『完全懲悪おじさん』

やましん(テンパー)

第1話 『たかり』

 『これは、フィクションです。』





 ある、なんとはなく、うっとおしい夜のことである。


 サラリマンやましんは、今日も上司や部下や、顧客にぎたぎたにされ、疲れきって、へたへたと、帰り道にあった。


 すると、五人ばかりの少年少女たちが現れて、やましんを、取り囲んだ。


 『こんばんわ、おじさん、ちょっと食事に行きたいから、カンパしてくれたい。10万ドリムにまけとくよ。さっさと出して、早く帰ろ。襲われるよ。』


 少女が言った。


 『さあ、早くしやがれなさい。』


 残りの少年たちは、ナイフや、包丁なんかを持っている。


 やましんは、言った。


 『2000ドリムしかないよ。』


 実際に、そうだったのであるから。


 『確かめなさい。』


 少女がそう言うと、ひとりの少年が、やましんのかばんを、ひったくった。


 それから、かばんをひっくり返し、腹ペコにゃんこみたいに、中身をあさった。


 財布を発見したが、なかみは、間違いなく、2000ドリムしかない。


 あとは、紙屑と、単行本だけだ。


 『眠れぬあなたのために。』


 という題名の本なので、あるのであった。


 『ざけんな。身体検査❗』


 少女の指令により、少年たちは、やましんの服を、引き裂きにかかる。


 やましん、危うし❗



 『まて、少年少女たちよ。』



 と、そういう声がしたのだ。


 すると、みれば、薄暗い街灯の下に、なんかわからない、やたらに気味悪いおじさんがいたのである。


 頭にはヘルメット。


 てっぺんに、LEDライトが、テープか、なにかで、やっとくっついている。


 雨合羽みたいなものを身にまとい、さらに、ぱんださんが描かれた、あたかも、ふろしきらしきものを、風もないのに、背中に憤然と翻している。


 『完全懲悪❗』


 おじさんは、突然、そう唱えると、両手を身体の前で交差させ、さらにぐるっと回して、水平までもって行くと、あたかも、飛び上がるように叫んだ。



 『か、ん、せ、い‼️』



 と。



 すると、やましんは、ばたっと倒れ、身体が真ん中から縦にまっぷたつに割れた。


 『ぎわあ! 撤退〰️〰️。』


 少年少女たちは、かばんを放り投げて、逃げ去ったのだ。



 『完全懲悪、完成す。』



 その、怪しい人物は、そう呟くように決めると、暗闇の中に去っていったのである。



 これが、完全懲悪おじさんの活躍の、始まりであった。



 やましんは、その後、どうなったのかは、だれも、知らないが、翌日も出勤はしていたらしい。

 

 なんだか、やたら、吹っ切れたみたいに、さわやかに。



 その、少年少女たちは、たかり行為はやめたらしい。


 


  ・・・・・・・・・・・・・・



おせっかい注) 一般的には、『勧善懲悪』という言葉が使われます。

 

 

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