詩「春と娘」
有原野分
春と娘
ふいに訪れた片言の春が
幼い娘の手を握りしめて
夕暮れのしっぽに
ちからづよく噛みついた
さくらの咲いた緑道の
三人のうしろ姿は
まるで家族ごっこ
見つめる先の青空は空っぽで
若葉に負けた老桜のように
ただ散るのを待っている
日が沈んだ家の中は
遊び疲れた季節たちの
仮眠室のように静かだった
娘は夢を見たいが為に早く寝た
わたしは
あなたの人生を生きられるのだろうか
あなたは
わたしの人生を生きられるのだろうか
ちから加減の分からなくなった
二人の影が細く伸びていく
夕暮れの下り坂
握っていた手を離して
去っていく春に手を振って
散った桜がきれいな別れ道
ホトトギスが聞こえた
右か左か
二人は次の季節に向かって
さくらを踏みしめて歩き出す
娘はしっぽを振った
いつまでも
夢が覚めないように
またみんなで
緑道を歩けるその日まで
娘は春が少しだけきらいになった
詩「春と娘」 有原野分 @yujiarihara
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