第4話

その瞬間、ぷっちーんと頭の中の何かが焼き切れた音がした。


私の首元にあるその華奢で柔なあおの手首を掴んで引き離した。

反撃されるとは思いもしなかったのだろう。


「あ、れ?」


戸惑ったようにこちらを見ている彼の背は随分と小さい。

私が本来の力を出すだけで彼を行動不能にすることは可能だ。


とても簡単なことである。


「ねぇ、紅葉。痛いよ」


私は眉を顰めるあおを無視して、そのまま彼の手首をへし折った。


「ゔ、ぁぁぁ、ったぁ。ど、うして」


甲高いあおの悲鳴が花火の音と共に空高く登っていく。


「あおがいけないんだよ? 私はあおのために死ねるほど大好きなのに。愛しているのに。なのに、ストーカーだなんて言うから。私の気持ちを台無しにするから。あおは私のことを大好きでいなきゃいけないのよ。私の気持ちを受け入れなきゃいけないのよ。それが出来ないなら、あおはあおじゃないわ。そうでしょう?」


泣きたいのは私の方だった。

それなのに、どうしてこんなにも苦しそうな顔をしているのかしら、あおは。


「違うよ。君の方だよ。君の方が僕のことを愛していないんじゃないかぁぁぁぁぁあ。痛いよぅぅ。う、ぅ……」


蹲ったあおが変なことを言っている。


「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い‼‼」


私はあおが持ってきていたシャベルを手にした。

彼は重たそうに持ち上げていたが、私にはとても軽く感じる。


「ねぇ、あおは私のために死ねる?」


シャベルを振り上げて、彼に尋ねた。

彼の可憐な返事が耳に届く前に、私はあおの脳天目掛けてそれを振り下ろした。


あおの言葉を聞くのが怖かったのだ。


私を愛していない「あお」なんてこの世界に必要なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る