(仮称)公衆衛生医師、保健師に恋を語る。

遠実らい

第1話 初日の恥はかき捨て ①




 四月。四月は出会いと再会の季節。なるほど。


「中央区、松島明音まつしまあかねさん」


 公会堂の大ホールに響き渡る大音量で名前が呼ばれた。や、やめてくれー。


 さっきからずっと延々、一人一人名前が読み上げられ、所属が伝えられている。中央区は建制順でもちょうど真ん中。これまでの待ち時間、本当に長かったわー。

 あー私が中央区に配属されることは、去年から決まっていたし知ってたぞ。いちいち言われなくたって大丈夫!!

 

 立ち上がりながら、私は心の中で、叫んだ。

 

 名前を呼ばれたら、各所属の新人研修担当職員の前に、一列に整列する。もう何の罰ゲームか、ってくらいみっともない。どうしてこんな羽目になったのだ。


 既に半分以上の新人達が名前を呼ばれ、各々の所属の担当職員の前に立っている。しかし・・・全部で何百人いるか分からない新人を、あとどれだけの時間をかけて呼び出すのかな。

 あまりのアホらしい儀礼にうんざりする。


「中央区に配属されたみなさんはこっちですー、ついてきてー」


 まだ、着席したままの人数もずいぶんいるが、中央区の担当者は私達を先導して、どこかへ連れ去ろうとしている。


 ど、どこ行くの・・・そこってどれだけ遠い? このままカルガモの親子のごとく歩いていくの?


 歩きながら、ツヤツヤの、ピカピカした新人達がお互いに小声で挨拶している。


「これからよろしくお願いします」

「こちらこそ。どの課に配属だろうね」


 などなど。


 私にも誰か聞いてくれないかな。そしたら、保健所ですって言ってやる。


 くー、私は老け顔なんじゃない、中途採用なんだよー。こう見えても医者なんだよー。・・・あー恥ずかしい。こんなババア他にいないじゃん。


 歩きなから、モヤモヤが、どんどん降り積もる。


 なんで、私がこんなピッチピチの新卒の群れの中に放り込まれないといけないのか。納得できない。明らかに浮いてるでしょうが。

 なんでだ。医師は別枠採用なんだから、別枠で対応してくれよ。


 四月一日、入庁式に参加している。どちらに目線を向けても、とにかく若さしかない。


 私、松島明音は、本日より仲杜市の公衆衛生医師となった。


 ああ、もう、家帰って布団かぶって寝ちゃいたいよー。

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