第4話 繊細な色彩 と 意味不明な朱

シュタインさんが ちょうど頭上で 豆粒くらいに見えるようになったあたりから、 私の周りに 不思議な現象が 起き始める。

はじめは視界に あの 宇宙空間で見た 漂う雲か霞のようなもの。

ふわふわと 惑星上の 至る所から 漂い出し、私の周りを取り囲むと、 ふいにそれは それぞれに輪を描いて 回りだした。

まるで 最初の時に見た 銀河の流れのようだ。いくつものちっちゃな銀河が 私を取り囲むように 廻っている。


やがてその渦が いくつかの輪になり、 そうして 今度は 私を中心に 同じ方向に巡りだしていく。 私から見ると 右回りか。


「シュタインさん、これって 私に害は ないんですよねー?」


はるか上空の豆粒みたいな シュタインさんに 出せるだけ大きな声で そう問いかけてみた。それでも 豆粒みたいに見えるシュタインさんに この声が届く距離ではない……


この惑星には 大気がある。 成分は何なのかわからないけど、いつの間にか私も 呼吸らしきことを している。

不思議なことに ただそれだけの仕草を するようになって、 どこか安心したような気持ちが 私の中にあった。宇宙空間では これっぽっちも 呼吸した覚えなんてないのに なんでだろうかと、 この時から頭のどこかで考え始めていた。


「大丈夫よ。 あなたを取り巻くように ライフが集まってきているのは 見える?」


驚いたことに聞こえていたらしい。シュタインさん、よほどの地獄耳なんだろうか。しかもその声は 意外に近くに聞こえる。


「えーと、これがその ライフってのなんでしょうか。ふわふわしている 雲か霞みたいなのが、今私の周りで フォークダンスを踊っているみたいです」

「あら、そこまで見えているの?だったら……」


どうやら 見たままをあてずっぽうで言ったのに、当たりだったみたいだ。これが ライフ だったんだ……


「い、いえいえいえいえ。本当は 白い霞みたいなのが さっきから ぐるぐる私の周りで ちっちゃい銀河みたいに輪になっていて、それが今は 私を中心に 時計回りに 廻りだしています」

「あらあら、なるほど。フォークダンスまでは見えていないのね。 そうすると、色は何色に見えてる?」

「えーと、白いのと 影みたいな 薄いグレーと……」


そう説明しながら 周りを取り囲む 渦を 注視していると、 視界の端に 黄色みがかった赤 な色彩が見えた。

しかしおかしなことに その朱色は 直接見ようとすると 視界から消えていく。

なんとなくその色合いが 先ほど付きまとってきた アレに思えて、 それでシュタインさんに聞いてみた。


「……シュタインさん、ここって私とあなた以外に 誰かいますか?」

「え、いるわよ」


さらっといるって言われてしまった。 以前に 奴さんといた時も 知らないうちに 奴さんの お仲間らしき 光の球がいたことがある。

そっか、だったら あの朱色は シュタインさんのお仲間なのかな、とその時は思った。


「そうしたらそろそろいくわよ」

「は、はい!」


何が起こるのか まるでわからない。 けれど 言われるままに私は その場所で ぐっと力を入れて 目の前を睨む。


すると 次に 不思議なことが起き始めた。


はじめのうちは、少し目がおかしいかなって感じで 目の前で右回りに回る いくつもの小さな銀河が オーロラみたいに 移り変わる色に見え始めた。


――これって私、なんかでラリってる?!


ヤバいかなって思ったんだけど、どうもそうでもないらしい。 ラリった時の 高揚感だったり 胸糞悪い気分が やってこない。ただ幻のように目の前が キラキラしている。


「どう?何か変わった?」


頭上からなんだろうか、けれど 直接頭に響くように シュタインさんの声が 聞こえている。


「はい。なんだか私の周りを廻っている 小さな銀河が 色づいてきました。 とても綺麗です……」

「そう、なら順調よ。そのままもう少し リラックスしていてね」


言われるまま 立ち尽くしていると、 今度は なんと言ったらいいんだろうか、おかしなものが 見えてきた。

先に行っておくけど 私は この時 気がおかしくなっていたわけではない。何かの薬物中毒でもないし、脳内麻薬が出まくっていたわけでもない。

それなのに、目の前を廻る 銀河のような霞の それを形作る 水分のようなもの、ひとつひとつが ハッキリと見える。


「シュタインさん、なんか えーと、周りを廻っている銀河みたいな雲の、それを構成するひとつひとつの星が 見えてきちゃったんですけどー」

「あらあらあら、もうそんなに?すごいわね、だったらあと少しよ」


何が あと少しなのだか わからないまま、 けれど そう言うなら そうなんだろうとそう思って、 あたりを見回しながら 次に何が起きるのかを待つ。


そうして待つこと……どれくらいなんだろう?

嘘みたいなくらい、 この惑星の 公転周期なのか 自転周期が 早くて、巡るましく感じるくらい 早く そして永い 時が過ぎた。


今や 目の前で 私を取り囲んで 廻っているのは、 背中に小さな羽をはやした 妖精さん?

さっきまで 小さな銀河に見えていたものが、どういう経過を辿るとこうなるのか、ハッて気づいたときには もう妖精さんに見えて、 そして一度そう見えてしまったら、もう前のような 銀河には見えそうもない。

なんだか 狐につままれたみたいな そんな感じ。


「どう? フォークダンスは見えてきた?」


シュタインさんが 当たり前のように そう言ってくる。 けれど 私は その時には もう、 少しばかりパニックにおちいって いた、 ……らしい。

息をのんだまま、 先ほどまで 星の集まりにしか見えなかった銀河を ひとつひとつ 目を凝らして見る。 私を取り囲んで 三列くらいに 輪ができていて、 その輪は 小さな妖精さんが 手を取り合って踊っている姿をしている。

開いた口が塞がらないまま、右へ左へと 踊り回る 妖精さん達。何度見てもそれは、記憶にある 空想上の 生き物? とされてきた あの 妖精さんにしか見えない……


「ちょっとー、どうかした? まさか驚いて 声も出ないとか そんな ピュアな感じのリアクション なんかじゃ ないわよね?」


聞こえてきている シュタインさんの声。 それに返す言葉が見つからない。 今や 私の目の前で 妖精さんたちは 霧散するように消えて見せたり、 また 霧が集まって 妖精の姿に戻ったりと、 順番に そんなことをしている。

更にパニックが 酷くなる原因が、 その 妖精さんが 出たり消えたりする度に、 なんかどこかで見たような 難しい モデルさんみたいな 立ちポーズを決めて、 どや顔をしてくることだ。


「ねえねえ、ほんと、大丈夫? ライフ達は けっこう 遊び好きだから、 あなたの記憶にある情報を読み取って 面白い芸とか 見せてくれているはずだけど、 見えてる?」


最早 シュタインさんの声が 目の前の 妖精たちの 声にすら聞こえてきた。 口を動かして 起用に 同じ事を 繰り返して 話しだしている。


「ちょっとー」「ちょっとー」「ちょっとー」「ちょっとー」「ちょってー」


ときどき他の子とずれてしまう子もいるみたいだ。 けれど こんなことって 本当にあるんだろうか?

これでは 本当に 何か まずい ガスでも吸って 頭が ラリっているとしか 思いようがない。

まずい、まずい、何かわからないけど、まずい。今すぐにここから逃げなければ。簡単に信用してしまった私が悪い。また私だ。 私が原因で また 何か悪いことに巻き込まれてしまう。


「ねえねえ」「ねえねえ」「ねえねえ」「ねえねえ」「ねえねえ」

「ほんと」「ほんと」「ほんと」「ほんと」「ほんと」

「大丈夫?」「大丈夫?」「大丈夫?」「大丈夫?」「大丈夫?」


眩暈がして、息が吸いにくくなる。 まずい、過呼吸?! このままじゃ 気を失っちゃう。今すぐここから 逃げなきゃ。


「ライフ達は」「ライフ達は」「ライフ達は」「ライフ達は」「ライフ達は」

「けっこう」「けっこう」「けっこう」「けっこう」「けっくう」

「遊び好き」「イタズラ好き」「おちょくり好き」「からかい好き」「お肉好き」


どんどん 眩暈がして そして いよいよ息が苦しくなって、 視界が 赤く……いいえ、どちらかと言えば オレンジ色? 濃いめの橙色にも似た そうだ、朱色に染まっていく。

そうして いよいよ気を失う時になって、 最後に見たのは 青色の光だった。




―――

それから どれくらい過ぎたのだろう。 気が付くと私は、 あたりが緑に包まれた 森の中で目を覚ました。

体中を さわって 確認してみたが、 どこがどうといった おかしなところはない。


そうして辺りに目を向けると、 そこは 本当に 樹木が生えて 青々とした葉が 陽光を遮り、 どこか 遠くで 鳥だろうか、何かの鳴き声が聞こえる 穏やかな場所。


「やあ、旅の人。ようやく気が付いたようだね」


突然 後ろの方から 声がした。 若々しく軽薄で どこか人をイラっとさせる そんな声。 当然 警戒して 聞こえないふりをすることにする。


「あ、あれ? 聞こえてない? ちょっとちょっと、なんで? ライフ 摂取し過ぎて 耳が聞こえなくなるとか あったかなぁ?」


聞こえないふりをしながら よくよく耳を澄ませてみると、 どうやら あの 朱色の球のような気がする。軽薄な品の良さが 言葉の端々に 聞いてとれる。


「まいったなオーニー。そうなると 色々と 計画を変更しなくちゃ かな。 っていうか本当に聞こえていないのかな。目はどうだろう?」


間違いない、あの 朱球だ。私のことをオーニーとかって呼んでる。

朱球っぽい声は 話しながら私の目の前に 廻り込もうとしている。 がさがさと 草をかき分けて 移動している その音は、 どういうわけか二足歩行の足があるみたいだ。


「やあ、ごきげんよう。ようやく意識を取り戻したようだね」


そう言いながら 朱球は 私の視界に入り込んできた。


「ってあれ? 目も、駄目?見えてないの、うそ、本当に?」


朱球? に、間違いないはずなんだけど、 どうしたことか 今 私の目の前にいるのは、 見るからに軽薄な 感じではあるけど、 赤い球ではなくて 人型をした 誰か。

声の調子や 言い回し、 それに 私をオーニーと呼んだことで これがアレであることは間違いない。だけど、だったら どうしてこんなに見た目が変わっているんだろう?


「ちょっとオーニー、私ですよ、私、ジーニーですって。本当は見えているんでしょ?ねぇねぇ、どうなの本当は?」


私から少しばかり離れたところで、心底困ったように 手を振り回している。それに今 名前を名乗った。これで確定。 あの赤い球と同じということで間違いない。


「ちょっと本気で困ったな。 せっかく 助けたってのに これじゃあ助け損になるかな。そうなると……」

「見えているし、聞こえているわよ」

「うわ!!!」


知らんふりしても 先に進まないので、 とりあえず こいつが あの場から 助け出してくれたってことらしいから、 そう声をかけた。

驚きようが ひどく 大袈裟にみえたけど、 そこを突っ込むとめんどくさそうなので あまり深く考えないように努める。


「ひ、ひどいなオーニー。聞こえてるのなら最初からそう言ってくださいよ」

「ここ、どこ?」

「な!?……ここは、青のゲートで つないだ 別銀河の 名もなき星系です」

「青のゲートって、あの青い粒子のこと?」

「ええ、そうです。オーニーが 前回の 道行で見つけて レンたちに使い方をレクチャーした 青の粒子です。 あれから随分と 時が経ちましたから、 今は青のゲートって名前がついています」

「なんの捻りもない名前ね」

「はい、何も捻っていません」


頭上を ピピピピっと鳴きながら 小さな鳥が飛び去って行った。


「とりあえず、ありがとうを言っておくわ」

「お気になさらず。当然のことをしたまでですから」

「借りはその内に返す。だから 教えて。 あの時 シュタインさんは 私に何をしようとしていたの?」

「ほへ? いや、 それは その」

「さっきあなた、ライフの摂りすぎとか言っていたでしょう。それってどういうこと?」

「それはですね……私もよくわからないのですが」


そうして赤玉、ジーニーの説明によると、 シュタインさんが 試みていたのは 私を レンと同等にしようとしていた、 のではないかということだった。


「実際に それが可能なのかは知りません。 けれど あなたのように 星から生まれる シン は、 基本的圧倒的に ライフが少ないのは 周知の事実です」


ジーニーはそう言って ずいぶんと真面目な顔で、 自分の考えを話し始めた。


「シン に ライフを吸収させようという試みは 随分と昔に いくつかの 星系で 試みられていたようです。 いずれも 大した成果もないまま、 実験に使われたシンたちは 全て 廃棄となりました」


最後の言葉に 背筋がぞっとする。


「シンと 名付けたのは この世界のはじまりからいる レンの皆様です。 ちょうど この世界で育った レンが 良い具合に成長し それぞれに 恒星や 惑星など 星系を担えるようになりはじめた頃 から 生まれだしました」


ジーニーの姿は どこか ファンタジーに出てくる 旅の詩人といった様相だった。つば広のトラベラーズハットは 生成りの色をした帽子部分に 赤い帯が 何周か巻かれて彩られている。 着ているものは 同じく 生成り色をした ポンチョのようなものだ。 こちらも 赤い帯と同じ糸で 刺繡が施され かなり派手に見える。


「どれも 辺縁部にある 銀河の中で起きたできごとです。 はじめに生まれたシンは、 産んだ惑星のレンと 主星となる 恒星のレンとで 相談の末に 恒星の炎で燃え尽きました」

「え!?」

「事故だった と当時の当事者であるレンは 報告を上げています。 そして実際に 事故だったのでしょう。 まさか シンが 燃えるだなんて 思ってもみなかった。 ただ 恒星で引き受けて その存在を確かめようと思った、 と報告されています」

「も、燃えるの?私」

「いえいえいえ、急がずに。 あなたは別で 特別なのです」

「はぁ?!」

「怖いですね、 そんな可愛い顔で 睨むと 余計に可愛く見えますので、 私の中に湧きおこる衝動が怖いです」


何か 気持ち悪い。なのでとりあえず 黙る。

すると ジーニーは 続きを話し始めた。


「その後も 同じように シンは 生まれてきました。 その数が 二桁になるころ、 ついに 古きレンの皆様が しびれを切らし、 しゃしゃり出てくるわけです」


私よりも前に シンは生まれていたということか……?。


「そのしゃしゃり出てきた中に 先ほどの シュタイン様と、 今は 辺縁に移動されてしまった ヤツガルド様がおりまして、 そのヤツガルド様の命名で シンとなったそうです」


そこまで聞いて はっとなった。 ヤツガルド、つまり奴さんだ。

あの薄汚れた光の球、 私のこと よくわからないだとか抜かして さんざんあれこれでこき使っといて、結局は初めから知っていたってことなの?


「ヤツガルド様は その時には既に 準備されていて、 中央に近い銀河団の中に 彼らシンを引き受ける 施設まで 造られていたというから驚きです。その先見の明があり 以後は これから新たに生まれ来る シンたちを 保護育成するため、現在は 辺縁宙域にて 尽力されているという話です」


そこまで聞いて、 私の頭の中では 時系列が 混乱しはじめていた。


おそらく、その シンを引き受ける施設というのは、前に私が手伝って造った あの施設のことだ。アルファと名付けて、 私みたいなものが 再び生まれて しまった場合に備える、あの時の銀河の中央に近いところで やった仕事のはず。


奴さんはじゃあ、私の前にも同じことを他の誰かにさせていたってこと?

いいや、そんなはずはない。そうした嘘があれば 他のレンとの会話で 食い違いとか出たはずだ。


アルファは結局、できあがって直ぐは 稼働しなかった。 それはそうだ。だってまだ私以外に 私みたいなのは見つかっていなかったんだから。


けれど……そうか、例えば、あの時の銀河とは違う 別の銀河であったなら……。いいや、それもないか。


あのアルファの次に取り掛かったのは、奴さんに相談されて 銀河間のより速い 移動についてだ。その中で 私が あの青い粒子を 見つけたのだから、あれより前に 青のゲートとかいう移動方法はないはず。であれば 奴さんの言葉を信じればだけど、レンたちは 銀河間の移動に 相当の年月がかかっていたはず。


……けど、私が生まれる前のことだとしたら、その相当の年月をかけて移動していてもおかしくはないのか……


「あー、わかんない!」

「うわ、なに?えー、どうして?!な、なにがお分かりになりませんか?」

「うっさいわね!あんたに聞いたってしかたないことよ!」

「えーと、思うに……オーニー。あなた、ご自分がいなくなっていた間のこと、まだ知らないでいますよね?その関係でお悩みとか?」


ジーニーはそう言うと、覗き込むように私の顔を見てくる。

トラベラーズ・ハットを脱げ!つばが当たりそうで 嫌だわ!


「ええそうよ!というか、私は別にいなくなっていたわけじゃないわよ。果てを見に行ってたのよ、果て」

「はて?ヤツガルド様方が 方々を必死にお探しになり、結局どの銀河にも あなたを見つけることができなかった、と記録されてましたよ」

「はっ!記録とってるんだ。そりゃ 大儀なことですね」

「ええ。確か その記録についても 原初にヤツガルド様が出逢った 不思議な生命に教わったと記録されておりました」

「んじゃその時にもう、奴さんは 私みたいなのと出逢ってたんじゃん!やっぱ嘘つきかぁ!悔しい!!」

「まってまって、何言い出してるんですか?」

「その原初とかいう頃に、奴さんは 既にもう 私と同類か似たようなモノに出逢ってて、そいつを使い倒して 逃げられたか 殺しちゃったかしたんでしょ!それで、二度目に私と逢ったときに、もっとうまくやろうとか 考えて、それで知らないふりをしてたんでしょ!」

「あー、違います」


そう言うとジーニーは、おもむろに私の目をのぞき込んできた。

つば広のトラベラーズハットがおもむろに私のおでこを突く。そうして凝視されるジーニーの目を見ると、その深い青色の瞳に私の素っ頓狂な顔が映り込んでいる。


まつ毛が随分と長いなと、そう思った。


「違わなくないわよ!だから 扱い方が上手かったのよ! 誠実そうで こっちの権利を 奪おうとかしないで、 旨いこと契約とかで縛って、 それであれこれさせて……」

「原初にその不思議な生命がもたらしたものは、今言いました記録以外に銀河系内の中心部に シンの生活施設を設けることと、青いゲートによる銀河系間の即時移動、 赤色矮星となり終焉を迎えるレンの恒星からの離脱プロセス、 恒星を中心とする星系での レン同士の諍いを収める基本方式など 他にも多岐に渡り残されています。オーニー、ご記憶に ありませんか?」

「どれも全部二番煎じだったんだ。私、なんで調子に乗って 良い顔しちゃったんだろう……。あー、もう、後悔!悔しい!どうして!!」

「あー……」


あまりの悔しさに その場で地団駄踏んで 怒鳴り散らす私を前に、ジーニーは おかしなことを口にした。


「せっかくの可愛いお顔が、台無しですよ。どれも全部、あなたがしてきた記録じゃあないですか」


そう言った。確かに。

可愛いお顔ってのも おかしなことだが、それよりも何よりも その原初に奴さんが出逢ったという、不思議な生命?それが、私?!


「あ、果てか……」


想像以上に永い間、あの果てに居続けたんだろうか、私は。でもそう考えれば そうなのかもしれない。

あの場所で確かに もう奴さんも 星々も 全部滅んでいるんだろうなって 考えたことがある。

何もないところだったから、時の経過もよくわからなくて、 それでなんとなくそう思ったんだ。


「果て、でしょうね。おそらくは。その地にて ひっじょーに永い間 自由を満喫されていたのでしょう。それで あまりにも永く過ごし過ぎて、こちらの方でどれほどの時が流れたのかを 失念していた、と」


カチンとくる言い方だけど、たぶんそう。

ジーニーが言うことが正しいなんて 認めたくはないのだけど、たぶんそう。

そう、なんだろうけど、やっぱりなんだか納得がいかない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る