第13話 のるかそるか、それは問題だ ⑤
「草尾さーん」
隣で堀川先生が突然叫んだ。えっ!! 心臓に悪いよ!!
「はいはーい、先生、どうしましたー?」
可愛い。ころころっと近寄ってくる姿も、ホント可愛い・・・。
「草尾さんさ、今日、例の患者のDOTS訪問、行くよね?」
「ええ。何かありましたか?」
「悪いんだけど、松島先生、連れてってくれない?」
「えっ・・・いや、そんな」
「あ、良いですよ。ちょうど、今日は空いていたから、車で行こうかなって思ってましたから」
「良かったね、先生。じゃあ、頑張ってー」
「いや、堀川先生、え・・・あの」
「松島先生、宜しくお願いします。ああ、DOTSって何か分からなかった? 道中、お教えしますから、大丈夫ですよ? 私にお任せあれ」
ち、違う、あのさ。
「心の準備が」
「大丈夫、難しいことは何もないですし、今日は私がやっているのを見てて下されば」
本当に、見てるだけになりますが、イイですか?
・・・貴方を見てるだけかもしれませんが、本当にイイですか?
「・・・ヨロシクお願いします」
「DOTSっていうのは、まあ、簡単に言えば、患者さんが治療を完遂できるように保健師が支援するってことです」
知ってますが、知らなかったことにしとこ。
「へえ、そうなんですね」
「結核治療を開始したときは症状が辛くて、患者さんも頑張って薬を飲もうって思ってくれますけど、症状が軽くなってくると、つい、もう治療やめてもいいんじゃないかな、って思う人もいます。でも、治療を自己中断してしまうと、耐性菌を作ってしまうかもしれない。だから、最後まで必要なだけの期間、治療が出来るように、こちらが色々支援するんですよ。・・・って、そんなこと、先生はご存知でしたよね?」
恥ずかしそうに微笑まれても、何と言えばいいのか。仕方ないから、曖昧に肯くことにする。
草尾さんは、想像以上の滑らかさで運転している。その迷いないハンドル捌きが、ちょっと格好良い。ヤバイ、カッコイイ・・・。
「そこの道を右折すると、
「まだないです」
「今度、一緒に行きましょうね」
「・・・はあ」
彼女が前を向いているから、会話をするとなると、彼女の横顔に話しかけることになる。・・・別に、見たいから見てるわけじゃないからね。
窓の外の平和な人々を見ていると、何だか、自分の立場を忘れてしまいそう。これは・・・仕事、なんだよね。
「私、結核の研修、秋に回されちゃったんです」
「まあ、それは残念でしたね」
「今年度は希望者が多かったから、あみだくじ、したんです」
「あみだくじ・・・懐かしいですね」
「結構、今でもやりますよ・・・」
「そう? もう、そうやって何かを決めるってこと、無くなってきたなぁ。ふふ、先生方、楽しそう」
「別に、楽しいってことは・・・ないこともないですけど」
「堀川先生とは、コミュニケーション、上手くいってますか?」
「そうですね、かなり気が合っていると思います」
「そう、それは良かった。何か、困ったことがあったら、何でも相談して下さいね。あ、でも私じゃ頼りないかしら」
「そんなワケないじゃないですか、めちゃくちゃ頼ってます、頼りにしています」
「ふふ、嬉しいです。堀川先生には内緒にして下さいね。あんまり私がでしゃばっちゃうと、堀川先生、寂しい思いするかもしれないから」
「・・・堀川先生も、頼りにしています」
「本当に、お二人を見ていると、とても癒されます」
私は、貴方に癒されています・・・。
あーあ、このまま、患者宅に着かなきゃいいのにな・・・。
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