11・二人だけの旅立ち

「エリザ。力を貸してほしい」

「言われなくてもだ。私はあいつらを絶対に許せない」

 強く拳を握りしめるエリザ。

「でも、きっと政府を、敵に回すけど」

「ネイサ、私を見損なうな。次そんな事を聞いてきたら、本気で怒るぞ」

「うん、ありがとう」

 ごめんとは言わなかった。


「それでどうするんだ? 奴らを追うのか?」

 家を出てすぐに尋ねるエリザ。政府との決別の決心か、もう警備隊の制服は着ていないが、腰に下げたレイピアが、その凛々しさを失わせていない。

「最初にここに来た3体のゴーレム。あいつらが俺を見つけたろう時から、キーリアたちが来るまでの時間を考えると、その足は相当速い。今頃はもうディスギアに帰ってると思う」

「要塞都市ディスギアか」

「ああ、最悪あそこと全面戦争になる。だから2人じゃ無謀すぎる。仲間がいる」

「当てはあるのか?」

「いくつか。まずはニグテグント魔術学校に行こうと思ってる」


 ルメリアにいくつかある魔術師育成機関である魔術学校。その中の1つ、ニグテグント校は、その名の由来である、所々に生い茂る木々と、流れる川が美しい都市ニグテグントの外れ。


「それは大丈夫なのか? 魔術学校なら政府に通じてるのでは?」

「”命の書”の歴代の所有者たちには。けっこう政府に潜伏して隠れ蓑にしてた魔術師も多いんだよ。今はニグテグント校の校長を勤めてるクラストは、実は俺の4代前の所有者なんだ」

「4代前って、まだ生きてるのか? まさかそれも”命の書”の?」

「いや。あの人もただの人間じゃないらしくてね。ただの長生き」


 しかし実際、”命の書”には寿命を伸ばす術もいくつか書かれてはいる。ただ代々の所持者たちの中に、それで生き長らえた者はいない。妙に長く生きていてしまえば、それだけで政府の目に止まってしまう可能性があるから。その危険を犯してまで、とにかく長く生きたいなどという者は、そもそも所持者候補にもされない。


「ところで、あの3体がお前を探しにきたというのは、なぜわかったんだ?」

 ふと気になったエリザ。

「あの3体が探索用なのはすぐわかった。お目当ての俺を見つけた途端、目の色を変えたから」

 ネイサほどの魔術師なら、ゴーレムの動作少しから、その用途や能力に気づくのは容易い。

「お前が”命の書”を持ってるという事を、奴らは元々知ってたのだろうか?」

「この街に潜伏してるかもしれないって事まで知ってたのかもしれない。さすがに何の根拠もなく、兵器と認識されてるゴーレムを、人に化けさせてまで街に放ったりしないと思う」

 しかしもうそんなに自信はなかった。現に今回の事態の原因の一端は、ネイサが敵の狂気を図り間違えていた事にあるのだから。

「しかしそんな事を奴らはどうやって」

 尋ねるエリザにもその答の予想はついていた。

「考えたくはないけど、考えられる事は1つ」

 そう1つだけ。

「俺の事を知ってる者が奴らに通じてる。多分、し、俺の先代の魔術師だったルイーヤの仲間の誰か、だと思う」

 しかしはやり、それは考えたくない可能性であった。

「ああ、クラストは絶対に違ってるよ、あの人はそもそも俺と面識もないし。ただルイーヤを通じて存在をお互いに知ってるだけ」

 だからこそ、今、最初に助けを求める相手として、ネイサは彼を選んだのである。


ーー


「私も、一緒に行けたらよかったのですが」

 満室の病院に遠慮し、自宅療養中のルード。

「義手の調子は?」

 彼に義手を造ってあげたのはネイサだった。

「ああ、予想してたよりずっといい感じだ。これもまた非常に感謝するよ」

 しかし戦闘を満足にこなせるような状態ではない。

「ルード、お前の分まで、私は必ずあいつらを」

「はい。しかし隊長、どうか、どうかご無事で」

 もう警備隊でなくなったのだから、エリザは隊長でもなんでもないと、いくら言ってもルードは聞かなかった。

 そして、それから彼にも別れを告げると、ネイサたち2人はドロンを去り、ニグテグントへと向かって出発した。

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