途中経過報告と臨時編成部隊募集告知

 それから――


 それぞれの行動は順調に展開されつつあった。

 

 プロアは独自のネットワークを使って闇夜のフクロウの周辺事情を掘り起こして行く。その結果、突き止めたのが現在の首領が〝若い女性〟だと言うことだ。


 軍警察本部の庁舎にて私はプロアの報告を受け取る。


「まだかなり若いらしいな。詳しい素性や本名などは未確定だが、調査に携わる手数がもう少し増えれば、そいつの名前や素性はもっと深く掘り下げられるはずだ」


 彼の報告を聞き、私は次の指示を出す。


「では軍警察の捜査員の人たちと情報共有してより深く情報を探ってください。今回はあくまでもあちら側に捜査行動の主導権がありますので」

「もちろんそれは俺も理解してるさ。俺が見つけた情報は軍警察にも伝えておく」

「お願いします」

「じゃあな」


 そう言い残すと彼は速やかに次の行動へと移った。とにかくフットワークが軽いのは彼の最大の特徴だった。

 

 その次に私の所に現れたのが、正規軍に銃火器新部隊を編成させるつもりのドルスだった。正規軍との最初の交渉の結果をダルム老と一緒に持ってきたのだ。


「ドルス、ダルムさん」

「ルスト隊長、正規軍との間で話がまとまったぜ。ダルム爺さんの交渉のおかげだ」

「俺だけじゃないさ、ドルスのだんなのプランがよくできてたってことさ」


 二人の活躍により正規軍との交渉は思いのほか順調に進んだようだ。


「それで今後の段取りは?」

「それなんだが、正規軍の編成事務局で募集告知を出してくれるそうだ」

「こいつがその募集告知だ」


 そう言いながら一枚の紙を渡してくれる。

 そこにはこう記されてあった。

――――――――――――――――――――――――――

【臨時編成部隊、志願者募集】


新部隊を編成のため、以下の要件で志願者を募る


1:伍長以下の兵卒

2:心身ともに頑強な者

3:精術適正の無い者

4:男女不問


フェンデリオル正規軍総本部編成事務局

――――――――――――――――――――――――――

 シンプルだが分かりやすくよくできていると思う。だがひとつだけ引っかかるところがあった。


「ねぇ? ひとつ聞いていいかしら」

「なんだ?」


 私はある一文を指差した。


「この〝心身ともに頑強な者〟って誰が入れたの?」

「え? これの何の問題なんだ?」


 首をかしげるドルスの隣でダルム老が思案げにしていたが問題の本質に気づいてくれたようだ。


「ああ、これはしくじったな」

「おいおい、爺さんまでどうしたってんだよ?」

「おい、まだ気づかないか? 4番目の項目の男女不問ってところと合わせて考えろ。女性がこの募集告知を見たときどう思う?」

「どうって――ああっ!」


 そこまで指摘されてドルスはやっと気づいたようだ。


「この記事の文面だと頑強な肉体の男性と一緒に選抜検査を受けるって事になるのか」

「そういうことになるわね」


 わたしは頷いた。


「それだけの体力の自信があればいいけど、そういう子ばかりとは限らないものね」


 思わぬミスに気付いてさすがのドルスも頭を掻いている。


「まずったなぁ。銃を扱う部隊だから、女性兵士でもハードルは低いと読んでいたんだがなぁ」

「普通はそう考えるわよね。でも、心身ともに頑強ってくわえたの誰なの?」

「事務局の若造だ。気を使って即日募集告知にしてくれたんだが、多分そこまで深く考えてないだろう」


 ドルスのボヤキにダルム老が言葉を添える。


「まぁ、普通は心身共に健康な者、って書くんだろうがな」


 健康と頑強、似ているけど微妙に違う。他の文脈と合わせればなおさらに変わってくる。だが、やってしまったものは仕方がない。今更募集告知を回収するわけにも行かない。もちろんそんな時間的余裕もない。


「仕方ないわ。このまま進めましょう。もしかすると杞憂に終わるかもしれないから」

「ああ、そうだな」


 彼らの話によると明日の夕方には志願者の書類が出揃うそうだ。


「いい人材が集まるといいわね」

「そう願いたいぜ。ハズレばっかり集まったら別な対策を考えなきゃならねぇからな」

「大丈夫よ。アイディア自体はものすごく優れていると思うもの」

「そうか?」

「ええ。適性や技能を持たない者にとって、新しい力が手に入るかもしれないという〝希望の可能性〟はたまらなく魅力的ですもの」


 私の言葉に二人は頷いてくれていた。  


「それじゃ俺達は訓練内容について、軍の教導育成事務局と掛け合ってくる。訓練期間には2週間を予定している」

「妥当な日数ね。頭数が揃うまでには他の四人の調査結果も出るはずよ」

「ああ」

「それじゃあ行ってくるぜ」


 二人は再び、銃火器部隊の錬成のために向かったのだった。


 その後も捜査活動と情報収集は順調に進んだ。

 カークさんたち四人の活躍により制圧対象組織の拠点となっている場所の詳細がつかめた。

 元は街道沿いの貨物馬車のための物流倉庫だった場所だ。地上3階、半地下1階、石造りの建物。

 現在は所有者不明となって打ち捨てられていたはずだったが、何者かがその施設を手に入れて誰かしらが常駐しているのだという。 


 プロアの方でも、組織の人物構成の概要がつかめ始まっていた。首領の名前と、組織規模、更にはナンバー2の人物の名前まで突き止めてくれた。だがそれでもまだ揃わない情報がある。


「組織のナンバー3の人間についてはもう少し時間をくれ。相当警戒心が強いらしくなかなかこっちの情報の網にかからないんだ」

「あなたが手こずるなんてね」

「あぁ、そのまさかさ。まいったぜ」


 プロアは偵察と斥候のエキスパートだ。元闇社会にいたという経緯からわかるように何度も修羅場をくぐっている。

 さすがのその彼も相手の能力によっては手こずることもあるらしい。


「無理はしないで。集められた範囲内の情報でやればいい事だから」

「わかった」


 そう言葉を残してプロアは姿を消したのだった。

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