確か隣国が魔王軍に皆殺しにされて、滅ぼされたと聞いている。


「あれは、やらないといけない契約だったからな」


「‥‥‥契約?」


 誰と?


「‥‥‥あと、一つ言っておくが俺は魔族じゃない。人間だ」


「‥‥‥え?!」


「魔族に見えるか?」


「‥‥‥恐ろしく強かったので。顔も隠しておられますし‥‥‥」


 魔族を束ねる魔王が人間なんて事があるのか?


「よし、顔をもう一度見せよう。今度はよく見ろ」


「あ、大丈夫です!」


 もう鼻血を吹き出すのはごめんだ。


「‥‥‥そうか」


 なんとなく残念そうな魔王。


「俺を殺すために、四天王のボラギノ◯ルみたいな名前の魔族を使って、ポキ村の人を全滅させたのはなんでだ?」


「‥‥‥ボルディアな。あの時はニア、お前の存在が邪魔だと思った。村の人間を殺したのはあいつの勝手だし、俺は別に殺せとも殺すなとも言ってない」


 滅ぼす気がなくても、やはり魔王にとって人間の命の価値は低そうだな。


「同じ人間なんだろ! だから、これ以上人間を殺すな! とか言ったら怒るタイプですか?」


「わかった」


 頷く鉄仮面。

 ‥‥‥まさか、効果があった。

 言ってみるもんだな!


「ただし、条件がある」


「‥‥‥やっぱり」


 世界の半分をやるから、仲間になれとかですか?


「俺はこの世界でお前にしか興味がない。たまに遊んでくれるなら、言う事を聞いてやってもいいぞ」


 ‥‥‥なんですかその条件。


「遊ぶって、殺し合いじゃないですよね?」


 『ほら、ニアの腕が血飛沫をあげて飛んだよー』『魔王の足もズタズタでミンチ肉みたいだぞー』とか言い合う遊びは嫌です。


「何で好きな男を殺すんだ? お前は馬鹿なのか?」


 馬鹿とか言わないでください。

 賢くないのはコンプレックスなんです。


「‥‥‥じゃあ、何をして遊びましょうか」


 まさかバトミントンとかドッジボールとかじゃあるまい。


「男と女が遊ぶと言えば‥‥‥人間の言う、その、デートとかいうものじゃないのか?」


 ‥‥‥魔王とデート。

 魔王と街を一緒に歩いたりして大丈夫?!


「魔王城にも、たまには顔を出してくれ。茶くらい用意する」


 魔王はそう言うと立ち上がり俺の前に。


「‥‥‥何ですか?」


 座ってる状態から背の高い鉄仮面を見上げると、威圧感がハンパない。


「帰る前にやっておきたい事がある。転移魔法は使いこなせるようになったか?」


 ‥‥‥そんな事まで知ってるのか。

 本当に全てバレてるな。


「一応は」


「そうか、俺の顔をよく覚えとけ」


 魔王はそう言うと、鉄仮面を脱いでテーブルに置いた。


「ぐっ‥‥‥」


 その素顔は恐ろしく美人。


「‥‥‥綺麗!」


 隣に座るレイラも、呆然と魔王の顔を見つめている。


「ちゃんと見とけ、そしてお前も顔を見せろ」


 力の抜けた俺の顔から、マスクを取るのは容易だろう。

 強引に剥ぎ取られました。

 服を脱がされた気分。

 ‥‥‥なんか恥ずかしい。


「‥‥‥っ」


 自らダメージを受けておられます。

 美しい顔が赤く染まっている。

 ‥‥‥可愛い。


 ──いかんいかん。





「‥‥‥覚えたか?」


「‥‥‥はい」


 俺たちは、イソイソと鉄仮面とマスクを装備した。

 完全に事後。


「これでお互い、いつでも転移出来るな」


 ‥‥‥お互い?


「あの、転移魔法使えるんですか?」


「俺はだいたいの魔法は使える」


 さすが魔王というところ。

 だが、転移魔法なんて魔王に必要か?

 本来城にずっといる存在でしょう。


「俺も昔は色々と旅に出たからな」


「‥‥‥魔王も旅行とかするんですね」


 魔王に休日とかあるの?


「言ってなかったが、俺は元々勇者だったからな。お前らの使える魔法は全て使える」


「‥‥‥はい?」




 魔王が勇者?

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