【改良版】発想者が、徳川埋蔵金を見つける話

久坂裕介

第一話

 西暦二〇XX年。日本のテレビのクイズ番組に、変化が起こった。それまでの知識ちしきを争う番組ではなく、発想力はっそうりょくでクイズを解く番組が人気を得て、やがて主流になった。


 そして、そのクイズ番組は高視聴率を取ったため、高額こうがくの優勝賞金が得られるクイズ番組になった。


 今までの知識で問題を解く者たちは、知識世代と呼ばれた。また、発想力が求められるクイズ番組で活躍した者たちは発想世代と呼ばれた。更に数々のクイズ番組で賞金をかせいだ者たちは、発想者はっそうしゃと呼ばれた。それから数年の月日が流れた。


   ●


 ある日の朝。東日本代表の発想者、鹿島直哉かしまなおやは都内のマンションで、知識を問うクイズの本と発想力を問うクイズの本を十ページづつ読んで、クイズを解いていた。知識が無ければ、発想も出来ないと考えていたからだ。

「やったー! クイズを解いたぜ! 今日のノルマをこなしたぜ! さて、スマホのゲームをしようっと。いいよな、史織しおり?」と鹿島は妻の、史織に問いかけた。


 すると見ていたケ〇ズデンキのチラシから顔を上げ、史織は笑顔で答えた。

「うん、いいよ、直君なおくん。でも、あんまり課金しちゃあダメだよ」


 史織は小鹿こじかの様なクリっとした目をしていた。また鹿島は何か遠くを見つめる、オオカミの様な目をしていた。


「分かっているって!」と鹿島は今ハマっている、RPGで遊び始めた。しかし十分もしないうちに、電話がかかってきた。鹿島は不機嫌さを、あらわにした。

「ちっ、誰だよ! 今、良いところなのに! 何? 日高ひだか? 全く、無視してやろうか。でも電話に出ねーと、いつまでも呼び出し音がうるさくて、ゲームに集中できねーし……。しょうがねー、出てやるか!」


 日高 洋之助ようのすけは西日本代表の発想者である。


『おい、何だよ、日高! 今、良いところなんだよ!』

 するとスマホから、関西弁が聞こえてきた。

『ふーん、って良いところってどうせ、スマホのゲームでもしてたんやろ?』

『う、うっせえな! いいだろ別に! それより用件ようけんは何だ、用件は?!』


 すると日高は突然、泣きついてきた。

『あ、そうやった。助けてくれやー、鹿島! この通りやから!』

『この通りって、どの通りだよ。いいから用件を言え、用件を!』

『ほらワイって、発想力を問うクイズの本の、問題も作ってるやろ?』

『ああ、そうだな。そんな副業をして、お前は発想者の風上かざかみにも置けない奴だな!』


 鹿島はクイズ番組の賞金だけで暮らすのが、本当の発想者だと思っている。


 すると再び日高は、泣きついてきた。

『そんなこと言うなよー! 締め切りが近いのにあと、二十問もクイズを考えなあかんのや! 力を貸してんかー!』

『知るか、そんなもん。自分の仕事なんだから、自分で何とかしろ!』


 すると日高は、甘い言葉で誘ってきた。

『もちろん、タダとは言わへんでー』

『ど、どういうことだよ?』

謝礼しゃれいをちゃんと出すって、言ってんのやー』


 そして完全に、日高のペースになった。

『しゃ、謝礼って、い、いくらだよ?』

『まー、今、仕事しとる出版社は小さいからなー。百万円しか、払えんけどー』

『ひゃ、百万円……』

『どうやー、手伝ってくれるか?ー』


 鹿島は動揺どうようを、さとられないように必死だった。百万円って、大金だろ。手伝うだけで百万円って……。クイズの本を一冊、作ったら、一体いくらもらえるんだ……。


『ま、まあ、しょうがねえなあ。お前とは、知らない仲でもないしなあ。しょうがねえなあ、手伝ってやるよ。で、どうすればいいんだ?』

『おお、手伝ってくれるんか、サンキュー! 実はワイは今、東京のホテルで缶詰かんづめにされとんねん。せやから、そのホテルまできてくれ』


 ホテルの名前を聞いた鹿島は、史織に告げた。

「何か今、日高の奴が困ってるんだってさ。しょうがねえから、ちょっと缶詰めにされているホテルに行って助けてくるぜ!」

「うん、気を付けてねー」と史織は、微笑ほほえんで見送った。だが鹿島には、その微笑みは悪魔の微笑みに見えた。史織は可愛かわい顔立かおだちをしているが微笑むとなぜか、悪魔の微笑みに見えた。特に何か、たくらんでいる時は……。


   ●


 鹿島は電車でホテルの近くまで行って、歩きでホテルに着くとおどろいた。で、でかい……。何、このホテル?……。少しビビりながらもホテルのフロントで、日高がどこに泊まっているか聞いた。そして腰をぬかした。

「はい、日高様は当ホテルの、VIPルームに宿泊されています」と教えられたからだ。


 ビ、VIPルーム……。エレベーターで最上階に降りると、真正面にVIPルームがあった。鹿島は、でかい扉をノックした。すると、すぐに満面まんめんの笑みの日高が出てきた。感情が出やすい、黒ヒョウの様な目をしていた。

「よ! 待っとったでー! 入り、入り!ー」


 部屋に入った鹿島は、更にビビった。ひ、広い……。俺が住んでいるマンションよりも広いんじゃねえか?……。


 そんな鹿島を無視して、日高は話し出した。

「電話でも言った通り、あと二十問、考えなあかんのや!ー せやから、十問づつ作ろー」

「お、おお……」

 

   ●


 午後一時近くに、日高が聞いてきた。

「どやー、鹿島。出来たか?ー」


 一息ついて、鹿島は答えた。

「ああ、まあな……」

「例えば、どんな問題や?ー」

「ああ、この問題はカレンダーを見て、答えてほしい。

 問一。カレンダーにいる鳥は、ワシ、ガチョウ、ツルのうち、どれか?

 問二。カレンダーにいる人間は、赤ちゃん、大人、老人のうち、どれか? 

 問三。カレンダーの時間は、朝、昼、夜のうち、どれか?

 ヒントは『』だ。もちろん、スマホ等を使っても構わない」

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