クリエイテッド・ライフ
猫隼
1・魔術師の機械の国
ある時代。ある惑星という球体の表面上に人が築いた、国という名のいくつもの世界。その中で一番の大国ルメリアを支えているのは、国の政府が抱える、不思議な力を操りし魔術師たちの秘技。
特に、“
「だが限界はある。ホムンクルスは成長の速さに比例し老化も早い、生殖も出来ない。ゴーレムの方も、その素材はかなり限られていて、何より大量生産が簡単な人工物質を使えないのはかなり惜しい点だ。それに奴らときたら、行動は生物的でも、動きはどうしても機械的すぎる」
ルメリア政府の若手政治家、ボサボサの髪にメガネが似合うヴェイグの不満。
ヴェイグは、ルメリアの貴族階級の大半を占める
アクアリナは7つの一族の中でも最も劣った者たちであるとされるが、ヴェイグは若くして、そのアクアリナの血筋の者がつくことの出来る最も高位の政治階級"ナイト"に属している。
「十分だろう、何が不満だ?」
女性のように長い赤髪の青年ラッカスが問う。1年ほど前から、ヴェイグの護衛を任されている魔術師。
「いや、大いに不満だね。やはり必要なのは」
そこでヴェイグはちらとラッカスを見る。
「“
「ほんとにそう思うかい?」
まるで試しているように、何かを確かめようとしているように、無表情を崩さない赤髪魔術師にヴェイグは詰め寄る。
"命の書”。
それはルメリアのあちこちでいつ頃からか囁かれ始めた噂。“生命創造術”に関する全てが書かれているという遥か古代の魔術書。そこには、現在は失われてしまった、不死のホムンクルス、あらゆる素材で作る事が可能な(もはや機械とは呼べないほどに)生々しいゴーレムなど、いわば、より優れた生命体を創造できる奥義が詰まっているとされている。
「もし」
何も答えないラッカスに痺れを切らしたように、数分の沈黙を破るヴェイグ。
「もし、それが存在するのだとしたら」
「それを持つ者は、もはやこの国どころか、世界を支配できるだろうな」
それは素直にラッカスも認めた。
世界の支配。
決して大袈裟ではない。それによって作れるかもしれない、不死の軍や、知恵を与えられた特殊物質の軍。現在の、生身の兵士や、強大な力を持つというだけで知能の欠片もない機械兵など、全く相手にならないだろう。
「その通りだよ。そして」
そこでヴェイグは、ラッカスからやや距離を取り、窓際の椅子についた。
「もしじゃなく、それは存在するさ。確かにな」
確かにそうなのだろう。実際に”命の書”は存在している。少なくとも存在している、とルメリア政府の実質トップといえる最高階級"キング"の政治家たちは信じている。
「あいつらは野心もまともな知恵もない、まるでただの国の飾りのような奴らだし」
"キング"の階級につけるのは、ルメリア貴族の七大一族の内、最も優れているとされているパドギアスの血筋の者のみ。そして条件はそれだけ。
「奴らが今の地位に満足していないとは思えない。奴らは人が用意できる物は何でも手に入る。食べたい時に食べ、寝たい時に寝て、何の不自由もない。生まれた時からそんな環境なんだから」
口にすると、自分を含めたこの国に生きる多くの者がなんと哀れか。まさに自分たちはパドギアスのグータラ共のために生きているかのよう。
舌打ちして、気分を落ち着かせてからヴェイグは続ける。
「そして現実に、彼らは”命の書”を探している。それもかなり必死に、無駄になるかもしれない大量の時間をかけて」
「本気で信じているからだろうな。本気で信じているから必死になる。ありもしない自分たちの野心のためではなく、自分たちの身を守るために。それを手に入れたら間違いなく、自分たちを始末して国を乗っ取るだろう存在がいるから」
「僕のような、ね」
今や楽しげなヴェイグ。
確かに
「”命の書”、か」
それだけ呟くラッカス。
その頭には一人の少年の顔が浮かんでいた。
今、自分がいる、街そのものが要塞として機能している、ルメリアの首都ディスギアからずいぶん離れてる、とある都市で、静かに暮らしてるはずの1人の少年。
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