第七話ー④
ユーリィは、教えてあげる、って自分から言いだしておいて、なかなか口を開こうとしない。わたしをちらりと
思えば思うほど、風のように気ままで、掴みどころがないなあ、ユーリィって。
急に学園に現れて、急にわたしたちの部屋へ訪れて、急に帰ろうとして、急にイイコトを教えてあげる、と言ったのだから。
ユーリィの視線はさらに動いて、中空を
「あなたたち2人の仲、私にもとってもよくわかったわ。……これでもね、けっこう悔しい気持ちなのよね」
「……え、えっと」
いきなり、愚痴のようなことをぼやくユーリィに、どう対応していいか返答を
「ふふ、安心しなさいな。何も、2人の仲を引き裂こうってつもりは、さらさらないのよ。その、逆」
ユーリィはわたしの目を見ながら……に思えたけれど、もしかしたら、後ろに
なんとなくだけど、そんな気がした。
「素晴らしいほどの愛を見せてもらったから、応援してあげよう、って心変わりしたのよ」
一体この部屋にきて、わたしたちの何を感じ取ったのだろうか。
他人に、愛、だなんていわれてしまうと、鼻がむず
「別に、応援だなんて……」
「ニーシャの
「えっ……!?」
その単語に、わたしとクレアは同時に反応した。
まさか、まさか、ユーリィの口から、その言葉が出てくるとは思ってもいなかったから。ううん、それだけじゃなくって、何だかわからないけれど、様々な想いがわたしとクレアの中に凝縮されていった気がした。
わたしとクレアが出会ってすぐ。
まだお互いの関係も決まっていなかった、あの頃。
2人の目的が一致した日だ。一緒になって図書館で調べもしたっけ。
ニーシャの社とは、不思議な伝説を持つ地。
そこで挙式をあげたものには、それがどんな困難を
だけど、それ以外の詳細についてはほぼ不明。文献にも、どの地域にあるのか、どのように建てられてあるのか、まったく
ただ1つ、恐ろしく危険な未開の地にある、それだけがわかっている情報だった。
ニーシャの社について、2人で調べたあの日から。
毎日が幸せだったものだから、ニーシャの社のこと、最近ではすっかりと頭から抜け落ちていたのだ。
それを偶然にも、ユーリィが思い出させてくれるとは。
「ふふ、その顔。知っているみたいね」
ユーリィの声で記憶の中から現実に引き戻されると、わたしは
「わたしが知っているのは、名前だけ、だよ。詳しいことは調べても出てこなくって……」
「じゃあ、私が詳しいこと、教えてあげる。ちゃんと覚えておくのよ」
何気ない口調で語るユーリィだったけれど、わたしには
どうして、ユーリィはそんなことを知っているの?
もちろん、それもびっくりしたんだけど……。
それよりも、ニーシャの社について知ることができる。そう考えたら、心臓が踊っているかのように、ワクワクとしだしたのだ。
わたしはクレアの
「ふふ。ニーシャの社はね、ここからずうっと北上した地、ヨルド地方にあるレイキッド山脈を越えたその先。フェミルの森にあると言われているわ」
静かに、ユーリィが
それは、まるで文字が空間に浮かんでいるみたいに、わたしの体全身に、深く深く、刻み込まれていった気がした。
ユーリィはそれだけを伝えると、あっさりと帰っていってしまった。
わたしには余りにも衝撃的な内容だったため、
帰り際、ユーリィは、
「私もエリナさんみたいな可愛い女の子と、ニーシャの社目指したかったわぁ。また、お相手、探さないとね」
なんて、冗談のような、目が本気のような、ふわふわっとした
……ユーリィが女の子を好き、って気持ちは真剣なものなんだろうね。
きっと出会いとかは少ないだろうし……わたしのことも、全力だったのかも。
ちょっと申し訳なくなっちゃうけれど、しかたないことだよね。
だから、ユーリィが少しでも幸せになってくれるように、願いだけを
自室には、わたしとクレア、2人だけの世界が戻ってくる。
ユーリィがいてくれた時間は、多少なりとも
「フェミルの森……」
クレアがぽつりと呟く。
ユーリィがついさっき教えてくれたこと。
どうしてユーリィがそのことについて知っていたのかは不明。だけど、彼女が嘘をついているとは思えなかった。
「クレアは、どんな場所だか知ってる?」
「……いえ、名前だけしか聞いたことがないわね。何せ、未開の地、って言われているくらいなのだから」
わたしたちの通うオディナス学園。このトールデン地方から、かなり北上した地。北のヨルド地方に存在するレイキッド山脈ですら、人々は訪れないという。
その山脈を越えた先に広がるのが、フェミルの森。レイキッド山脈には、かなり危険な魔物がうようよとしているらしい。命からがら、山脈を抜けたとしても、待ち受けるのは迷宮のような森。魔物の数も増えるらしいのだ。しかも、フェミルの森にはめぼしい資源がないため、開拓は見送られている。
わたしたちは、そんな場所を目指しているというのだから、気を引き締めさせられた。
……果たして、
それに、ニーシャの社は、どうしてそのような未開の場所に建っているのだろう。
不安と疑問だけが、わたしたちの部屋に渦巻いていた。
「大丈夫よ、エリナ。私がもっと、強くなるから。絶対に、2人で行きましょうね」
「……うん。わたしだって、頑張って勉強して、魔法を覚えるから。絶対に、行こうね」
「ええ。エリナと結婚をするためにも……絶対に……」
結婚――。
いざ、結婚する、って考えたら、目がチカチカとするほど、心臓が高鳴っていた。
女の子同士なのに、本気で結婚を目指している。
そして、わたしだって、そうしたいと思えるようになっていたのだから。
「忘れかけてた目標、ユーリィに思い出させてもらっちゃったね。……でも、わたし、もう忘れないよ」
「そうね。なんだかんだ、彼女も悪い人ではなかったのね。私、警戒しすぎていたみたいだわ」
クレアは照れているのか、後頭部をかきながら
「あの人がね、エリナを無理矢理奪い去っていったら……って考えちゃって、気が張っていたのよ。相当の使い手みたいだから、私でエリナを守りきれるのか、不安になってしまったわ」
「あはは、考えすぎだよ。でも、クレアがわたしのこと、そこまで想ってくれていて、嬉しい」
クレアがユーリィを
でも、笑ってばっかりもいられない。クレアですら、自分の実力が信用できなくなるほど、強い存在がいるってことなんだから。ユーリィはたまたま、わたしに危害を加えようとする人物ではなかったけれど……。
だから、わたしだって腕を上げて、クレアをサポートできるくらいには……ならないとね。
「クレア、安心して。わたしはもう、クレアの前からどこにも行かないから」
「……ええ。2人で、目標のために、一緒に頑張りましょう」
「うん!」
クレアと改めて
でもね、2人で歩む道だから、決して
しっかりと見えてきた、将来へのビジョンなのだから。
わたしは明日からの授業、もっともっと気合いを入れて
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