第12話 戦闘開始

 宝石都市ジェムシュタットは大きなドーム型の異空間だ。

 中心に王宮、そしてその周りを囲むように街が広がっていて、その外には白い何もない空間が広がっている。

 この白い空間は一見どこまでも続いている様に見えるが、ちゃんと終わりがあって見えない壁が存在している。


 そして今、その壁に黒い穴が出現していた。


「あそこからあいつらは来るのか」

「ええ、最初は小さい穴で数名しか来れなかったのですが、回数を重ねる度に穴は大きくなりたくさんのバグベアが侵攻してくる様になりました。前回は百を超える数が来ましたので今回はそれを上回ると思います」


 俺の疑問に騎士団長ザックが答える。

 そしてその言葉通り穴はどんどん大きくなり、ぞろぞろとたくさんのバグベアたちが姿を現す。その数は百や二百じゃ止まらない。この様子だと千人近くは出て来そうだ。


「バグベアめ、まだこんなに戦力を隠していたのか……!」

「お前らが抵抗するから本気を出したんだろうよ。総力戦ってやつになりそうだな」


 俺はバグベアたちがあらかた出尽くしたのを見計らうと、元の世界から持ち込んだ土人形ゴーレムの肩に飛び乗る。


「そんじゃちょっと挨拶かましてくるわ。いざとなったらザックの合図で勝手に始めてくれ」

「承知しました、ご武運を」


 騎士たちに敬礼で見送られながら、俺は一人バグベアたちに近づく。奴らは俺に気がつくと歩みを止める。まあ一人で来たら怪しくて一旦様子を見るよな。


「安全な距離は……こんくらいか」


 ギリギリ声が届く距離まで近づき、ゴーレムを止める。

 そして昨日作ったばかりの筒状の魔道具を口元に当てる。これは音を増幅する効果がある、言ってしまえば拡声器と同じだ。作りは簡単だけど、意外と役に立つ場面は多そうだから量産してお小遣い稼ぎをするのもいいかもしれない。


『あー、てすとてすと。聞こえるかー』


 拡声器越しに喋りかけるとバグベアたちは首を傾げる。

 うん、ちゃんと聞こえてるみたいだな。それじゃあ始めるとするか。


『俺は今回の戦いで魔宝石族ジェニマルたちの総指揮を務める事になった者だ。そっちの責任者と話がしたい。出て来てくれないか?』


 そう伝えるとバグベアたちは少しザワついた後、一人の人物が前に出てくる。

 他のバグベアたちより体が大きい、歴戦の猛者って感じの奴だ。いかにもリーダー格って感じだな。


「オレがバグベア族長ムハンバ・ドドリゲスだ。ナンの用だ石の肉の代表」


 低くこごもった声でバグベアのリーダー、ムハンバは聞き返してくる。

 石の肉……って魔宝石族ジェニマルのことを言ってるんだよな? 言葉が怖すぎる、チビっちゃうぜ。


『あー、ムハンバ殿、でいいかな? 戦いが三度の飯より好きそうな顔をしているあんたらとは違って、こっちは戦わずに済むならそうしたい。あんたらが何を狙ってるかは知らないが手打ちに出来ないか?』

「ワラわせるな。ワレらの要求は貴様らの持つ全て。ソコに手打ちなど存在しない! リャク奪と簒奪のみが我らの全て!」


 ムハンバの声に共鳴し、バグベアたちは雄叫びを上げる。

 ぶっ飛んだ奴らだとは理解してたけどここまでとはな。まあこんだけ救いようがないならこっちも思い切りやれる。


『これが最後通告だ。今すぐ手に持ったセンスない武器を置いてママの所に帰りな、さもなきゃ全員まとめて生まれて来たことを後悔させてやるよ』

「……ドウやら今回の戦いは楽しめそうだな」


 交渉決裂。

 どうやら俺たちには戦う以外に選択肢は残されてないみたいだ。


「奪い! 穢し! 蹂躙せよ! 我らの恐ろしさを思い知らせてやれ!」


 ムハンバがそう言うと、バグベアたちは一際大きな声で雄叫びを上げる。

 なるほど、大した統率力だ。だがこっちの士気だって負けちゃいない。俺はゴーレムを下がらせながら、後ろにいる仲間たちに向かって声を張る。


『いくぞ野郎ども! マナーのなってない豚野郎どもにお帰り頂くとしよう! お前らの力を見せつけてやれ!』


 バグベアのそれに負けず劣らずの力強い雄叫びを魔宝石族ジェニマルたちは上げる。よし、これなら気持ちで負けてない。いくら戦力があっても怯えてたら勝てる戦いも勝てないからな。


「イケ! 全軍前進! 最後の一人になるまで戦い尽くせ!」

『全魔大砲発射準備! 放てっ!』


 バグベアたちの侵攻が始まると同時に、こっちも攻撃を開始する。

 この戦いに手打ちはない。やれるとこまでやってやるよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る