To say goodbye is…
中田もな
ほかほかパンケーキと、真っ赤なりんご
たんぽぽの咲く、小さなうら庭。ぼくは犬のココと一緒に、走り回ってボールを投げる。ココが水色のボールをくわえてきたら、今度はピンク色のボールを投げる。ココはぼくが大好きだから、一目散にボールを持って、しっぽを振って帰ってくる。もちろん、ぼくもココが大好き。起きるときも寝るときも、いつもいつも一緒。
「いくよ、ココ……。そーら、取ってこーい!」
ぼくがボールを投げると、ココは風のようにぴゅうと走り、はぁはぁ言いながら戻ってくる。えーっと、今投げたのがピンク色のボールで、これで五十一回目だから、水色のボールと合わせたら、いったい何回投げたんだろう……?
「ごじゅういちと、ごじゅういち……。えっと、えっと、いち、に、さん、し……」
あれ、あれ、おかしいな……。五十一って、すごく大きな数字だ! これじゃあ、手と足の指を使っても、とってもっとっても足りないや!
「ココ、おいで! ココの耳とふさふさのしっぽ、それに顔のひげも使わなきゃ!」
ココはボールをくわえたまま、まぬけな顔して立っている。ぼくはココのひげを触って、うんうん言いながら数を数えた。
「……あっ、分かった! ごじゅういちとごじゅういちは、ぴったりひゃくになる!」
「ぶぶーっ、不正解!」
台所の小さなドアから、お兄ちゃんの声がした。ぼくがばっと顔を上げると、お兄ちゃんはにっこりと笑う。ココもぴょんぴょんよろこびながら、しっぽをぶんぶんと振った。
「ルカ、おやつの時間だよ。ちょうど今、ふっくらと焼き上がったんだ」
「わーい、うれしいな! ココ、うちに上がろう!」
ココはとってもお利口だから、ぼくが言うよりも前に、さっさと家の中に入って、銀の器に入ったミルクをがぶがぶ飲んでいた。ぼくも蛇口で手を洗って、テーブルの前でいい子に座る。
「お待たせ、いい子のルカ。今日のおやつはパンケーキだよ」
お兄ちゃんは料理がじょうずで、いつもおいしいおやつを作ってくれる。今日のおやつはパンケーキ。ほかほかのケーキの上には、きらきら光るはちみつと、真っ赤な皮つきりんごがのっている。ぼくはちゃんとフォークを使って、ふかふかのパンケーキを食べた。お兄ちゃんのおやつは、世界で一番おいしいんだ。
「どうだ、ルカ。美味しいかい?」
「うん! おいしい!」
ぼくがそう言うと、お兄ちゃんはにっこりと笑った。お兄ちゃんの笑顔も大好き。えっとね、ココと同じくらい!
「ルカ、服の裾がほつれているな。後で直しておこう。それと、ココの毛並みも整えてやらないと」
お兄ちゃんは料理もできるし、編み物やおさいほうもできる。ココのお世話もお手の物だし、おそうじだって毎日してる。それにお兄ちゃんは、ぼくやココが知らないことも、何でも何でも知ってる。だからぼくは、お兄ちゃんの話を聞くのが大好きだ。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! 今日もおもしろい話を聞かせて!」
「そうだな……。なら今日は、りんごにまつわる昔話をしようか」
ぼくはわくわくしながら、お兄ちゃんの話を聞く。ココもがぶがぶするのを止めて、短い耳をぴんとさせた。
「昔むかし、あるところに、美しい王と美しい妃がいた。妃はある日、王に仕える騎士たちを集めて、楽しいパーティを開いたんだ」
騎士たちのパーティって、いったいどんな感じなんだろう? ぼくはそっと目を閉じて、金銀ざくざくのお城を思い浮かべる。そこにはきっと、きれいな鎧の騎士たちと、きれいなドレスのお姫さまがいるんだ。
「妃は騎士たちを歓迎するために、美味しい料理と甘いりんごを用意した。みんなは『美味しい、美味しい』と言いながら、料理やりんごに手を伸ばした。けれど、そのりんごの中に、毒入りのものが紛れ込んでいたんだ。復讐に燃える悪い騎士が、りんごの中に毒を混ぜてしまったんだよ……」
甘いりんごの中に、毒入りのりんごが混ざってたんだ! ぼくはりんごが好きだから、きっと一番のりに手を出しちゃうなぁ……。毒のりんご……、怖いなぁ……。
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