紙の上の無意識

天野つばめ

第1話 華やぐ

 私の物語の主人公はいつだって君だった。


 卒業式数日前に安請け合いした同窓会実行委員の仕事は、ここ数年ずっと親友の高井弘樹に任せきりだ。それでも、「高校時代は春那が俺の分もやってくれたから」と弘樹は文句一つ言わない。


 今日は同窓会。分厚いメガネを外して、いまだに慣れない手つきでコンタクトをつけた。長く伸ばした髪を巻いて、一張羅に着替えて会場の最寄り駅に向かう。いわゆる「陰キャ」だった学生時代に比べたら、多少は垢抜けたと思う。駅にはもう弘樹がいて、段取りを確認しながら会場に向かった。


「今付き合ってる彼女が春那のファンだって話ってしたっけ?」


「5回くらい聞いた。彼女さんに、ありがとうございますって伝えといてね」


「まあ、俺の方が春那の古参ファンだけどね。聞いてくれよ、この間彼女に友也推しって話したらさあ、弘樹はメガネキャラばっかり好きになるからメガネフェチなの?とか言い出して、伊達メガネかけ始めたんだよね。似合わないからやめてほしいんだけど」


 私は少年漫画雑誌で週刊連載をしている漫画家だ。少年漫画の女性ファンは昔からいたが、私の作品の場合は特に女性ファンが多い。主人公とその周りの人間の関係に「萌え」を感じると、毎日たくさんのファンレターが届く。私の出世作となった前作も女性人気は高い方だったと思う。


 現在の連載作品『Cracker Jack』は野球漫画だ。主人公の天才左投げピッチャー・一樹は学生時代野球部だった弘樹がモデルだ。一樹のチームメイトで親友の友也との深い友情が人気の要因と言われている。ちなみに、友也はメガネをかけている。送られてくるファンアートは2人が一緒に描かれているものが圧倒的に多い。


 野球漫画は先人が数々の名作を生み出してきた。令和の時代に野球漫画で天下を取ることは無謀だと言われたにも関わらず、アニメ化はもちろん、ドラマ化・映画化・舞台化と次々メディア展開し、社会現象になった。


「花房中学校45回生3年D組の同窓会を開会しまーす!」


 弘樹が学生時代と変わらないおちゃらけた口調で開会宣言を行った。学ランからスーツになっても、教室から立食パーティー会場に舞台が変わっても、弘樹はみんなの中心で輝いている。もう10年以上の付き合いになる私の自慢の親友だ。


 あの頃に比べたら、少しは弘樹の親友にふさわしい自分になれていると思う。

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