ボイスパイ

シイカ

ボイスパイ

 

 この奇妙な話は少し、湿った風が吹く6月も末のある日の午後に始まった。

 道路を行き交う自動車が途切れると、どこからか、気の早いセミの鳴く声が聴こえる。

 そんなある日だった。

 夢野カヨはある事件を任され、秘密裏に噂されている『ボイスパイ』とコンタクトを図っていたが意外にも簡単に電話番号と合言葉を手に入れることができたので、早速、電話をかけることにした。

 コールが三回鳴ったところで繋がった。

『はい、こちらドキドキピザです!』

 若い青年の明るい声が聴こえてきた。

 明らかな嘘で騙そうとしている情報はすでに掴んでいる。

 カヨは合言葉を言った。というより歌った。

『静かな湖畔の森の影からもう起きちゃいかがとカッコウが鳴く』

 電話の向こうでにやりと青年が笑ったような気がした。

 青年は続けて。

『カッコウ カッコウ』

 と歌った。

『地図は明日の朝には届きます。では、また後ほど』


 次の日の朝、ポストに宛名の無い封筒が入っていた。中身は地図だった。

「ふーん。思ったより近いんだ」

 レンガ造りが印象的なビルの脇の階段を登ると「VS」と書かれた扉があった。

 ショートカットに制服のようなブラウンの清楚なスーツ姿のカヨは深呼吸してノックをした。

 扉からガチャリと音がすると中から背が高くて黒いスーツに身を包んだ女性がいた。

「いらっしゃい」

 澄んだ凛々しい声で言われてカヨは胸が高鳴った。

 入るとすぐに事務所だった。

 女性は窓際にある大きなオフィスチェアに腰かける。

「依頼人の夢野カヨさんですね?」

 リアのカヨの第一印象はもし、大学生なら、さぞや男子生徒にモテるだろうというものだった。女性のリアが思うほど、カヨは可憐な乙女に見えた。

「はい。『影月リア』さん……ですよね」

「夢野さんとは一度お話してます」

「いえ、今回が初めてのはず……」

「はい、こちらドキドキピザです!」

 リアから電話で聴いた青年のハッキリとした声が発せられた。

「確かこんな声だったかな?」

 カヨは茫然とした。

「すごい。知らない人から知ってる声がする」

「はは。面白い例えだね」

 リアは青年の声のまま笑った。

「すごいですね。スパイ稼業だけでなく声優にもなれそうですよ」

 カヨの純粋な感想にリアは下を向いて震え出した。

「……なんだよ」

「え?」

「声優なんだよ! こう見えて! ていうか、この仕事が副業なんだよ」

 リアは元の声に戻り、目の幅涙を流しながら言った。

「え!? 普通、逆じゃないんですか」

 リアの急な取り乱しはまるで子どものようで声も可愛らしい女の子っぽい声になっていた。

「私はまだ声優を諦めてないぞ!」

「こんなすごい技術なのにどうして副業なんて……」

「すごい技術を持っていても選ばれないときは選ばれないんだよ」

「なんか、すみません。声優の世界って大変ですね」

「ああ。スパイ業の方がまだマシだ」

「そうだ。それで今日依頼に来たんでした」

 カヨは鞄から資料を出した。

「うう……。何々、巷を騒がす! 高速の泥棒?」

 リアはまた洋画吹き替えのFBIの声のようになって資料を読み上げる。

「はい。高速の泥棒というのは文字通り、すばしっこいどろぼうです」

「そりゃ、泥棒だからすばしっこいでしょうね」

「そこでリアさんのお声をお借りしたいのです」

 リアは一瞬考え込んで、すぐに納得した。

「なるほど……面白い。良いでしょう」

「ありがとうございます」

「犯人は怪盗気どりで犯行予告を送ったら必ず、日付と時間を守ります。そして、とにかく、足が速いです。しかも、音を立てずに」

「オッケーわかった」


「なるほど」

 リアは屋敷の見取り図を見ながら頷いた。

「警備員の数は?」

「いません」

「は?」

 リアは見取り図を見ながら、あることに気付いた。

「間仕切りやドアをこうして塞ぐと渦巻状の一本道になってしまう。そうまるで、龍門だ。ああ、だから龍門館か」

 龍門というのは、古くからある図形で、その原型は古代ギリシャまで遡るが、日本では、

 ラーメンの丼に描かれることから俗に『ラーメン模様』などと呼ばれている。

「龍門か。それなら簡単だ。一つだけ仕掛けをしておこう。賊がどこから侵入してくるか、わからないけどここだけ……」 

 そう言いながらリアは一つのドアに×を付けた。

 ガッチリ施錠して開かないようにする。

 カヨは恐る恐る訊いた。

「ほかには?」

「無い。強いていうならアンタがアタシの言うことを的確に聞くこと」


 高い石壁に囲まれて、広い庭園を持つ、敷地の中に龍門館はあった。名前だけ聞くと、

さぞや、古くて気味の悪い洋館という感じがするが、実際に、目で見ていると洋館と言うよりは平成の時代に建てられた洒落たレストランか装飾過多なカラオケハウスもしくは辺境に不釣り合いなラブホといった雰囲気で、なんだか、リアリティのない、赴きにリアは少しばかり、拍子抜けした。

「これが龍門館ね……なんだって、こんなところでデッカイダイヤの展示かなー? まあアタシが考えることじゃないか」

 そうこうする内に長い陽は落ちて、夜が来た。

 犯行の予告時間だが、屋敷にいるのは、リアとカヨの二人だけ。そしてもう一人。

 どこからか入ってきた泥棒だ。

 そして、泥棒は今まさに、展示されたお宝を取ろうと手を出した。

 

「リアさん、ずいぶん落ち着かなさそうですね」

「今日、オーディションの結果が出るんだよ……」

「え、大丈夫なんですか?」

「大丈夫。仕事は必ずやり遂げる。……よし来い」

 大きく息を吸い込むと、リアは掌で口元を覆った。

 そして泥棒がダイヤに触れた途端、僅かに籠ったアラームとデジタル録音特有の機械的な女性の声で警報が響いた。

『緊急事態が発生しました。この警報は自動的に警備会社と警察に通報されています。自動作動により全ての窓と扉は三十秒以内に施錠封鎖されます』

 アナウンスに続いて次々にカギのかかる音。

 泥棒は握ったダイヤをポケットに入れると、一目散に入ってきたドアから室外へと続く廊下に駆けだした。

 この数秒間の経緯にカヨも目を瞬いて驚いた。

 警報。アナウンス。施錠の音。いったいどうなっているのかは解らないけれど、それらの声も音も、となりにいるリアから出ているのだ!

「リアさん! 三十秒だって! あたしたちも逃げなきゃ!」

「ウソだよ、ウソ。警備員もいない屋敷に、そんな防犯システムがある訳ないじゃないか。

今のは、泥棒を、この部屋から追い出すためなんだけど、予想以上に効いたな」

「えっ? それじゃ、今のはトリック?」

「そう。人間ってやつは音以上に目をアテにするから、暗い所で聞いた情報は全部信じてしまうし、実際には何も起きていないのに確認もせず、まず、視界のある方に向かって逃げ出す。事実、逃げ出したろ?」

「でも! ダイヤは捕られちゃったし、あいつは足が速くて!」

「ダイヤって、これか?」

「えっ? えーっ?」

「最初からこんなんでいいんじゃなかったのか? 誰も見ない時間に本物をおいておくほうが臆病な泥棒より不用心なんだ。あいつが持って逃げたのはガラス製のイミテーション。……そうは言っても五千円もしたんだからね、経費で買い取ってよ。私は要らない」

「それじゃ、泥棒は偽物を持って素早く逃走中……?」

「あー。速いといっても屋敷の中じゃ全力疾走は出来ない。むしろ、速く走るほど間仕切りや壁に速く突き当たる。途中の窓やドアにはカギがかかったと思い込んでる泥棒はひたすら侵入してきた通路をジグザグに戻るしかない。だから、退路のドアをひとつだけ完全封鎖した訳だね……そうすると……屋敷の中をぐるっとまわって、となりの部屋へ出る」

 手に持ったバナナを胸の内ポケットにしまいながらリアは嘲笑った。

「……私たちに背中をむけた状態でね」

『リアさん、b地点に犯人向かってます』

「了解。予想通りだ。……ンン……と」

 十字に組んだ腕をキュッと絞めて準備運動。

 いったい、この余裕はどこから湧き出すのだろうか。

 慣れないカヨは気が気でないが、リアは全く動じていないらしい。

 その証拠に、薄笑いを浮かべつつ解説と感想を述べている。

「カヨ。あんたに聞いた特徴だと泥棒は、とにかく脚が速いっていう事だったけど、頭はあんまり良くないらしいね。ある程度の知識があって、相応の訓練を受けたヤツなら、もう、2分ぐらい前には罠に気付いて逆進するなり、立ち止まって窓や扉の施錠を確認するものなんだけどな。でも、あいつは実験迷路に放された小動物と一緒だ。具体的に目視できる障害物を避けて前進するしかしない。まさに『猪突猛進』ってヤツだ」

「ちょとつもーしん? なんかアニメで聞いたことがあるけど……」 

「そうね。『猪』ってのはイノシシのこと。『突』は真っすぐ。猛進は全力で走ること。普通はリスクをを恐れずに物事を成す人の性質を表すのに用いられる言葉だけど、もともとは文字通りイノシシをはじめとする野生動物の習性を示していた。……あと10秒。」

呼吸でカウントをとっているのかリアは、まるで時計を見ているかのようにハッキリと数字を述べたかと思うと掌を頬にあて、その場で旋回しながらカヨが驚くほどの大声、それも、ひとつひとつがトーンの異なる成人男性の声で叫んだ。

 この声が室内の壁に当って反響し大勢の追っ手がいるような錯覚に陥るのだ。

「犯人いたぞ!」

「上だ階上へ逃がすと面倒だぞ!」 

「逃がすな! 地上階の退路を完全に塞げ!」

 リアは青年の声を出し、b地点に向かって叫んだ。

 犯人の足音が止まり、角を曲がったらしく足音が遠のいて行く。

 リアの声色擬態の技術は、もうイリュージョンマジック

「カヨ、今度はどこ?」

『e地点を向いて下さい』

 e地点それは泥棒が幻の追っ手から逃げている場所。

 すなわち、この部屋の、ほぼ真下にあたる。

 リアの叫びは厚さ10センチあるコンクリートのフロアを通り抜け、恐らく、その背後に最も近い位置から泥棒の耳に入ったはずだ。

 だとすれば、これはまさにリアのプラン通り。

 後ろが塞がれている……そう思い込んでいる泥棒の足音は、一瞬、立ち止まり今度は見取り図上に示されたている階段を昇り始めた。

「……当り。あの泥棒。もう終わりだ」

 リアの唇が冷徹な嘲笑いを浮かべた。

「カヨ。ここからは仕上げだ。あんたにも働いてもらう。なあに。そんなに難しいものじゃない。その扉の両側の壁に、私と向き合うかたちで背中をつけるんだ。……そう、神社の狛犬みたいに向き合って。そうそう。後はこれだ」

 言いながらリアはベッドに敷くシーツをカヨに投げて寄こした。

「シーツ?」

「そっ。臆病な泥棒は間もなく、この部屋に戻ってくる。そして部屋の中にある……そうだね……家具でも何でもいいから、そいつで窓を割って……ふふふっ……ホントにカギがかかっている訳じゃないから、素直に開けれはいいんだけどね。まあ、窓を割って表へ飛び出し、張り出した地上階の屋根をわたって地面に飛び降り、庭園を横切って……まあ、とにかく、屋敷の敷地内から外に逃走したい……と、こんな、ざっくりとした計算をしているんだろうけれど、そうはならない。予定通りにいくのは、この部屋に入って来るまでだ。後は私の『舞台演出』通りになる。いい? カヨは、泥棒の動きが止まったら、そのばで駆け足ステップ。同時に、いま渡したシーツで壁を叩く。なるべくバサバサって音が出るように。分かる? いや。分からなくていいから、そうして。できるでしょ?」

「う……うん?」

 その場で大きく足踏みをして、シーツで壁を叩く。

 やることはわかったけれど、なんだか、ずいぶんと間の抜けた動作に思える。

 第一、それらの動きが何の役にたつとというのだろう?

「あ、あのう、リアさん。……これに何の……」

「あ。今、説明してる時間はない。ほら、もう足音が廊下の端まできてる。とにかく、あんたは一切、声を出さずに私の言った通りをしてくれたらいい。作業分担ね。OK?」

 こうピシャリと言い切られては、カヨは頷くしかなかった。

 そうこうするうち、泥棒は息をきらせながら最初に出て行った、この暗い部屋に戻ってきた。しかも、その予想通り、リアとカヨに無防備な背中を見せた状態で……である。

 カッ……っと、故意に靴底で床を踏み鳴らし、泥棒の背後に迫ったリアは胸の内ポケットから取り出したさきほどのバナナを泥棒の背中に押し付けながら、ひどく凛々しい成人女性の声で、こう告げた。

「FBIよ! 武器を捨てて両手を床につけなさい! 早く! 今すぐに!」

 ……今度はお色気お姉さんの声え?

 カヨは思わずふき出した。

 しかし、冷静に考えると、シーツで壁を叩くことによって、その場に大勢の人がいるように聴こえるし、その場でしている足踏みも追ってに包囲されたかのように錯覚してしまうのは自分が目を閉じればわかる。

 そこへ持ってきて、バナナの拳銃を感触として、背中に突きつけられれば、泥棒の心理には背後のリアがスーツ姿の金髪美人になってしまうし、一人しかいないリアは数人の屈強な警察官として脳内再生されてしまうだろう。

 暗闇で聴く音は追い詰められた者には、唯一の身を守る情報であり、真実なのだ。

 リアの謀略はそれを見事に逆手に取ったトリックであった。

 カヨは「スゴイ……」と思わず呟いた。

 犯人は、思わず凍り付き、キョロキョロと辺りを伺った。

「おいおい……お色気お姉さん探してんじゃないよ……」

 リアは小声でツッコミを入れた。

 でも、それは耳に入らないらしく、泥棒は、まるでよく調教された猛獣のように……というより催眠術にでもかけられたかのように、素直にリアの指示に従い、四つん這いになって悔しそうな声で言った。

「武器はない……! 俺には黙秘権がある……弁護士を呼んでくれ」

 だが、それをリアの厳しい口調が遮った。

「黙りなさい! ここは日本よ! 海外ドラマ見過ぎじゃないのっ? あんたに権利なんかないわ! それともマグナム弾を喰らって警察のいない世界へ行く?」

「わ……わかった。いう通りにする! 撃たないでくれえっ!」

海外ドラマの見過ぎっていうなら『FBI(アメリカ連邦警察)』の女性捜査官がわざわざ日本語で話すんだろう? ドラマの見過ぎはリアさんのほうでは……とカヨは内心に思ったけれど、こういう場面で余計なツッコミは良くないかな? ……そう思い直すと、足音を忍ばせて退出し、スマホで警察に、この一件を通報した。

 十数分後、踏み込んできた本物の警察が室内の明りをつけると、泥棒は狐か狸に騙されたかのような、茫然とした表情のまま、拘束され、パトカーに乗せられて屋敷をあとにした。

 かくして、龍門館の宝石窃盗事件は幕切れとなった。

 当然、リアもカヨも警察に呼ばれて、一通りの事情を聴かれたが、泥棒が怖くて、二人抱き合って震えていたと言う幼稚極まる嘘に担当の刑事さんも可愛そうにと同情し、お菓子やジュースをたくさん買ってくれた。

 余談だが、そのときのリアの泣きマネはお腹を抱えて笑いたくなるほど、リアルであった。

 この技術を悪用したら大変なことになるだろう。


「はい、これ報酬です」

 リアのオフィスに戻ったリアとカヨはまず真っ先に報酬の受け渡しをした。

「おっと、これを貰う前に、訊きたいことがある」

「なんですか」

「今回の龍門館の一件。確かに、無事に解決したけど、腑に落ちないことがたくさんある。考えてもみろ。この為に作られたかのような屋敷の構造、漫画チックな事件展開。それから、謎の依頼人……」

「謎じゃないですよ。私が依頼したんですから」

「いや、アンタは頼みに来ただけじゃん。この報酬さ、アンタが個人的に用意できる金額じゃない。それは、全部において言えることなんだけど、まるで大がかりなゲームだ」

「でも、ダイヤも本物だし、泥棒は本当に指名手配犯だったし」

「そうだよな。だから、結果的に、泥棒を捕まえた警察の大金星だな。では、その状況を用意したのは誰だ」

 カヨは下を向き言った。

「それは……私のおじいちゃん……です」

「ほう。アンタのおじいさん。お金持ちなんだな。それ、誰? アタシが知っている人?」

井腹部彰いふくべあきら

 その名を聞いてリアは目を丸くした。

「井腹部彰! アタシでも知ってる有名な探偵じゃない! アンタ、その孫なわけ?」

 井腹部彰。その名を知らない人はいない。

 大昔ならともかく、今の世の中に、探偵なんかと思われるだろうが、実際、 井腹部氏は、警察の依頼で数々の怪事件の謎を解き、犯人逮捕に尽力し、リアが生れる、遥か前からその名を知られ、彼の氏をモデルにした、たくさんの映画や舞台にもなっていて、リアがその名を聞いて驚いたのは、彼女自身がそれらの作品を自分で見ているからだった。

「そうか。豚の神様殺人事件とか、グローバルイノベーション横領事件とか嘘つき村事件とか、そんなのを解決した天才………………」

「おじいちゃんには会った事もないし、顔も知らない。でも両親のいない私を育ててくれたんだ」

「……カヨ、アンタ何者?」

「ハイドランジャー6号。おじいちゃんが、創設した諜報組織。非合法のね」

「6号ってことはアンタもスパイか」

「リアさんが見抜けなかった唯一のトリックね」

「見抜くか。普通。秘密を知ったらどうなる?」

 カヨはニッコリ笑って。

「消えてもらいます……なんてするわけなく、仲間になってもらいます」

「だろうな、この展開から言って」

「さっきのは報酬。契約金の方はリアさんの隠し口座に振り込ませていただきました。三千万円ね。これで貧乏声優もやめられるでしょ」

 リアは腕を組み、野太い声で言った。

「それは断るでごわす」

「なぜ急に相撲取りに」

「私は声優になりたいのであって、お金じゃない」

 カヨはまたニコやかに言った。

「ああ。声優はやっててもらって結構ですよ。スパイをアルバイトだと思えば」

「元からそのつもりだ」

 こうして、二人の奇妙な関係が始まった。


 リアのポケットからジリリリリリと昔の電話のような携帯音が鳴った。

「はい! 『月影凛子』です!」 

 月影凛子はどうやらリアの芸名らしい。

「はい! はい! え!? 役が決まった! わかりました! 失礼します!」

 リアは涙を流しながら、なぜかカヨにハイタッチした。

「わー。リアさん合格おめでとうございます!」

「ありがとう!」

「どんな役なんですか?」

「海外アニメの主人公の飼い猫!」

「は、はぁ……」

 カヨはそれがどれほどすごいのかわからず曖昧な返事をした。

 リアほどの技術を持ちながらなぜあまり声優の仕事がないのか一番の謎だとカヨは思った。

 天才は人に知られるから天才なんだ。

 明日、アナタが出逢うであろう知らない人から知っている声が聴こえたら。

 ボイスパイはアナタのすぐ側にいる。











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ボイスパイ シイカ @shiita

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