第1想定 第13話

 USPの銃口から銃弾が飛び出した。認めたくなかったが、床を叩く薬莢の虚しい響きがその事実を突きつけてくる。

 発射された銃弾はアサルトスーツを突き破って胸部に進入。貫通したかどうかなんて分からない。いや、どちらにせよ重要区画バイタルパートをやられている。致命傷であることにはかわりはない。

 もう長くは持たないだろう。

 俺の目の前には血の海が広がっている。

「宗太郎……、宗太郎……」

 姉ちゃんが悲しい声で俺の名前を呼ぶ。

「なんでなんだ、なんでなんだよ」

 呆然と、それで現実を受け入れられないという様子で「なんでなんで」と繰り返しているのは俺だ。

 どうしてこんなことになってしまったんだ。

 姉ちゃんを守りたかった。みんなを守って基地に帰りたかった。

「姪乃浜っ! 宗太郎がっ!」

 姉ちゃんは泣き叫んでいる。

「ダメだな、俺……」

 でも、これでいいか。

 みんなを守ることはできなかった。

 だけど姉ちゃんだけは守ることができた。

 拳銃自殺を防ぐことができた。

 姉ちゃんが自分自身の胸に向けてトリガーを引く前に、USPを奪うことができた。姉ちゃんはちゃんと生きている。体のどこにも穴は開いていない。

 姉ちゃんの声が遠くなってきた。

 俺は姉ちゃんの弟だ。姉ちゃんのようにうまくはできなかったけど、姉ちゃんが俺からUSPを奪ったように、俺も姉ちゃんからUSPを奪うことができた。

 ただ奪ったのはいいけれど、トリガーに姉ちゃんの指が引っかかっていて、うっかり俺が自分の方に銃口を向けてしまって……ということだ。

 こんなことなら防弾チョッキを着てくれば良かった。

「宗太郎が死んじゃう! ボクのせいでっ!」

 姉ちゃんはなにも悪くない。無理にもぎ取ろうとした俺が悪いんだ。

 だから、さ。姉ちゃん。

 そんな悲しい顔をしないでくれよ。涙を浮かべた瞳で俺を見ないでくれよ。

 泣き叫ぶ姉ちゃんの声が遠くなっていった。

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