第5話 辺境の鍛冶師
「ちょっとその金槌見せてくれ!」
「おわ! 危ないって! 作業中に腕を触んないで!」
ゴブリンの腕を掴み、握られている金槌を直近で観察する。
「ほうほう、これは……」
「な、何してんの?」
まだ熱を持つ金槌を触り、流れる魔力を感じ取る。
熱くて指が火傷するけど知ったことか。今はそれよりこの魔法がどんなものなのかを調べなきゃ!
「
金槌に流れる魔力を解析。
ふむふむ……なるほど、大体分かったぞ。これは金属にのみ作用する特殊な魔法だな。
頭の中に思い浮かべた武器の完成形の図面を魔力に変換し、金槌に乗せる。
そしてそれを金属に叩いて打ち込むことで武器の形に変形させてたんだ。
従来の鍛治方法とは似て非なる新しい魔法だ、これは素晴らしい。これを術式に直すとここをこうして、あそこをあーして……って、かーっ、マジかよこれ……!
「おいお前! えーと……名前は?」
「僕の名前はビスケ・ゴブリールだけど……」
「そうかビスケ。お前この魔法どこで習った?」
ビスケの使っているこの魔法はスゴい。
魔法オタクの俺から見ても美しくて無駄のない魔法だ。この魔法を作った人は天才に違いない。もし会えるなら会って魔法談義をしたい!
「僕のこの『魔導式鍛治術』はドワーフの師匠から教わったものだけど……」
「そうか、その師匠はここにいるのか? ぜひ会いたいんだが」
「……申し訳ないけど師匠は二年前に死んじゃったよ。今この技術が使えるのは僕だけだよ」
「そうか……」
残念だ。さぞ魔法に造詣の深い人だっただろうに。
しかしドワーフか。言いことを聞いた。
ドワーフは魔王国にはほとんど住んでないけど、隣国である『鉱石と鍛治の国ダヴェッリア』にはたくさんのドワーフが暮らしていると聞いたことがある。
魔剣のことも詳しいやつがいるかもしれないし、今度行ってみてもいいかもな。
「しかしなんでドワーフがこんな所に? 親戚ってわけじゃないだろ?」
「俺にこの技を教えてくれたドワーフの爺ちゃん……ヨプ爺はこの技術を編み出したんだけど、他のドワーフたちに『この技術はよくない、こんなの邪道だ』って言われて国を追われたらしいんだ」
「新しすぎる技術は反発されることも多いからな。馬鹿な奴らだ」
「ありがとう、褒めてくれてきっとヨプ爺も喜んでるよ」
そう言ってビスケは涙ぐむ。
……一人で鍛治をやってる所を見るにこのビスケってゴブリンはドワーフの爺さんが亡くなってからも一人でずっと鍛治をやっていたんだろう。
他の
腐ることなく鉄を叩き続けた。
「……いいね」
好みのタイプだ。
もちろんアレな意味ではないぞ。
「ちょっと貸してみな」
「あっ、僕の金槌!」
ひったくった小槌に魔力を込める。
確か……こんな感じだったか? 先ほど記憶した術式を丁寧に組んで魔力を走らせる。
「くく、こりゃ難しい。たまんねえな」
簡単な魔法なんてつまらない。
難しくて訳わかんなくて頭が沸騰しそうな問題を解くのが楽しいんだ。魔法にはそれがある。
「――――これで、どうだっ!?」
術式を発動させ、金槌を勢いよく鉄に振り下ろす。
するとバキィン! という甲高い金属音と共に青白い光があたりを埋め尽くす。
そして光が収まり手元を見てみると、俺が叩いた鉄の塊は
「不恰好だけど、初めてにしてはまあまあかな」
そもそもこの鍛治術は作る物の形によって術式を微妙に変えなくちゃいけない。そこら辺の微調整も練習しなきゃ……って、ん?
「どうしたビスケ、震えて」
「…………す、すごすぎるっ!! あんなに難しい魔導式鍛治術を一発で成功させちゃうなんて凄すぎる! あんた何者なんだ! もしかして魔王とか!?」
キラキラと目を輝かせながらビスケは詰め寄ってくる。
にしても魔王に間違われるとは光栄だ。しかし今の俺は魔王ではない、俺は……。
「俺の名前は『アルデウス・サタンサンズ』。魔王の息子さ」
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