22、いい匂い



『─────ますか?』


 ん?


『聞こえますか?』


 はい。


『貴方がサトシですね』


 今はニアですが?


『サトシ、貴方は勇者です』


 え? いまさら?!


『貴方は選ばれた人間なのです』


 選んでなかったくせに、急に選びなおさないで下さい。


『魔王が世界を滅ぼそうとしています』


 美しい女勇者はどうなったんですか?


『魔王を倒せるのは勇者だけ』


 こっちの話は基本無視っすか?


『魔王を倒すのです』


 おーーーい! 聞いてますか?


『さあ、立ち上がるのです世界の平和のために』


 嫌です。


『勇者サトシよ』


 嫌だってば。

 あなた女神でしよ?


『‥‥‥うるさいな』


 あ、怒った。


『私だってあんたなんか勇者にしたくないわよ! そもそもあんた、召喚もしてないのに勝手に転移してくんじゃないわよ』


 なんか、失敬な女神。

 俺はやっぱり召喚されてないんだ。


『あの娘が全然宿屋から出てきてくれないから、しょうがないじゃない!』


 あの娘‥‥‥美しい女勇者の事か?


『そうよ! せっかく勇者として召喚したのに、旅立ってくれない』


 ‥‥‥まさかの引きこもり系勇者。


『しかたないから、あんたを勇者にするわ!』


 勇者ってそんなコロコロ変えれるの?


『異世界から召喚した者は誰でも勇者の能力がある、誰でも良いのよ。というか勇者って名乗ってるだけで別に能力が上がるわけでもないし‥‥‥』


 なんか気に触る言い方だな。

 つまり俺はすでに勇者と同じ能力だと?


『そうよ、あなたは何かのイレギュラーで自分勝手に転移してきて、勝手に勇者してる自分勝手な存在』


 なんで俺のこと知ってるの?


『私は全知全能の女神、知らない事はない。ただ、あの娘は失敗だった。まさか宿から出て来ないなんて‥‥‥』

 

 その召喚した女勇者はこの後どうなるんです?

 ちゃんと元の世界に戻すの?


『‥‥‥一度召喚したら向こうには戻れない』


 酷い話。

 勝手に召喚して戻せないの?


『うるさいな、仕方ないでしょ、そういう決まりなんだから!』


 そして使えなければポイですか?


『‥‥‥うるさいな』


 女神っていっても万能じゃないんですね。


『私は努力した! あの娘の好きな料理を作ったり、欲しい物を用意したり』


 勝手に召喚して呼び出したんですから、あなたには責任があるでしょ。


『‥‥‥最近は部屋のドアも開けてくれなくなった』


 お母さんみたいですね。

 女勇者と話せます?


『説得してくれるの?』


 それはわかんない。

 我儘な女神に勝手に召喚されて、元の世界にも戻れなくて部屋に篭ってる、その女勇者の人悲劇すぎますね。


『‥‥‥私は悪くない』


 人選を失敗したあなたが悪いです。

 

『‥‥‥くっ』


 とりあえず一度会わせて下さいよ。


『いいわ。明日迎えをよこすから待ってなさい』


 はい。






「‥‥‥ん?」


 目を開けるといつもの部屋のベッド。

 いつもと違うのは綺麗なお姉さんが、横で寝てるくらいか。


 ──女神の啓示?!


「まさかね、女神にしては威厳がなさすぎる」


 変な夢を見た。

 まだ外は暗い。

 二度寝しよっと。


「いい匂い」

 

 アリスさんの髪の匂い。


「‥‥‥本当?」


 起きてた!

 

「お、おやすみなさい』


「‥‥‥うん」

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