第4章 魔神覚醒

第44話 古代神殿の探索


 翌朝。俺とエイラは森深くにある遺跡――邪教の地下神殿跡へ向かった。


 アースドラゴンが地上に出るときに開いた大穴を使い、ロープを使って地下へ降りる。

 遺跡に入る前、俺はガントレットを召喚して左腕に装着した。

 フルフェイスの全身アーマーは機動力が損なわれる。

 狭い地下ダンジョンでの探索クエストには、軽装モードが一番だ。


「お邪魔しま~す…………って、暗いな」


 幸いにも奥へと続く通路は瓦礫に埋まっておらず、すぐに見つかった。

 だが、天井から差し込む自然光だけでは奥の様子はわからない。


「シズ。ランタンを頼む」


「了解」


 エイラに促され、ランタンに火を灯す。

 遺跡の通路は、大人二人が肩を並べて歩ける程度の広さがあった。


「壁に描かれている模様に見覚えがある。邪教徒が建てた神殿で間違いないようだ」


 エイラは壁面を手探りで調べて、足下を確認しながら慎重に歩みを進める。

 罠の探知を得意とする斥候クラス、探求者エクスプローラーの本領発揮だ。

 そんなエイラは、壁面を調べながら長いため息をついた。


「はぁ~……ワタシもクロと留守番したかったなぁ」


「何をアホなこと抜かしてやがる。専門家が来ないと遺跡の調査ができないだろ」


「はじめてのお留守番だぞ? 美人なエルフと可愛らしい幼女がひとつ屋根の下。何も起きないわけがなく……」


「何も起きねぇから黙って歩け!」


「お養父さんはつれないなぁ」


「誰がお養父さんだ。クロは誰にもやらん!」


 俺は小声で怒鳴るという器用な真似を行いながら、エイラを促す。

 エイラは突然真面目な表情を浮かべると、俺に問いかけてきた。


「実際どうするつもりだ? クロの記憶が戻ったら親元に返すのか」


「当然だろ。クロは俺の顔を見て『パパ』と呼んだんだ。誰かに育てられた記憶がなければ、大人の男をそうは呼ばない」


 俺が育った養護施設には、親の顔を知らずに育った子供もいた。

 あいつらは他人を自分の親と勘違いしたりしない。親に愛された記憶がないからだ。


「だから、どこかにクロの両親がいるはずだ。会える場所にいるのなら親元に帰したい。クロにとってそれが一番の幸せだろうから」


「……そうか。おまえの気持ちはよくわかった。もしも預け先に困ったら私に言うといい。花嫁として迎える準備はいつでも整っている」


「んなもん整えるな。ほら、アホなこと言ってる間に着いたぞ」


 長い通路の先には、深い闇が広がっていた。

 声が反響しない。ランタンの光も闇に飲まれてしまう。かなり広い空間のようだ。

 夜目が利くゴブリンなら不自由なく過ごせるのだろうが、人間もエルフも闇の中では足下も覚束ない。


「モンスターの気配はないようだな。シズ、ランタンを高く掲げてくれ」


「何をするつもりだ?」


「奥に燭台が見えた。火蜥蜴サラマンダーに頼んで部屋の明かりを灯してもらう」


「わかった」


 俺は頷き、ランタンを胸の高さまで掲げる。

 エイラは目を閉じて精神統一を行い、蝋燭に宿る火蜥蜴サラマンダーに呼びかけた。


「炎の精霊、火蜥蜴サラマンダーよ。この場を照し出せ」


 エイラの呼びかけに応じて、ランタンの炎が左右に揺らいだ。

 数秒のタイムラグの後、前方の燭台に炎が灯る。

 すると俺たちの目の前に、複雑な模様が刻まれた石の祭壇が姿を現した。

 それと――――


「コイツは…………なんだ?」


 俺たちが立っているこの場所は聖堂だったのだろう。

 石の祭壇の背後に、巨大な石像が安置されていた。

 その姿をひと言で形容するならば、巨大な目玉だった。

 球体の正面に一つ目が描かれており、側部には無数の手が生えている。

 背中側には、三日月のようなオブジェを背負っていた。

 グロテスクな造形だが神々しさも感じられる。

 この像はおそらく――


「魔神像だ。古の時代、魔神は巨大な一つ目の化け物の姿で地上に姿を現したそうだ」


 俺の予想通りの答えをエイラが口にする。


「どうやらこの祭壇で儀式が行われていたみたいだな。像そのものからはマナは感じられない。ただの置物だろう」


 ひと目でただのオブジェだと見抜いたのか、エイラは魔神像を無視して周囲の床を調べ始めた。


「このタイプだと祭壇の裏に……」


 エイラはそう答えながら、祭壇の前で身を屈めた。

 土台部分に顔を近づけ、出っ張りのようなものを触ると――


「当たりだ」


 大きな音を立てて、床の一部がスライドした。

 床下に敷き詰められていたのは――





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