神愛の刻印

月猫

剣闘試合

「待たせるなぁぁぁぁぁ!」

「殺し続けろぉぉぉぉ~!」

「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ! コ・ロ・セ‼」


 観客の怒号。

 焼けるような暑さ。

 雲一つない空。

 カラスの群れがアリーナ(試合場)上空を旋回している。

 その鋭い眼は、白い砂の上に横たわる血まみれの剣闘士たちを捉えていた。


 微かに息のある者も、もはや助かる術がないことを知っている。

 烏の餌になる自分の運命を呪いながら死に行くのか、剣闘士という運命から逃れられることに安堵しているのか、そんなことは観客たちの知ったことではない。


 あの世とこの世を隔てる川の渡し守・カロンの待つ『死者の門』へ、大きな鈎針でズルズルと引きずられていく者に心を寄せる観客はいないのだ。


『負けた剣闘士は、もはや人に非ず』

 使い物にならないゴミとして、捨てられるだけである。

 旋回するカラスたちは、そのことをよく知っていた。


 アリーナ中央では、傷ついた二人の剣闘士が向かい合い肩で息をしていた。

 あと、一撃。

 それで、勝負は決まる。

 しかし、両者ともに足が動かない。


 そんな二人に痺れを切らした観客たちが怒り、叫び狂っていた。




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