短編集
ナナシ
🚪180枚の扉【短編小説】
身長が180センチ限定のバイトを見つけた。
私の身長はちょうど180センチだ。
内容は180枚の扉を開け、先に進むだけの実験。
実験の終了後に10万円の報酬がもらえる。
今月の生活費が底を付きそうな私にとっては、とても魅力的なバイトだ。
実験の目的や実験の期間は非公開にされ、怪しかったが報酬の10万円に惹かれその実験に参加した。
※
集合場所に着くと、車に乗せられ目隠しをされた。
目隠しの有無を聞くと、実験場所を特例されない為の処置らしいが、やはり不安だ……。
到着し、手を引かれ施設内に入った。
スピーカーの音声で、目隠しを外す指示をされた。
目隠しを外すと、3畳ほどの真っ白な小さな部屋に立たされていた。
目の前には扉があり、その上のプレートには180の数字が書かれていた。
後ろを向くと、出口のプレートが貼られた扉があった。
音声で指示が来た。
「これから、あなたには180枚の扉を開けて進んでもらいます」
「先に進むと、通った扉には鍵が掛かり、後戻りはできません」
「あなたが180枚の扉を全て通らない限り、この実験は終了しません」
「実験中の質問には回答できません」
「最終確認になります」
「実験に参加希望の場合は、180の扉を開けて進んでください」
「辞退する場合は、後方の出口の扉から退場してください」
確かに不安はあるが、ここまで来たからには実験を終了させ、10万円の報酬が欲しい。
私は180の扉を開け先に進んだ。
※
扉を開けると、3畳ほどの真っ白な部屋だった。
さっきまでいた部屋と何の変化もない。
一つだけ違いのが、扉の上のプレートの数字が179になっていた事だけだ。
私は179の扉を開け先に進む、今度も同じ部屋の構造で、違うのは178のプレートだけだった。
その調子で、次々と先の部屋に私は進んで行った。
進むたび、部屋のプレートの数字は177・176・175と1つづつ数字が減って行くだけで、部屋には何の変化もない。
いったい何の実験なのだろうとは思ったが、更に扉を開け先に進む。
※
150の扉にたどり着く頃で、異変に気付いた。
この真っ白な部屋が大きくなっている。
扉の大きさや形は変わらないのだが、部屋全体が最初より大きくなっている。
その異変に気付いたが、私は更に進んで行った。
※
100の扉に着く頃には、天井が最初の部屋の倍ほどの高さになっていた。
実験の目的も気になるが、建物の構造も不可解に感じた。
私は扉を開け前進しかしていない、更に80部屋も通過している。
こんな縦長な構造で、しかも部屋じゃ徐々に大きくなっている。
疑問が増えるばかりだが、私は先に進む事にした。
※
30の扉のまで来ると、異常に感じるほどの部屋の大きさになっていた。
部屋の大きさが最初の180の部屋に比べ、6~7倍くらいの大きさになっている。
天井も4階建てのビルがスッポリと入るくらいに思える。
さすがに私は恐ろしくなり、実験の担当者を大声で叫び呼びかけたが、何の変化もない……。
当初の警告通り、何の質問にも答えないとは、こういう事だとわかった。
立ち止まっても何の解決にならないと悟った私は、扉を開け先を進んだ。
※
10・9・8と扉を開けながら、私は非現実な思考にたどりつく。
部屋が大きくなっているのではなく、私自身が小さくなっているのではと……。
なぜなら8の部屋まで来ると、もう壁も天井も遥か遠くに感じほどの広さだ。
距離感は扉から扉へ進む距離で何とかわかる程度、今は次の扉にたどり着くまでに1時間ほど掛かっているように思える。
時間の感覚もわからなくなり、もう何日も経っているかのように思える。
ここまでに来る間、何度か睡眠を取った。
更に問題は空腹感が限界に来ている。
不安要素が重なり、この真っ白な部屋が私を狂わせようとする。
……しかし、私は諦めず先を進んだ。
※
2の扉を開け、最後の1の部屋に入った。
私の体力も精神も、もう限界だ……。
早くここから出たいという一心で、一歩、また一歩と先に進む。
1の扉はまだ見えない……そのとき私は自分が小さくなっているのでは?という疑問を思い出した。
もし、本当に小さくなっているら、180センチ限定の募集が気になる。
そういえば、最初の扉は180から始まり、180の扉を通り抜けると実験終了……。
私は様々な考えの中、一つの結論にたどり着いた。
プレートの数は、私自身の現在の身長なのではと……。
部屋を進む度に1センチづつ小さくなっていく。
そして今は、1の部屋……つまり現在の私は1センチの身長しかない。
仮に1の扉を進むと私の身長はいくつになる?
まさか……0センチ……私が消滅してしまうのか……。
私はありえない考えに、とてつもない恐怖で身震いしている。
体力と精神の限界に達した私に、底しれぬ恐怖が追い打ちをかけ、私の意識は遠のいていく……。
……そして私は気を失ってしまった……。
・
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……目が覚めると病院のベットで寝ていた。
もしあの時、気を失わずに1の扉を開けた事を考えると、背筋が凍るような恐ろしい感覚に襲われる……。
ふと枕元に視線を送ると、そこには10万円の入った封筒と1センチほどの小さな人形が置かれていた。
短編集 ナナシ @nns8amehuri9
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