第7話

 担任へのあいさつが終わると同時に楠本はロッカーから荷物をひったくって教室を出た。今日の終礼はいつもより早く終わった。それに昨日みたいに担任に捕まることもなかった。

 いつも通り鍵を借りに職員室に寄る。入り口近くに座っていた教頭先生に入室の許可を貰って藤岡の元へ。どこのクラスの担任にもなっていない彼女はこの時間帯はいつも職員室にいる。

「楠本、もうマレットとワイヤーの件は大丈夫だから」

「なんの話ですか?」

「葛城先生から聞いたよ。部長たちに暴力を振るわれているんでしょう?」

 そう言って藤岡は事務机の最も大きい引き出しを開いて見せる。ぎっしりと詰め込まれたファイルの上に話題の物が乗っていた。チューブラーベルを叩く木製のハンマーに、水色の袋に収納されたフレキシブルクリーナー。昨日の面談の内容を葛城から聞いて音楽準備室から回収してきたのだろう。

「これってマレットって言うんですか」

「ハンマーともいうけどね」

「先っぽが丸いやつだけをマレットって言うと思っていました」

 楠本はパーカッションの事については詳しくはない。シロフォンとグロッケンのどちらが木琴でどちらが鉄琴かが辛うじて分かる程度だ。それらの楽器はマレットと呼ばれるヘッドが付いたバチで叩かれるわけだが、それの素材には木、ゴム、プラスティック、毛糸と様々な素材が使われる。それのどれで何を叩くか、どれをどのような状況で使うのかまでは分からない。

「これは先生が預かっておくね」

「パーカスの連中は知っているんですか?」

「それは今日の終礼で話すから」

 チューブラーベルを使う曲を演奏する予定がなければクリーナーだってしばらく管内洗浄をする予定もない。藤岡が預かっていても何の問題がないどころか楠本にとっては大歓迎だ。ここの吹奏楽部でそれらを普段から使っているのは小柳と荻野だけだから。しかも人に危害を加えるためという目的外の使用方法で。

 楠本はこれから部活を始める旨を伝えて職員室を後にした。すぐ隣の階段を三階まで上がり、廊下突き当りの音楽準備室へとまっしぐら。その道中で被服室や音楽室などの他の教室を開錠しておくことも忘れない。チューバを取り出していつもの場所に二人分の席を設営して練習を開始。

マウスピースだけで音をだすバズィングをしながらふと外を見る。向かい側の教室棟。三年生の学級が入っている三階の廊下は生徒たちでごった返していた。わいわいと足早に部活に向かう生徒にがやがやと友人と談笑する生徒。それらは様々だ。廊下で談笑している小柳と荻野が視界に入ったが、楠本は彼らに対して何も思うことはなかった。彼はただチューバを早く吹きたいがために事前に荷物をまとめて終礼が終わると同時に活動場所に向かっているのだ。強豪校ならば学校が終わり次第速やかに部活に来るように指導されているのかもしれないが、ここは良くも悪くもそこまで厳しいことはしていない。それに楠本は自分の考えを他人に押し付けるような性格ではない。自分は自分、他人は他人。ただ自分の中のルールを自分で徹底するだけだ。

基礎練習がロングトーンに入る頃には周りから様々な楽器の音が聴こえてくるようになっていた。音楽室を振り返ってみると他の金管楽器は楽器を取り出して思い思いに音を出し、パーカッションは隣の部屋から楽器を引っ張り出している。

ふと気配を感じて入り口のほうを見ると蓮見が楽器を抱きかかえてよたよたとやってきた。彼女は小型のチューバを使っているとはいえまだ持ち運びに慣れていないようだ。その腕に抱いているものが中学生には払えないような高価なものであるというプレッシャーもあるだろう。それに楠本には分からないだけで小型のチューバといえども小柄な女子生徒には重いのかもしれない。

「蓮見さん、こんにちは」

 彼女ははにかみながらも楠本に挨拶を返してくれた。

 彼が新入部員の頃には先輩よりも先に挨拶をするように教え込まれてそれを徹底していたがそれを彼女にも教えようとは思わない。先輩だろうが後輩だろうが会ったら自分が先に挨拶を送る。それが楠本のポリシーだ。後輩ができたからといっても本人が偉くなったわけではない。それに気付けずに振る舞う姿は傲慢としか言いようがない。後輩とどういう姿勢で向き合うか。よくも悪くも後輩はそういう姿を見て育っていくものだ。楠本は先輩のその姿を見てこのポリシーを掲げたし、また蓮見もそうやって成長していくと信じていた。



 チューバを吹いていると突然後頭部を殴られた。その衝撃で頭部全体が前進し、歯とマウスピースに勢いよく挟まれた唇に痛みが走った。

「おいノーサウンド!」

 振り返ってみると暴力を振るったのは荻野だった。

 木管楽器のことはよく知らないが金管楽器を吹いている人に衝撃は与えてはならない。その衝撃で歯や唇を怪我する危険があるからだ。過去にはそういう描写があったことで炭酸飲料のテレビコマーシャルが放送中止になったこともあるぐらいには危険な行為だった。同じ金管楽器をやっている荻野は三年間も楽器を吹いていてそういうことも知らないのだろうか。そもそも人の後頭部は殴っていいようなものではない。荻野の隣では小柳が威張り腐った顔をしていた。

「お前だろハンマー隠したの!」

「……何のこと?」

「パーカッションのハンマーだ!」

「知らないよ」

 チューブラーベルのマレットのことか。藤岡が場所を移した事は言わないほうがいいだろう。それにしてもそれがないことにもう気づいたのか。彼らは二人ともパーカッションではないのに。それに今はその楽器を使うような曲は練習していない。今そのマレットがなくても何の問題もないではないか。強いて問題があるとするならば彼らのおもちゃ――力を誇示する道具――がなくなったというだけだ。

「嘘ついても無駄だ!」

「俺たちにはノーサウンドの嘘なんてお見通しなんだよ!」

「お前吹奏楽部のくせに楽器を隠したりするのか!」

「楽器を大事に扱わないヤツなんかここに要らない! お前なんか辞めちまえ!」

 楠本は荻野に胸倉を掴まれた。

「だから知らないってば」

「まだ分かんねぇのか! 歯ァ食いしばれ!」

 荻野は拳を振りかぶって殴りかかろうとした。楠本は胸倉をつかまれている上にチューバを抱えていて大きな回避運動や防御動作はできない。彼はその衝撃を少しでも和らげようと顔を動かす。

しかしそれがまずかった。移動した先で荻野の拳が直撃。顔のど真ん中にクリーンヒット。

 隣で蓮見が悲鳴を上げる。

 音楽室の後ろで練習していたトランペットやトロンボーンの音が途切れた。

 鼻が熱い。

 奥からどくどくと何かが込みあがってくる。

 それは鼻血だった。

 チューバを左手だけで支え右手で患部を抑える。しかしあふれ出てくる血液はだくだくと手のひらから零れ落ち、見る見るうちに純白の制服を赤く染めていく。

「ねぇ何の騒ぎ?」

 廊下でパート練習をしていた蒲生がこの異常事態に気づいた。

「ちょっと何があったのよ!」

 老朽化した板張りの床をぎしぎしと軋ませながら彼女は駆け寄ってくる。

「別に俺たちは何もしてねぇよ……」

「そんなわけないでしょうが!」

 想定外の出来事だったのだろうこの状況に慌てる荻野は弁明しようとするが、それを蒲生は跳ね飛ばした。それも当然、何もないのにこんな大量の鼻血を噴くなんて普通はあり得ない。

「ホルンパート! 二人ともすぐに顧問と保健室の先生を呼んできて! 楠本が鼻血!」

「はい!」

「トランペットはトイレからトイレットペーパーを取ってきて! トロンボーンはゴミ箱!」

「はい!」

「蓮見さんはすぐに楽器を安全な場所に置いてここから離れて」

「はい!」

 こういう状況下では行動する人と行動する内容を個別に指示したほうが良いと聞く。蒲生は的確に指示を出し、指示を受けた部員たちはどたどたとそれぞれの役目へと散ってゆく。その姿はベテランの救急隊員のようで何とも心強く、そして安心することができた。

「楠本、チューバ置くわよ」

 チューバから僅かな動きがあった。おそらく彼女がどこかを持ったのだろう。

「管が抜ける場所があるから気を付けて」

「私だって金管やっているんだから分かるわよ」

「太い場所を持てば大丈夫だから。細いところは絶対に持たないで」

「ほら楠本、私が持ったからゆっくりと離して」

 あまりの激痛に目を開いておくことさえ辛かったが彼女に楽器を落とされたりでもしたら大変だ。彼はやっとの思いで目を開き、彼女の手が安全な場所を持っていることを確認する。

「それじゃあ手を離すからね。重いよ」

「分かった」

 ゆっくりと手を開くとチューバがふわりと浮いたような感触がした。これでガタンと倒れたりしたらどうしようかと不安に駆られたが、彼女を信じ勇気をもって手のひらを開いた。

「どう置けばいいの?」

「ロータリーが上を向くように寝かせておいてくれたらいいから。血が付いているかもしれないから気を付けて」

 抑えた鼻からはポタポタと熱い血液が滴り落ちていた。


「お婆さん、今回は楠本君がこんなことになってしまって。すべて私たちの責任です」

「いえいえ責任だなんて。むしろ先生には孫がお世話になっています」

 蒲生から指示を受けたホルンパートの後輩たちが大慌てで職員室に突っ走り顧問である藤岡や養護教諭を連れてきた。現場は阿鼻叫喚。楠本は鼻血がとまらず床に血だまりを作っていた。さすがにやりすぎたと思ったのか男子グループはおとなしくなっていた。騒ぎを聞きつけて野次馬根性丸出しで様子を見に来た木管楽器の女子部員の数名は楠本の血を見て卒倒していた。

 部活のことは応援で駆け付けた教頭と数人の教師に預け、藤岡は自家用車で楠本を自宅に送り届けていた。鼻血で制服のワイシャツを赤く染めた楠本をそのまま返すわけにはいかなかったからだ。

 教頭が事前に連絡を回したのだろう。自宅に到着したときには楠本の祖母が家の前で待っていた。直後には学級担任である葛城も到着した。空手部の活動は切り上げて駆け付けたのだろう。大会を控えているのに練習時間を潰して申し訳ない。友人の菱川の顔が思い浮かんだ。

 藤岡と葛城はさすがに怪我をした楠本を引き渡して帰るわけにはいかなかった。こうなった事情説明をするために自宅にお邪魔して、緊急の家庭訪問となったのだ。

「拓海、アンタ学校でいじめられとっとね?」

 祖母は宮崎訛り。特に県北訛りの宮崎弁で楠本に尋ねた。身内に対して使う言葉遣いだ。意識して使っている標準語は余所行きの言葉。

「………………」

「こんなこつなっちょっちゃから隠しきれんが」

 祖母の言う通りだ。部活で暴力を振るわれて鼻血を噴いた。そして顧問に送迎されて今は緊急家庭訪問。この状況で部活の状況を隠し通すことは不可能だった。

「……今日は殴られて鼻血出た」

「いつもそんなこつされちょっとね」

「血が出たのは初めて。いつもは殴られたり蹴られたり」

「なんで言わんかったんね」

 このことを祖母に話せば部活を続けることを反対されることが容易に想像できたから。楠本は部活を辞めたいと何度も考えていたが、それを実行に移すとチューバが吹けなくなってしまう。そのデメリットが大きすぎて楠本は退部する決心がつかなかった。それに低音パートに残されてしまう蓮見が心配だった。彼女はまだ未熟だ。それに楽器も3/4サイズ。一人で楽団を支えるには荷が重すぎる。

「アンタはどうしたいんね?」

「……部活は正直辞めたい」

「そんな部活辞めればいーが」

「そしたらチューバ吹けなくなる……」

「そんなん楽器なんてうちゃるわ。家で吹けばいいが。なんぼすっとね?」

「いいよ買わなくて」

 チューバなんてものは簡単に買えるようなものではない。楠本の大先輩にチューバを購入した国家公務員がいるが百二十万は飛んで行ったと話を聞いている。ランクを落としても最低限演奏に使えるものだと五十万ぐらいは見ておかないと厳しい。家計が苦しいこの家にそんな余裕がないことは中学生の楠本でも理解していた。それにこの先チューバを吹き続けるという確証もない。中学校の部活でこんな目にあっているのだから高校ではきっと吹奏楽部には入らないだろう。社会人になっても吹奏楽の世界には戻ってこないかもしれない。初期投資と考えても続ける可能性の低いものに数十万も出資するのはもったいない。

「藤岡先生、うちの孫は他の生徒からどんな扱いを受けているんですか?」

 祖母は訛りを隠しきれていない余所行きの標準語で楠本の学校での様子を質問した。その意図は顧問の責任を問うためのものではない。楠本に退部を勧める口実を探っているようだ。

「楠本君は部にどうしても必要な部員なんですけど、一部の部員からはノーサウンドと言われているんです」

「ノーサウンド?」

「私も先日楠本君から聞きました」

「それはどういう意味なんですか?」

「楠本君の音が聴こえない。だからいなくても問題ない。という意味らしいです」

 先日楠本が話した言葉を使って説明した葛城は「そうだよな?」と楠本に目配せする。楠本は首肯した。

「拓海、アンタおらんでいいっち思われちょるが。そんな部活辞めちまいない」

 居なくていいと思われているんだったら、わざわざ部活を続ける理由はない。たしかに祖母の言う通り。ノーサウンドと言われながらも続けるなんて、そんなのはこちらからお断りノーセンキューだ。

 しかし楠本は部活を辞めるという決心はできなかった。

 中学の部活でこのような目にあったのだ。続けようが辞めようが、これが影響となり高校では吹奏楽部には入らないだろう。そして大学生、社会人となっても吹奏楽の世界に戻ってくるとは思えなかった。つまり楠本が大好きなチューバを吹けるのは部活引退の十月までの数か月だけ。いま退部するのは簡単だ。しかしそれをしてしまえばチューバは二度と吹けなくなる。それが嫌で楠本は部活を辞めるという決断ができなかった。

「指揮者としてはいてくれないと困るんですけどねぇ」

「それでも何人かはいないほうがいいと言っているんでしょう?」

 それは指揮者と奏者の違いだろうか。それとも顧問と部員の違いだろうか。

 そもそもノーサウンドと主張している小柳はトロンボーン。荻野はトランペットだ。楠本のチューバとはベルの向きが違えば音域も違う。それを彼らは一緒くたに考えているのだろうか。

「連中には痛い目に会わせないといけませんなぁ」

 葛城が腕を組んで唸る。

「……明日の本番、楠本君抜きでやってみましょうか」

 驚きの提案をしたのは藤岡だった。

 明日の本番をチューバ抜きでやるだって? そんなことをすれば演奏が破綻してしまう。蓮見のチューバがあるが今の彼女に三十人近い楽団を支えるだけの技術はない。そもそも彼女が使っている楽器自体がそれを目的に作られていない。

 もちろん楠本は瞬時にそのことを考えた。

「俺を降ろしたら演奏が破綻します。蓮見さんだけじゃ支えきれません」

「それは分かってる。明日の本番は本番であることに変わりはないけど、コンクールと比べたら練習みたいなものだから」

「それはそうですけど……」

 宮崎県吹奏楽コンクールでは県内の中学校吹奏楽部の部員が一同に会する。その人数は二千人弱。会場である宮崎市民文化ホールの大会場が埋め尽くされる。そんな大舞台に比べたら明日の体育館で行われる壮行会での演奏なんて遊びみたいなもの。観客はたったの四百名ほどしかいないのだから。しかもその観客のほとんどは演奏に興味がない。早くこの全校集会が終わらないかとばかり考えているのだろう。

 コンクールまで時間は残されていない。利用できるものは何であろうと利用するべきだ。明日の壮行会ですら実戦経験を積む練習機会と考えるのは合理的だろう。それは楠本、藤村の共通の考えであったが、楠本は後輩のことが気がかりだった。

「それだとしても一年生たちにとっては明日が初めての本番なんです。それなのにわざと事故らせるなんてあまりにも……」

 楠本の吹奏楽部での初舞台も壮行会での演奏であった。小学校の課外授業で文化ホールのステージに立ってリコーダーを演奏したことはあったがそれは授業の延長線上でしかなかった。しかし壮行会での初舞台は違っていた。たとえ観客が少なく、そのうえ自分たちの演奏に興味がなかったとしても。自分の意思で入部した吹奏楽部、放課後をほぼ毎日費やして練習した数か月間。その結晶が小学校の課外授業と同じなわけがない。

「分かる、分かるよ」

 うんうんと藤岡は頷く。

「小さいとはいえ最初の本番で事故ったらトラウマになって、今後の部活が苦しくなると思うんです」

「それは分かる。だけど考えてみて。このままズルズルと部活を続けたら肝心のコンクールで事故る。それこそトラウマになりかねないよ」

 確かに二千人の前でヘマするよりかは四百人の前で失敗したほうが影響は少ないだろう。ましてやコンクールの観客は音楽経験者ばかり。それに比べたら音楽経験どころか興味すらない在校生の前のほうが気楽だろう。

「音楽家は多かれ少なかれ事故を経験するもの。先生だって指揮の途中で落ちたこともある」

 指揮台から転落――という意味ではない。楽譜のどこを演奏しているのか分からなくなった状態。それを『落ちる』と表現する。休符のカウントを間違えたりテンポの揺れについていけなくなったり――さまざまな要因が落ちるという事故を引き起こす。それは指揮者といえども例外ではない。一瞬楽譜から目を離したがために位置を見失うことがある。

「一年は早いうちに事故を経験したほうがいい。失敗だって経験のうち」

「それだとしても蓮見さんにとってはキツいと思うんです。他の楽器だったら同じパートの先輩がいますけど、蓮見さんは俺が抜けたら独りぼっちなので……」

 それぞれの楽器の楽譜はファースト、セカンド、サードと分かれている。一年生といえども一つの役目を任されているのだ。一つのポジションに複数人が当てられているのは人数が多いクラリネットだけ。しかしポジションが違うといえども同じ楽器の先輩が近くにいる。孤独感は感じないだろう。

 しかし蓮見は違う。同じ楽器の先輩は楠本だけだ。楠本が舞台を降りれば蓮見は一人だけになってしまう。楠本が舞台を降りることをためらっていたのは楽団全体のことよりも、蓮見のことが心配だったからだ。

「楠本君は――」

 藤岡が楠本に話かけるが、普段とは違う呼び方に彼は背中をさわさわと撫でられた気がした。

「先生やめてください。いつも通りに呼んでくださいよ」

「だってここは楠本君の自宅だから」

「その呼び方だとぞわぞわするんです」

「先生、拓海っち呼び捨てでいいですから」

 祖母が援護を入れた。

 そうしないと話が進まないと考えたのだろうか。もともと祖母は孫が呼び捨てにされても気にならない性格ではあるが。

「それじゃあ」

 藤岡はいつも通りの呼び方をしてくれるようだ。

「楠本は蓮見がピアノを習っていることは知っているね?」

「もちろん」

「蓮見は五歳の頃からピアノ教室に通っているって。コンクールに積極的な教室らしくて何度もコンクールに出場しているらしい」

 舞台経験年数だけで言えば楠本の約二倍ということだ。

 しかし同じ音楽といえどもピアノとチューバでは勝手が違う。一通り演奏はできるが熟練度はあまり高いとは言えない。まだ三カ月目の初心者だ。いきなり一人で舞台に立つというのは酷だろう。

「それとお婆さん、明日の昼からお時間ありますか?」

「こんな年寄りに明日の予定なんかありませんよ」

 明日お呼ばれするかもしれないし――楠本の祖母は冗談めかしてケタケタを笑う。未来のことを笑い飛ばすのは年寄ジョークというものだろうか。藤岡と葛城が返事に困った。楠本も何といえばよいのか分からなかった。

「明日の壮行会の演奏、楠本君と一緒に聴いてみませんか?」

「あらあら、いいんですか?」

「楠本君がいないとどうなるのかを見て頂きたいんです」

 それは楽団に楠本がいないと困るという証明のようなものだった。楠本抜きで演奏し、それが破綻すれば楠本が必要というもの。

しかし裏を返すと演奏が破綻しなければ彼らの主張は正しいものということになる。もしそういうことになれば祖母はより一層部活を辞めることを勧めてくるはずだ。

一か八かの賭け。もしかしたら楠本が要らない存在に認定される。しかしそれ以上に小柳たちを除く他の部員、特に蓮見のことが心配だった。黒歴史となる失敗をしないだろうか、その失敗がトラウマにならないだろうか。そのことが楠本は心配でたまらなかった。

「先生、そしたら俺はどうすればいいんですか?」

 演奏を抜けて祖母と共に見学するということはその舞台と同じ空間にいなければならない。しかし見学している楠本の姿を見たら、他の部員たちは疑問に思うだろう。それ以上に小柳たちに余計なネタを提供することになる。

「楠本、明日は学校をサボろう」

 驚きの提案だった。

 まさか教師から学校をサボることを勧められるなんて。

「そうだな。学校に来ているのに壮行会には参加しないなんて不自然だ。貧血で体調不良ということにして休んだほうがいいだろう」

 担任の葛城が藤岡の提案に同意する。彼が思いついたのは体育教師らしく保健学に基づいたサボりの口実だった。

「楠本も一度自分たちの演奏を外から聴いてみるといい。ステージでの聴こえかたと客席での聴こえかたは違うものだから」

「学校を休んでるのにどうやって聴くんですか」

「それなら体育教官室を使うといい。ドアがあるから目隠しもできる」

 藤岡の提案に葛城の援護射撃。楠本はみるみるうちに逃げ場を失っていった。


 鼻血を吹いた翌日。

 楠本と祖母はタクシーを使って中学校の体育館にやってきていた。目立たぬように給食の時間を狙ってやってきた。在校生には見つかっていない。さらに体育教師である葛城が配慮してくれた。他の教師に話を通しておいてくれたうえ、事務所に根回しをして来校手続きを体育教官室で片付けてくれたのだ。

 狭い体育教官室。棚には古い保健体育の教科書やルールブックなどが押し込まれ、机の上にはラバーの大半がはがれた卓球のラケットが置かれている。乱雑な空間により室内が狭く感じたが、それでもごく少人数で面談ができるぐらいの広さはあった。

「楠本、体調はどうだ?」

「だいぶ良くなりました」

「そうか。だけど結構血を流したみたいだからな。鉄分を多く摂取するんだぞ」

 隣では祖母が「帰りにスーパーに寄って帰ろう」「たしか今日は近所のスーパーが豚レバーを安売りしていた」と独り言をつぶやいている。教師公認とはいえ楠本は学校をサボっている身だ。買い物は一度帰宅してから祖母一人で行ってほしい。

「楠本、トイレには行かなくても大丈夫か? 行けるのは今のうちだぞ」

「そうですね、行ってきます」

 壁に掛けられた時計をちらりと確認する。

 そろそろ給食が終わるころだ。

 その後は昼休み。吹奏楽部はこの時間を利用して会場設営を行う。さらに午後一番に行われる壮行会は各教室から整列して入場するが、吹奏楽部員は別働で昼休みから式典開始まで体育館で待機する。昼休みから壮行会終了まで約一時間半。その間はトイレに行くことはできなくなるが、映画館で短い映画を見るものと思えば長いものではない。


 扉の向こうで吹奏楽部の準備が終わったようだ。音だしが終わったかと思えば多くの足音が響いてきた。生徒の入場が始まったようだ。

 その足音も静かになり、やがてマイクを使ったアナウンス。

 壮行会が始まった。

 会場の音が聴こえるようにと体育教官室のドアは開放され、念のために葛城が立ちふさがって目隠しをしてくれている。もっとも楠本は入り口からは死角になっているところに座っているが。

 外から見られないように気を付けながら、チラリと体育館の中を覗いてみた。ステージの前では夏の大会に出場する運動部が整列し、各部部長が決意表明を述べている。楠本の友人である菱川も、空手部主将として空手部の先頭に立っている。

 やがて順番は吹奏楽部に回ってきた。

 ガタッとパイプ椅子が揺れる音が聞こえた。吹奏楽部員が一斉に立ち上がったのだ。

 スピーカーから小柳の声が聞こえる。

『吹奏楽部です。僕たち吹奏楽部は八月一日に行われる宮崎県吹奏楽コンクールに出場します。仲間たちと一致団結し、九州吹奏楽コンクール。そして全国吹奏楽コンクール出場を目標に頑張ります』

 仲間たちと一致団結?

 楠本は顔をしかめた。

 その団結を砕こうとしているのは一体誰だと思っているのか。マイクを握っているやつに聞いてみたかった。

 それに九州吹奏楽コンクール?

 全国吹奏楽コンクール?

ここ数年のコンクール成績を覚えているのだろうか。まずは県大会でこれまでよりも一つ上の銀賞を目指すことが目の前の目標ではないか。頂点を目指すのは結構だが、目の前の目標をないがしろにする人は頂点にはたどり着けないものだ。

『それではコンクールで演奏する曲を披露します』

 課題曲と自由曲が紹介され、演奏が始まった。


 課題曲のマーチが終わった。

 全校生徒の拍手が巻き起こる。

 しかし高音楽器がやたらとキンキンと鳴るだけで躍動感のない薄っぺらいマーチだった。これでは九州大会どころか県大会銀賞も難しいだろう。

 蓮見のチューバだけで四拍子のリズムを刻むのは限界があった。バスドラムがなかったらリズムキープはできていなかっただろう。それに加えトランペット、トロンボーンによる強弱記号の無視。抑揚がなく全体のバランスもめちゃくちゃ。和音は崩壊し、それぞれのファーストだけが悪目立ちしていた。音量こそが正義と考えている小柳と荻野の仕業だった。

 楠本はここまでひどいとは思ってもいなかった。藤岡の言っていたとおりだった。舞台で演奏しながら聴くのと外から聴くのではここまで違うとは。

 明日の部活ではどのような練習をしようか。旋律部分の低音の深みがもっと欲しい。そろそろ基礎練習のレベルを上げてもいい頃合いだろう。楠本は明日の部活での蓮見の練習方法を考えていた。

 楠本はまず蓮見を第一に考えていた。これは蓮見がチューバに正式配属された頃からの習慣だった。それぞれの楽器の責任者であるパートリーダーはそれぞれのパートの練習に対して責任を負っている。それは楠本も例外ではない。楠本は蓮見の練習に責任を負っている。

 裏を返せば楠本は蓮見の練習にしか責任を負っていない。他の楽器はそれぞれのパートリーダーの責任だ。楠本はバランス崩壊を起こしたトランペットやトロンボーンになにか口を出そうとは思いもしなかった。楽器ごとに練習方法が異なる。奏者ごとに最適な練習方法がある。それを知らないのに練習に口出しするということは無責任でしかない。

 先ほどの課題曲はトランペットとトロンボーンが悪目立ちしていた。それは曲全体に抑揚がなく和音のバランスの崩壊。それらの結果はすべてパートリーダーである小柳と荻野の責任だ。もっともその事故を起こしたのは彼らであるが。

 そもそも小柳と荻野は爆音主義だ。大きな音を出せることが上手さであり正義と考えている彼らに音量バランスを説いたところで無駄だろう。それに加えて二人は楠本を見下している。楠本が彼らに何かを言ったところで聞き入れてくれるとは到底考えられなかった。

 拍手がやみ、自由曲が始まった。

 トランペットのファンファーレが響き渡る。バーンズ作曲、『アパラチアン序曲』。アメリカのアパラチア山脈をテーマにした楽曲であるが、本来の雄大さがなかった。課題曲同様、薄っぺらかった。楠本は確かに蓮見の音を捉えていたが、彼女の3/4チューバでは限界だった。奥行きが感じられない。まるで旋律だけしか演奏されていないようだった。

 演奏は薄っぺらいまま進行していく。

 折り返しが過ぎたところで、楠本はとんでもない見落としに気づいた。

 自由曲であるこの『アパラチアン序曲』にはチューバに旋律がある。課題曲のマーチにもチューバに旋律はあるが、そちらはトロンボーンもともに演奏していたから誤魔化すことができた。しかしアパラチアン序曲の旋律はチューバのみ。楠本の記憶が正しければ、トロンボーンは演奏していない。

 楠本がそのことに気づいたのは、その部分の直前だった。

 いよいよチューバソロが始まる。

 この楽曲で最もチューバが輝く場所だ。本来の編成ではほかの低音楽器も演奏するが残念ながら部にその人員はいない。この場面はすべて蓮見に託されている。

 フルートから旋律を受け継ぎ、チューバソロが始まった。

 細々しいながらも蓮見は懸命に吹いている。楠本はその姿を容易に想像できた。しかしその演奏も終盤に差し掛かろうとした瞬間、蓮見がコケた。彼女は慌ててリカバリーを図ろうとする。ダメだ、フィンガリング唇の動きリップリードが合っていない。さらに最後の音を空振ってしまった。

 楽譜にはない静寂と共に動揺が広がる。

 スネアドラムの静かなロールが始まった。しかし彼女も蓮見につられたのかスティックの打撃が止まってしまった。

 藤岡は事態を収拾しようとキューを出しただろう。しかしトロンボーンの出だしアインザッツがばらけた。その混乱はトランペットへと伝染する。やがてアパラチアン序曲の主題へと移るがそれは聴いていられるようなものではなかった。

 観客がざわめく。それも当然だ。もはやそれは合奏と呼べるようなものではなかった。藤岡は懸命に指揮棒を振っていただろう。主席クラリネット奏者コンサートミストレスも必死にまとめようとしていただろう。しかし部員のほとんどが迷走し、誰が正しく誰が間違っているのか分からなくなっていた。合奏は指揮者に合わせる。それがだめならコンサートミストレスに合わせる。そんな基本的なことすら分からないほどに。

 チューバの音が完全に聞こえなくなっていた。先ほどは完全に聞こえていたはずなのに。楠本は不安になり体育教官室から顔を出した。学校を休んでいるはずの自分がなぜか学校にいる。そんなことを不思議に思われるのなんてどうでもよかった。

 演奏しているはずの蓮見はチューバを吹けていなかった。マウスピースから唇を離し、呆然と譜面を眺めているだけ。譜読みに長けているはずの彼女は完全に落ちていた。自分のせいで演奏が壊滅してしまった。そう絶望した表情だった。

 ピアノとチューバは違う。ピアノコンチェルトや伴奏であれば話は別だが、ピアノは基本的に独奏だ。たとえ事故ったとしてもステージには自分しかいない。演奏に影響がでるのは自分だけだ。しかしチューバだとそうはいかない。五歳の頃からステージに立っているとはいえ、自分のミスで楽団全体を破綻させたのは初めての経験だろう。

 楠本は居ても立ってもいられなかった。すぐにでもここから飛び出して蓮見の隣でチューバを吹きたかった。小柄な彼女にのしかかる重荷を代わりに背負ってやりたかった。蓮見の責任じゃない、先輩である俺の責任なんだ。顧問に指示されたとはいえ本番を降りるんじゃなかった。蓮見を一人にするんじゃなかった。

 演奏は完全に止まった。いや、藤岡が止めた。もうこれ以上演奏は続けられないと判断したのだろうか。それともあらかじめ想定していたのだろうか。楠本には分からない。

 緊張が解けて観客が一斉に口を開く。それは演奏に対する感想や失笑だろう。もちろん良い感想ではない。周囲の教師たちはその私語を止めようとするがなかなか治まらない。吹奏楽部員はうつむいている。藤岡は演奏が止まったところから再開しようと口頭で指示を出している。

「楠本、気持ちは分かる」

 体育教官室の入り口で生徒たちを見守っていた葛城によって楠本は部屋へと押し戻され、ドアを閉められた。これ以上この現場を見せていたくない。それは葛城なりの優しさだった。


「楠本、どうだった?」

「途中で演奏が止まらなければ県大会で確実に銅賞が獲れますね」

「連続受賞の記録更新だね」

 楠本と藤岡は吹奏楽ジョークを飛ばしあい笑いあった。吹奏楽の経験者以外の多くが勘違いしているが、吹奏楽コンクールでは金賞、銀賞、銅賞が一位、二位、三位というわけではない。各審査員がA、B、Cの三段階で評価し、A評価が過半数を超えれば金賞。C評価が過半数を超えれば銅賞。それ以外が銀賞という基準で決められる。つまりどれだけ滅茶苦茶な演奏をしても銅賞は確実に獲れるというわけだ。

 ちなみに演奏の制限時間は十二分。これを超過すると問答無用で失格だ。今回のようなゴタゴタがなければ時間内に終わるけれども。

 壮行会が終わったあと、体育教官室では四者面談が行われた。壮行会が終了したドアの向こうには生徒はいない。おそらく今頃は次の授業が始まっているだろう。フロアの片隅に残された吹奏楽部のパイプ椅子と譜面台は放課後に吹奏楽部員が片付ける予定だった。

「お婆さん、お見苦しいところを見せてしまいましたが、楠本君がいないとこうなってしまうんです」

 藤岡は自信に満ち溢れていた。演奏会には失敗したが、証明には成功した。この吹奏楽部に楠本が必要という証明に。

「彼がいないと深みのない演奏になってしまうんです。それに低音楽器は一年のチューバが一人いるだけですのでリズムキープもできないんです」

 祖母は音楽に関する知識はない。テレビで昭和歌謡曲を聴く程度で、演奏の深みというものまでは分からない。楠本が抜けたことで演奏の質がどう変わったかは区別がつかなかった。しかし今回の演奏は明らかに失敗であることは理解できた。

 その失敗は楠本が抜けたことに起因するのか、それともどのみちそのようなことになっていたのか。それは今となっては誰にも分からない。蓮見が失敗しなかったとしてもスネアドラムがコケていたかもしれない。スネアドラムがコケなかったとしてもトロンボーンの出だし(アインザッツ)が揃わなかったかもしれない。事実であるのは演奏が中断されてしまったということ。それと責任は失敗の連鎖を食い止めることができなかった各奏者にあるということだけだ。

しかし祖母にとって責任の所在はどうでも良かった。孫が楽団に必要とされている。音楽に造詣が深い藤岡の言葉が嬉しかった。

「今回の事でいじめていた部員も考えを改めたでしょう」

 それはどうだろうか。不本意ながら小柳たちと三年目の付き合いである楠本は彼らが今回のことで更生するとは思えなかった。考えを改めるかもしれないが改めないかもしれない。むしろ今回の事をネタにするかもしれない。楠本は先日の鼻血で貧血を起こし体調不良のため欠席という話になっている。その鼻血の原因を作ったのは小柳のグループに属する芝田がしでかしたことだ。身内に返ってくるブーメランを投げるとは思えないが、それをやりかねないのが小柳たちのグループだ。

「拓海、バンドにアンタが必要っち」

「………………」

「でん、婆ちゃんはもう辞めたほうがいいち思う」

 藤岡がいくら楠本が必要であると説いたところで、祖母は楠本が部活を続けることをあまり良くは思わなかった。

「拓海、どうすっけ?」

「俺は……コンクールまでは続けたい。俺は後輩を育てないといけない」

 楠本はむかし映画で観たシーンを思い出していた。フルチーンと叫びながら合唱コンクールを目指す女子高生の物語――後で調べてみたらフルチンではなくフルティーン、つまり全力の十代という意味だったが――。その映画で主人公が退部を申し出た際、顧問に「ラストステージは必要だから」と諭される場面があった。

 映画でそういうシーンがあったからというわけではないが、楠本はせめて吹奏楽コンクールまでは続けたいと思った。コンクールは吹奏楽部で最も大きいイベントだ。最後の大会である三年生も、来年がある二年生も力の入れようは違う。経験の浅い一年生は楽器に慣れるので精一杯だが、それでも先輩たちの鬼気迫るものは感じているだろう。その直前に辞めるというのは避けたかった。今回のようなことになりかねないから。小柳と荻野がどういうことになっても楠本は気にしないが、それ以外のほとんどの部員があの悲劇を繰り返すのは気の毒で仕方なかった。

 それに最後にもう一回ステージに立てるのであれば楠本は後悔しないだろう。さらにコンクールが終わったら蓮見は4/4のフルサイズチューバに変更する予定だ。その頃には蓮見はどのみち独り立ち。楠本は心置きなく退部することができる。

 残りの部活動生活を後輩の育成に捧げる。それもいいじゃないか。それだって全力の十代だ。

「先生、俺はコンクールまで続けます。それまでに蓮見さんを立派に育て上げます。それが終わったら辞めます」

「分かった。その後のことは気にしないで」

 楠本は決意した。

 部活はコンクールが終わったら辞める。いや、吹奏楽の世界からも離れる。高校でも吹奏楽はしない。もうこの世界には戻ってこない。

 チューバを吹くのは、この夏これっきりだ。

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