第29話 田中太郎⑫
「なんやあっという間やったわぁ...」
「ですね」
「ふふっ。楽しい時間はあっという間って言うけれど何だか勿体ないわよね」
帰りの電車に揺られながらこの二日間の事を思い返す。我ながら不純な...、いや待て不純じゃないよ、な?みんなと仲良くなろうって企画だし。うん。実に健全な企画だ。
正直それらしい雰囲気にはならなかったけど、今回の目的はあくまでも仲を縮めること。ふふふ、まだ焦る必要はない。
それはともかく、BBQに触れ合い動物、カレー作りにバギーに魚釣り。こうして指折り数えると結構いろんなことしたな~。学校では見られないメンバーの一面も見れたし。
夢ノ中さんは思ってた以上に負けず嫌いで料理が得意。社長令嬢だからって苦手とは限らないのよ?と注意されました。あともっとお淑やかなイメージだったけど割と活発だった。
愛音さんは普段のイメージそのままに動物と楽しそうに触れ合っている姿が印象的だった。勿論その姿は写真に収めていますよ。そう言えば最初の方は西郷君と七貴に対して及び腰だったけどいつの間にか仲良くなっていた。愛音さんのコミュ力は53万だな。あと二段階変身を残しているに違いない。
そして水原さん。彼女はどうだろうか?一応手を組んだ間柄仲良くはなれただろう。多分、きっと、めいびぃ。西郷君との仲は今一つって感じだ。頑張ってはいるけど肝心の西郷君の心の壁が高い。どう攻略していくのか今後も目が離せませんな!
それぞれ学校では見えない素の部分が見れたそれだけでも今回の企画は成功と言える。もっと彼女らのこと知りたいしこっちの事も知って欲しいと思う。・・・・はっ!!?まさかこれが恋!!?なんてこったい。三人同時に恋をしてしまうなんて...。いや天丼ネタ。
「寝ちゃったわね」
「これもまた青春!ですか?」
「ええ、その通りよ。学生生活はまだまだ楽しいこと一杯あるんだもの。もっともっと今を楽しみなさい」
疲れで寝てしまっている夢ノ中さん・愛音さん・水原さん、そして西郷君を優しく見守る佐那さんは凄く大人だった。
「そう言えば佐那さんの学生時代ってあまり聞いたことなかったですね。どうでした?楽しかったですか?」
「ええ、勿論よ。ただ私は部活に青春をつぎ込んだからね。合宿や学校行事以外では友達と旅行なんて行かなかったわ。勉強もそっちのけ。恋人なんて考えもしなかったわね」
「らしいで?田中」
「今は佐那さんの話だろ!?てか更科だって恋人いねえじゃねえか!人のこと言えねえぞ!」
「はっ、お前と一緒にすんな。それにそんな態度取ってええんか?あの約束無かったことにすんで?」
「へへ、冗談じゃないっすか~」
そこでその話し出すのはずるいだろ~がよ~。
カラカラと笑う更科を半目で睨む。
「約束って何のこと?」
「ああ、えっとそれはまた帰ったら言います。今はちょっと...」
ちらっと仲良く眠っている三人娘を見る。寝てる、よね?
「ふ~ん。ま、何となくわかったわ。頑張りなさい?」
「うす」
察しが良くて感謝っすわ佐那さん。
『次は○○、○○。お降りのお客様は左側の扉が開きます。足元にお気をつけてお忘れ物の無いようお願いいたします。次は―――・・・。』
「着いたか」
「そうだな。お~い起きろ~。駅着いたよ~」
俺と七貴以外は寮住まいなので学校の最寄り駅で皆を起こす。俺はその次の駅だ。登校時同じ学生がいないの地味に寂しいよぅ。
「んぅ~~っ、楽しかったぁ~~!!!また行きたい!!」
「そうね。またみんなで行けたらいいわね」
「んぅ」
座りっぱなしで体が固まったのだろう、愛音さんが気持ちよさそうに伸びをする。けどその表情は満足に溢れていて充実した二日間だったと物語っていた。
うんうん。企画者
「あ、田中君!」
「ん?どうした?」
俺がそう一人満足していると、愛音さんは綺麗なターンを決めキャンプ中によく見た向日葵のような笑みを向けてくれた。見れば他の参加者も俺を見ていた。
「今回のキャンプ誘ってくれてありがとう!!最っっ高に楽しかったし面白かった!!!」
「私からも、ありがとう。とても楽しかったわ」
「ん、ありがと」
「―――っああ!ああ!楽しんでもらえて、良かった。こちらこそ、一緒に来てくれてありがとう!勿論西郷君たちも」
彼女たちのそのお礼は最高の褒美だった。『ありがとう』その五文字の言葉を貰えるだけで俺は頑張ってよかったと、そう思えるんだから。
「はい!僕も凄く楽しかったです!こうして友達と旅行なん、て・・ほんと夢、みたいで・・ぐすっ」
「お、おい急にどうした?泣かないでくれよ...」
「すみ゛ませんっ。でも嬉しくって、こんな友達と遊ぶなんて考えられ――うわっ!?」
「西郷を泣かすなや田中~」
「田中゛君は悪くないです!僕がっ勝手に・・っ!!」
西郷君まさかの男泣きである。いやそこまで喜んでもらえたのなら嬉しいんだが流石に対応に困る。
「けんど俺も言わしてな。楽しかったで!また行こな!」
「おう!次も楽しみにしとけ!」
必死に涙をぬぐう西郷君に飛び掛かったような形で腕を回した更科に答える。
「・・・・んだよ」
「べっつに~?ま、ええんちゃう?」
「・・・・・・・・・・・・・・ま、また」
「?」
「・・また、必要になったら呼べ」
「っ! 勿論!当たり前だろ?そん時は頼むわ!」
「ふん」
ははっ、七貴らしいっちゃらしいな。けど楽しんでもらえたみたいで良かった。
「ふふ。流石太郎ね」
「佐那さん。佐那さんも来てくださってありがとうございます」
「やあ~ね。私と太郎の仲じゃない。そんな固いこと言いっこなしよ」
「はは、ま、そうですね。あ、勝重さんにもお礼言っといてもらえます?食材とかレンタルできない小物類を車で運んでもらってありがとうございますって。凄く助かりました」
「ええ、伝えとくわ」
國枝夫妻にはお世話になったし、また今度お礼しに実家帰るか。あいつとも会ってみたいし。
「それじゃあ帰りましょうか」
「うんそだね。田中君ばいば~い」
「では、また学校で!」
「ほなな~」
「おう、またな~」
寮へと返る皆を見送り、七貴も一人帰って行った。
「ぷぷ。太郎だけ別なのウケるわ~」
「地味に後悔してるんで触れないでもらえます?」
「はいはい。じゃあ私勝重が迎えに来てくれているみたいだからここで」
「え、じゃあ挨拶しに行きますよ」
「ああ、いいのいいの。その代わりまた今度家に遊びに来て。ね?」
「佐那さんがそれでいいなら...。というか行くつもりでしたし」
「太郎のそういう律儀なとこ好きよ?てなわけでまったね~」
「はい。お疲れさんでした」
ひらひらと手を振りながら去って行く佐那さんも見送り改札口へ向かう。
(ん~、今日は疲れたし適当にでき合いもんでも買って帰るか?)
一人暮らしなので当たり前だが自炊しなければならない。これが寮だと寮母さんが作るご飯があるんだよな~。時間指定とか縛りがあるにせよ素直に羨ましい。
「カードが使えないってどういうことかしら?」
(牛丼、お好み焼き、カレー・・は昨日食った。・・ん?)
近くにどんなお店があったか思い浮かべていると、視界の中に綺麗な亜麻色の髪の女生徒が自販機の前で仁王立ちしている姿が目に留まるのだった。
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