その15 一年の終わりに(承前)

 一年が終わるって何だか特別で。

 だから、年越しそばは天ぷらそばを選ぶ。普段はきつねそば派だけど、なにせ特別だから。

「いただきます」

 家族三人、こたつでそば。いつもの大晦日。けれど、今年は一つ違うところがある。

 居間の隅にある飾り棚。そこに鎮座するは父の肖像画。

 決着の後、ずるいとごねにごねた父。どの口が言うか、そっちも小学生相手に全力だったろう。結局は双方痛み分け、こういう形に落ち着いた。

 まあ、確かにずるかったし、それに――あんな絵でも喜んでくれてるんだから。まあ、うん。

 そばをすする。口にふわり広がる幸せな香り。ほう、と思わず零れたため息が父と重なった。

「美味いな」

「ね」

  来年もいい年になりますように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る