私の初めての彼氏と、雪と。

福倉 真世

そもそもがー前書きー

「なんで告白を受け入れないの? 好きだって、付き合ってほしいっていわれて、林くんのこと好きなんでしょう?」


うん、そうだけど、そうだけどね。


ぐちゃぐちゃと言いながら酔っぱらっている私はまだボトルの底に残ってるワインをグラスに注ごうと深緑の瓶に手を伸ばす。

親友はその瓶をさっと取り去り、代わりに店員さんに、すみません、お水ふたつ。と、注文した。

都内の価格安めのワイン・バル。つまみの味はまあまあ。ワインの味もそこそこ。そんなことより、夜2時過ぎまでやっているのが何より素晴らしい。

そんな店で当時大学生だった私は同い年ながら立派な社会人の親友とお酒を飲みながら恋バナをしていた。恋バナ、といっても今日の話題の中心は目下、私に告白してきた林くんのことで、恋愛経験豊富な親友は自分の恋愛について、スパイス程度にしか匂わせない。


「私は男の人と付き合ったことないし」

「うん」

「林くんは二つも年下だし」

「うん」

「……なんか怖いし」


そこで親友の眉根が寄った。


「怖い?」

「彼、空手の有段者なんだって、怖くない?」

「なんで? 守ってくれそうじゃん」


ネガティブに取るなあ、という親友に私は


そうかな、そうだよね。


と、また言葉を濁す。


守ってくれる存在。

男性に対して、そういう認識をすることは今まで一度もなかった。

でも、その理由を目の前の親友に話すことをしていいものか、どうか、私は考えあぐねている。


「んじゃあ、賭けをしようよ」

「賭け?」

「もうすぐ、深夜一時のラストオーダー。泥酔しているふくちゃんは電話もできないほどです。私が呼んだら、彼は来るかどうか」

「来ないよ」


私は言った。


「即答だね。ふむ。んじゃあ、まあ、私が呼んで林くんが来たら、どうする?」

「……どうしよう」


親友は笑った。


「馬鹿だなあ。ふくちゃんは」


馬鹿。

馬鹿だろうか、私は。


「そうしたら、さっきまで私にぶつけてたことを林くんに全部言えばいいよ。そして、朝まで一緒にいなよ」

「えっ でも」

「んじゃあ、携帯貸して」


私が震える手で携帯電話を親友に渡すと、彼女は神業のような速さで何かメールを打ち、私に携帯電話を返した。


「あれ? 送信済みメールがないんだけど…」

「うん。削除した。でも、送信履歴は残ってるでしょ? 間違いなく林くんにメールは送っておいたから」


な、なんだってー


「え! なんて送ったの?!」

「内緒ー」


親友はへらへらと笑った。


……遠方の彼が青い顔をして駆けつけたのが午前二時。


酔いつぶれて、寝たふりをして、やってきた彼の背におぶわれながらカラオケボックスに運ばれたのが午前二時半。


「目が覚めて、ホテルじゃないんだ。と、思った」


というと、当たり前でしょ、と真顔で怒られて、

いいから俺の彼女になりなさい、と説得されたのが 朝の五時。

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