第3話 アニメを見る僕を慕う妹
僕は自宅のリビングでアニメ「響け!トランペット」を見ている。高校の吹奏楽部での友情や愛情を描いた神アニメだ。
僕の隣には鳥子が座って、じっとアニメを視聴している。
記憶を失くす前の鳥子は「兄ちゃんキモい! こんな女の子だらけのアニメ見て、鼻の下伸ばしてる。死んでいいよ!」などと言っていたのだが、いまの鳥子はちがう。
「お兄さま、これは素晴らしいアニメですね。トランペット奏者とユーフォニアム奏者の友情とも愛情ともつかない絶妙な関係性がエモいです」
「そうだろう? おまえは見る目があるぞ、鳥子。チューバとコントラバスのキャラクターも尊いだろう?」
「尊いです!」
僕は記憶喪失した鳥子をアニメ信者にすべく布教したのだが、それは大成功した。妹はアニメにハマリ、それを教えた僕に崇拝の視線を投げかけている。やった!
「お兄さま、わたしはアニメが好きです。それを教えてくれたお兄さまのことはもっと好きです。大好き!」
素直な鳥子。無条件で僕を慕う妹。可愛い!
このままのおまえでいてくれ。記憶喪失のままでいてくれ、と僕は願わずにはいられない。お父さんとお母さんは困っているようだが、僕はいまの鳥子が好きだ。
「お兄さま、恋人はいらっしゃるのですか?」
「知りたいか、鳥子」
「知りたいです」
「もしいたら、どうするつもりだ?」
「うう〜っ。お兄さまの彼女を殺害してしまうかもしれません」
おおう、過激なところは以前と変わりないな。
「安心しろ。いまは恋人はいない」
「わたしを恋人にしてください!」
「おまえは常識を知らないのか? 兄と妹は恋人にはなれない」
「常識なんて知りません。わたしは記憶喪失なんですよ!」
「そうだったな。常識も消えたのか?」
「消えました」
「近親愛はタブーとされている」
「タブーなんてくそくらえです!」
「過激だな、鳥子は。そんなに僕が好きなのか?」
「好きです! 大好きです! 愛してる!」
すごいな、妹の兄への愛。
僕はまんざらでもない気分だ。アニメを許容してくれる異性とは出会ったことがない。美しい妹が僕のありのままを愛してくれるのなら、禁断の愛も悪くはないと思ってしまう。
お母さんが僕と妹の会話を聞いていた。
「砦、鳥子を誘惑しないで」
「誘惑なんてしていないよ。鳥子が一方的に僕を慕っているんだ」
「ひどいわ、お兄さま、一方的だなんて! わたしのことを愛してください!」
「わかったよ、鳥子。愛してるぜ」
「軽い! 言い方が軽いです! なんか不満です!」
「鳥子、砦を愛したらだめよ!」
「なぜですか、お母さん?」
「妹と兄は結ばれたらいけないの!」
「だから、なぜですか?」
「法律で決まっているのよ! 兄と妹は結婚できないの!」
「法律なんてくそくらえです」
「人類学的叡智もインセスト・タブーを認めているわ! 近親相姦はいけないことなの!」
「わたしはタブーに挑みます」
「砦、あなたがインセスト・タブーを守って!」
「ごめんね、お母さん。いまの鳥子なら、僕は愛せる」
「私の息子と娘が壊れている!」
お母さんが絶叫した。
僕は鳥子を愛してもいいと思いかけていた。こんなに可愛くて、僕を受け入れてくれる女の子は他にいないかもしれないのだ。
鳥子はアニメを見る僕を慕ってくれている。
こんなに可愛い子は他にいない、たぶん。
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