5.日記(2)

4月10日

美木くんとの喧嘩がやっとおさまりました。

喧嘩と言っても冷戦、だけどこれが厄介だったなぁ……


結局、七海ちゃんに仲裁に入って貰って一件落着……

困ったときの七海ちゃん頼み!

七海ちゃん、本当にありがとう、そしてごめんね。

もしも私と美木くんがうまく行かなくなったら……

その時は七海ちゃんが支えてあげてくださいね。


話題は変わって……

突然、田舎暮らしという計画が浮上しました。

もっと、ずっと一緒に居たいという思いが通じたのか、それは分かりません。

会社の事とか、移住先の事とか、色々考えると難題は山ほどあるような気がしますが、でもよくよく考えたら、最高のアイデア!


のんびりと田舎で歳を重ねていくなんて素敵、色々と夢が膨らみます。


***


10月10日

移住先が決定しました。


美木くんの友達の紹介で、長野県の飯山市になりました。。


その下見を兼ねて、行ってきました。

納屋つきの平屋一戸建て古民家と、小さいけど畑に田んぼ。

思い描いたとおりの田舎暮らし、テンションが上がります。


私の目には映りました。

おじいちゃんになった美木くんと、おばあちゃんになった私が仲睦まじく縁側でお茶を飲む姿が……


ここで一生暮らしていけたらいいなぁ。

贅沢な物なんてひとつもいらない。

だってここで美木くんと一緒に暮らす以上の贅沢なんてないもの。


紹介してくださった東山さんに感謝です。

引っ越したらよろしくお願いします!

唯ちゃん、また遊びましょうね!


***


3月6日

何を書くべきか迷っています。

もう日記をやめてしまおうか、とも思いました。


まさか、こんな事になるなんて……


余命宣告……

まいったな、私よりも美木くんのほうが悲しむんだもの。

残りの人生で、私は美木くんに何をしてあげられるのだろう……


***


4月5日

余命宣告を受けてから1ヵ月。


私は元気です。

本当に病気なのでしょうか?


現実は残酷です。

でも受け止めるしかありません。


今は、私よりも美木くんの事が心配です。

自分の不安を取り除くには人の事を心配しろ!と誰かに言われた事があります。

たしかにその通りだなと思いました。

美木くんの事を心配していると、私の不安は少し和らぎます。


覚悟は決まりました。

治療法がないのなら、残された時間は病気ではなく、美木くんと向き合って生きたい。

そして、美ヶ丘ファームに最後の希望を繋ぎます!


***


4月27日

ついに美ヶ丘ファームへ引越しました。


東山さんや、地元の方に歓迎されてのバーベキューパーティー、楽しかったなぁ。


七海ちゃん、駆けつけてくれて有難う。

唯ちゃん、一緒に遊んでくれて有難う。

そして美木くん、私のわがままを聞いてくれて有難う。

二人で最高の美ヶ丘ファームにしていこうね。

みんな大好きだよ。


終わりなんて考えずに今日一日を全力で過ごす。

それが今の私にはピッタリな気がします。

身体は鍛えられないけど、メンタルは鍛えられるはず……

私の笑顔が、美木くんの心に届きますように。


***


6月6日

なかなか日記と向き合える時間が取れなくなってきました。

痛みの度合いが増し、その間隔も短くなっている気がします。


麻酔を打つと意識が遠ざかるので、残りわずかな私の時間が無駄に消化されてしまうようで悔しい・・・


もっと美木くんとお話がしたいです。

もっと美木くんと笑い合いたいです。

もっと美木くんに触れていたいです。


美ヶ丘ファームで収穫される野菜が見たいなぁ。

旅行なんていけなくても、高級な料理なんて食べなくてもいい。

ただ、ここで平凡な暮らしをもう少し続けていきたい。


神様、私の望みはわがままなのでしょうか?


***


6月25日

終わりの時が近づいているのでしょうか……


ここのところ、夜になると死ぬのが怖くなります。

このまま眠ってしまったら、もう目が覚めない気がして……


私が死んだ後、美木くんはどうなるんだろう?

心優しい美木くんの事だから、きっと悲しみますよね?

私達の楽しい思い出は、いつまでも美木くんの記憶に留めて欲しいけど、もしも、それが美木くんを苦しめるのだとしたら……

そんな事を考え始めると、なかなか眠れません。


弱りきった私に優しく寄り添ってくれる美木くん、本当にありがとう。

美木くんの大きな手に包まれていると、私の心は落ち着きます。


麻酔のせいで感謝の気持ちをうまく伝えられないけど、美木くんの思いは充分伝わっていますよ。

だから、私が死んでも、そんなに悲しまないで下さいね。

美木くんの涙は、私が天国へ持って行きます。


***


7月7日

その時が来たようです。

この日記は、これで終わりにしようと思います。


出会いがあれば、必ず別れがくる。

出会いが素晴らしいものであればあるほど、別れは辛く悲しいのでしょうね。


でもどんなに悲しい別れでも、やっぱり美木くんと出会えてよかった。

美木くんも同じ気持ちでいてくれたら嬉しいな。


美木くんのおかげで、私は穏やかに病気と向き合えました。

もう覚悟はできました。

あとは静かに、その時が訪れるのを待ちたいと思います。


美木くん、幸せな人生を与えてくれて、ほんとうに、ありがとう。

大好きです

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