LGBT ラストガールボーイ・ティアーズ

スヒロン

第1話 瞬の目覚め

 瞬はベッドで目覚めた。

 ちゅんちちち、と小鳥たちの啼き声がする。

 横の壁に目をやると、所々に穴が空いている。

「ふわーあ、おはよう」

 あくびをしながら言った。

 

 隣で眠っているのは、金色の髪の西洋人形みたいな綺麗な顔の男の子。

 彼は、

「うーん、むにゃむにゃ。もう瞬のことは食べられない・・・」

と言いながら、僕の体をまさぐってくる。

「けど、もっと食べたい。むにゃむにゃ」

「そんな寝言があるかっ。起きてるでしょう? もうっ」

 青波は猫のように笑って、

「だって、瞬の体、すべすべなんだもん」

 さらに僕をまさぐろうとする。

 ううん、腕力が強いから抵抗できない。

「わっ、どこ触って……! もう、いい加減にしてよっ」

 瞬は体を一回転させて逃れようとした。

 むにゅり。

 と、瞬の手はとんでもなく柔らかいものを掴んでいた。

 自分の手の上を恐る恐る見ると、燃えるような赤い髪をストレートに肩口まで伸ばした女の子がいた。

 

 端正な鼻と、つんと澄ましたような口元。

「わわっ、なんで恋花までいるんだよ! 何度言えば分かるの? ここは、男子寮だよ!?」

 恋花は、「うーん、おはよ」と背伸びをしながら言って、

「青波が瞬に色欲の魔の手を伸ばさないかを見張ろうと思って、つい侵入しちゃった。エヘヘ」

「エヘヘ、じゃないだろっ。こんなのがシスターに知られたら……」

 シスターの中にも、優しい人もいればおっかない人もいる。

「二人が黙ってるから平気! でしょ?」

「もう……暢気な……」

 頭のいいはずの恋花だけど、時々とんでもなく能天気な行動に出る。

「それより……瞬、それは何なの?」

 恋花は瞬の股間を指さす。


「ええ?」

「……とぼけないで。その、貴方の股間はどうしたの……?」

「こ、これはっ」

 瞬は慌てて隠した。

 最近、何故かこういう風になっているのだ。


 しかし、恋花はにこりと笑った。

「ふふ、いいのよ。瞬がそういう年ごろになってくれて嬉しいわ。全然興味ないのかと思っていたし」

 そう、僕はごく最近朝勃ちを覚えたのだ。確か先日の十二歳の誕生日の翌日だった。分かってはいたけれど、恋花に見られると恥ずかしい。

「ち、違うよっ。これは君に反応したんじゃない」

 恋花は急に視線を冷え込ませた。

「じゃあ、どういうこと? まさか、青波の毒牙にかかって、こんなに……? それにさっきから触られて、まんざらでも無さそうね……なんてことなの? 大罪の一つ、“色欲”の魔の手にかかっていたようね……!」

 猛烈に怒っているようだ。


「な、何を言ってるんだい? これは生理現象。ねえ、青波?」

 しかし、青波は猫のように僕の頬をぺろりと舐めるのであった。

「んふふ、そんなに感じてくれた? うれしいなあ、瞬」

「ば、馬鹿っ。洒落にならない。恋花の前だと、本当に洒落にならないよっ」

 恋花は何処から持ち出したのか、大型のボウガンに矢を装填していた。

 恋花は、美しい涙を一粒流した。

「もう十分よ、まず色魔の青波を殺し、次に瞬も殺し、最後に自分の頭を撃ち抜くわ」

「そんな! さっきは恋自分でこうなったのならいい、みたいに言ってたのに……」

 僕は叫ぶが、

「あら? ……やはり、生理現象じゃなく、性的な勃起だったようね」

「ぼ、ボッキって……」

 うう、美少女にそんなワードを発せられるとますます……

「さらにムクムクとなってるわ! なんてことなの!?」


「恋花がへんなこと言うからだろー!」

「もはや、これまでよ……じゃあね、青波。貴方と過ごした十二年、割と楽しかったわ。来世も三人で一緒に暮らしましょう」

 恋花は、ボウガンの引き金に手をかける。

「うわーっ!」

 矢は発射され、壁に突き刺さった。

 それは、小鳥たちの鳴き声と、春の陽ざしが窓から差す朝だった。

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