第37話 謎のダークエルフ登場。その名はエイラ

 

 ダイアナと別れたあと、俺は屋台でふかし土鬼芋ノムイモとソーセージを二人分注文。

 お腹を空かせていたクロは、あっという間にペロリと平らげてしまった。


「美味しかった~」


 クロは食後の飴ちゃんを舐めながら、満足そうに商店街を歩く。

 俺はクロの手を掴みながら、商店に顔を出して支度を調えた。

 遺跡探索用に長めのロープやランタン、予備の松明なども購入する。

 ひと通りの装備を買いそろえたあと、余ったお金でクロに洋服を買うことにした。

 大通りで露店を開いていた行商人に声を掛け、在庫を見せてもらう。


「試着してもいいですか?」


「かまいませんよ」


 地元の店ではなく、行商人に声をかけたのには狙いがある。

 行商人は異国を渡り歩いており、取り扱う服のバリエーションが豊富だ。

 普段使いするなら、ダイアナのお古もよかったんだが……。


「俺の目に狂いはなかった! クロにはフリフリのワンピースが似合うと思ってたんだ!」


「てれてれ……」


 クロはレースがついた青いワンピースを着て、気恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「このお洋服、似合ってる……?」


「すごく可愛いぞ。お姫さまみたいだ」


「えへへ。ありがと~」


 クロはワンピースドレスが気に入ったのか、その場でクルリと一回転。

 まるで花が咲いたかのように、ドレスの裾がふわりと舞った。


「おいおい。ウチの娘は最強可愛いかよ。天使か? 天使だな。生まれてきてくれてありがとう。笑ってるだけで尊い!」


 冒険者セットを購入するついでに、俺はクロのために生活用品を買いあさった。

 久しぶりに大金が入ったのもあって、テンションが高くなっていたんだろう。

 その結果――


「おかしい。気がついたら金貨が1枚しか残ってない……」


「パパ。ウチって、びんぼーなの?」


「わかってたが金使いが荒いんだよなぁ……」


 後悔先に立たず。今日も散財してしまった。

 そうなの。ウチって、びんぼーなの。


「ふんふふーん♪」


 ワンピースドレスにお召し替えしたクロは、鼻歌交じりに通りを歩く。

 長い黒髪もツインテールにまとめて、軽やかさと上品さを演出。

 どこに出しても恥ずかしくない世界一の美少女が爆誕した。


「さて、と……」


 俺はクロの手を握りながら、建物の陰へ視線を向ける。

 クロの生活用品を買いあさったのは、もうひとつ別の理由があった。

 俺達を付け狙うストーカーの出方を窺っていたのだ。


「まだこっちを見てるな……」


 物陰から視線を感じる。獲物を狙う鷹のような鋭い視線だ。

 今までつかず離れずの距離を保って様子を窺っていたが、相手もしびれを切らせたようだ。こちらに接近しつつある。


「クロ。迷子にならないように、パパの手をしっかりと握ってるんだぞ」


「うん!」


 俺はクロの手を引いて商店街を抜けて、薄暗い路地裏へ回り込んだ。

 三方が背の高い壁に囲まれており、唯一の出入り口は俺が通ってきた狭い入り口だけ。

 罠だと悟ったのだろう。俺たちを追いかけてきた視線の主は自ら声を発した。


「フン……まんまと誘き出されたようだな」


 声の主は狭い路地に木靴の音を響かせ、ゆっくりと近づいてくる。

 ハスキーな女の子の声。間違いない。やはり”ヤツ”だ。


「クロはパパの背中に隠れているんだ」


 クロを背中に庇い、左の手の甲に刻まれた勝利のルーンを指でなぞる。

 すると、どこからともなく腕色のガントレットが召喚されて、左腕に自動装着された。

 アガートラムの本体は、左腕のガントレットだ。

 手の甲に刻まれたルーンをなぞれば、いつでもどこでも召喚できる。


「久しいな、シズ。こうして顔を合わせるのは2年ぶりか?」


 やがて俺たちの前に姿を現したのは、エルフ特有の細長い耳を持つ銀髪の長身美人だった。

 その肌は日焼けしたような褐色で、瞳はマグマのように紅かった。

 胸も大きくて、ウエストが細くて、おっぱいがでかい。大事なところなので2回言った。


「エイラ……やっぱりおまえだったか」


 彼女の名前は、エイラ・リラ・ライラ。

 とある事情でエルフの村を追い出された、ダークエルフだ。

 エイラは切れ長の瞳を妖しく輝かせて俺を睨む。

 俺も負けじと、クロを背中に庇いならエイラを睨み返した。


「私がここに来た理由はわかっているな?」


「クロがお目当てなんだろ?」


「ふふっ。察しがいいな」


 エイラは長く艶かな銀髪を掻きあげ、不敵に口元をつり上げる。

 エルフ族は誰もが美形で、エイラも例外ではない。

 女に飢えたそこら辺の男だったら、今の微笑みでイチコロだっただろう。


「パパ……」


 空気を察したのか、クロが俺の背中にしがみつく。

 俺はエイラと目を合わせないように横へ一歩移動して、クロの体を隠した。


「その子を庇うか。親にでもなったつもりか、坊や?」


「つもりじゃない。今は俺がクロのパパだ。親が子供を護るのは当然だろ?」


「おまえはそういうヤツだったな。口に出す言葉はすべて新芽のように青臭い」


 エイラは丈の短い深緑色のスカートを揺らして、腰ベルトに差した木鞘から銀の短剣を引き抜いた。


「まずは邪魔者を消すとしよう。話はそれからだ」


「やるってのか」


「私にはどうしてもその子が必要でね」


 エイラはニタリと口元を歪めると、銀のナイフを身構えて――


「痛い目にあいたくなければ、黙って幼女を渡せ!」


「誰がおまえのようなヘンタイに渡すか! このロリコンエルフ!」


「ロリコンだと? ハッ! 笑わせる」


 エイラは無駄に高い鼻でせせら笑うと、大きな胸に手を当てた。


「私は小さくて可愛いものが好きなだけだ! 年下で見た目が幼ければ男の子でもいける!」


「余計にタチが悪いわ! エルフは何百年も生きるんだろ。ほぼすべての人間が守備範囲じゃねぇか!」


エルフの話を聞いていたのか? 小さくて可愛ければ、と言っただろう!」


 エイラは紅い双眸を見開き――


「おまえのような、くたびれたオッサンはこの世で最も唾棄すべき存在! 目障りだ。私の前から消え去るがいい!」


 問答の途中でナイフを投げてきた!




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