第4話 焼肉すとぽーに襲来

6月のジメジメとした梅雨時期、ゴールデンウィークの連休以来、祝日に巡り会わない日々は、サラリーマンにひたすら肉を提供する日々そのものだ。


『焼肉すとぽー』の店長をしている俺は今日も忙しく接客に追われていた。


名前の由来は、一期一会から始まり、一期いちごを苺としてストロベリーとかけてなぞった挙句、焼肉店っぽく無いとのことで豚ポークからポーだけを取って全部平仮名にした、みたいな。なかなか名前に迷走っぷりが窺える。


いや、つけたの俺だけどね。


1500円でランチセットとしてカルビ、ご飯、スープ、デザートのアイスを提供しているのだが、客足が衰えることがない。


その他のメニューも人気で、うちに厚切り特製タン塩だけを食べにくる人もいる。厚く切りすぎていてほとんど黒が無いのだが。


「店長、特製タン品切れです」


厨房担当の古市くんが日課の様に報告してくる。11時開店で、2時間弱で品切れになるから恐ろしい。


「仕方ないね。女性客が我先に食べてしまうから」


「値段上げませんか?1680円は安いですよ」


「いや、これでいこう。客の期待を裏切ったら大変だ」


「まじで、売り方がもったいない」


冷凍パックで仕入れているから、手間はかかって無いのに文句ばかり言う古市くん。


いいんだよ。どこよりも厚切りだけどこの価格だからみんな来てくれるんだ。



ぴんぽーん。


レジに置いていたチャイムが鳴って、俺は厨房からそそくさと移動する。


おっ、家族連れだ。平日なのに珍しい。学校はどうしたんだろうか?5人家族で、小中学生がこちらを見て固まっていた。


「パパ!おじさんいた!」


「いらっしゃいませ。5名様でしょうか?」


「あの、わたしたちのこと、覚えてますか?」


えっ?いきなりそんなこと言われると対応に困る。


多分初対面、にも関わらず、くいっくいっとひとりの1番大きい女の子に袖を引っ張られる。


常連さんだったかな?見たこと無い気が・・・ん?


この子がつけているシュシュに見覚えがある。


学生の時にバイトしてたプールのマスコットだ。イルカのペンタ丸。


「昔、プールで会ったっけ?」


「惜しいっ!」


女の子が指パッチンジェスチャーで悔しがっている。


困って親御さんの顔を見るが、なぜだか申し訳なさそうに頭をかいているだけだ。


すごい気合の入った瞳、目力で見つめられているので、目線を合わせるために中腰になることにした。


うーん。うーん・・・


「ダメだ。思い出せないよ」


「おじさんっ!美兎だよ?プールで溺れかけておじさんに命を救ってもらった美兎なのっ!」


ええええええええええええ!?


も、もしかして手紙をくれたのは、この子おおお!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る