十年目の結婚記念日

あさの紅茶

第1話 妻

年を重ねるごとに“記念日”のお祝い事が薄れていく今日この頃。

私は頭を悩ませていた。


今年は結婚して十年目。

ちょっとした節目を迎える。


「スイート10ダイヤよろしく」


なんて軽口を叩いていた数年前。

そんな頃からあっという間に月日は経った。


結局夫は毎月のお小遣いをコツコツ貯めてくれているわけでもなく、私にダイヤを買ってくれることはなさそうだ。


ガッカリだけどこれは想定内。

私の夫とはそういうやつなのだ。


だから私も何かをしようとは思わなかった。

二人で外食でもするかなーなんて、それくらいの軽い気持ち。一応記念日だから、ファミレスではなくてちょっと敷居の高いお店でもいいかも、なんて思ってみたり。


記念日が近づくにつれて、これでいいのだろうかという気持ちがわき上がった。

何故だかはわからない。

ふと、“何かしなくては”と思ったのだ。


プレゼントを買う?

ご馳走を作る?


いやいや、そうじゃなくて。

もっとこう、普段できないこととか特別感ある何かをしたい。


十年も一緒に過ごしてくれたことに感謝したいと思った。


先に言っておくけれど、私は夫が大好きで大好きでたまらない!っていう気持ちは持ち合わせていない。


……いやまあ、嫌いではない。

……普通に好きだけどね。


というわけで、手紙をしたためることにした。


本棚の奥深くに眠っていた、いつ買ったかわからない便箋を引っ張り出してくる。

一枚取り出して右手にボールペンを持つ。


ちょっと待って。

いきなり清書は危険だ。

まずは裏紙に下書きをしよう。


私は十年間の結婚生活を振り返る。

楽しいこと辛いこと、感謝することむかつくこと、たくさんあった。

今こそ物申したいこともある。


だけどその中で一番伝えたいこと。

それを文章にすることにした。


いろいろなパターンをシミュレーションしてみる。

さりげなく渡そう。

こう、自然に、はいって。


そんなことを考えつつ渡す機会を伺っていたのだが、家事と育児に終われてあっという間に夜になってしまった。


よし、子供達が寝て二人きりになったら、その時に渡そう。


手紙は今か今かとその時を待つかのように、キッチンの食器棚の中で待機している。


なのに。


「疲れたから寝るね~」


今日に限って早々に寝る夫。

私のソワソワした気持ちだけが置いていかれてしまった。


子供達も寝て、一人ぽつんと残った私はやり場のない気持ちを持て余している。


いや、でも待てよ。


目の前で読まれる方が恥ずかしいし、これは夫のカバンに忍ばせてサプライズといこうじゃないか。


私はソファーの上に乱雑に置かれた夫のカバンに、そっと手を伸ばす。


埋もれてしまっては困るし、かといって堂々と出してあるのもサプライズとしてはインパクトが薄い。家では気づかないけど、出先で財布とか出した時に「え、何これ?」って気づくような絶妙な位置に手紙を差し込んだ。


ふふふ、夫よ、驚くがいい。


自分の計画に満足した私は、遅れて布団に入ったのだった。

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