第二二部「冷たい命」第4話 (修正版)
雨は少しずつ強くなっていた。
まるで真夏の大雨。
それでもその音の大きさに反して、冷たい雨。
夕闇の冷え込みも相まってか、祭壇の炎の作り出す熱が奪われていくように感じられた。
その空気は本殿内の緊張感を否応もなく高めていく。
しかし、なぜか
二人が、ずっと知りたかったもの。
それは間違いがない。それなのになぜか手を伸ばせない。
知ってしまうことへの恐怖からか、二人は文献に視線を落としたまま動けない。
「この存在は
──……六〇〇年…………どうして誰も見付けられなかった…………
──……その長い年月にも意味があるのか…………
──……誰かの邪魔か……誰かの迷いか…………
「
すると、重い口を開いたのは
「
「私も信じて参りました…………そこには何の疑いも無かった…………ただ自らの立場に酔いしれて、真実を見ることを怠ってきました…………何十年もの長い間……」
「その真実が……偶然に見付かったと…………」
「いえ、偶然ではありません……必然です」
その
覚悟を感じる声だった。
──……この人は……総てを捨てる覚悟でここにいる…………
「……
──…………本気なのね…………
「あなたの復讐なんか興味ないよ……あなたのために私たちが動く義理はない」
その
そして繋がる
「でもね…………
いつの間にか、少しだけ
その言葉が続く。
「いつからそうなったのかな…………権力って……どうして人を変えてしまうんだろう…………
さらに続く
「────絶対に終わらせるよ…………このままじゃ……自分を許せない…………スズのためにもね…………」
──…………スズ……?
「……スズって…………誰?」
──……スズ…………
そう思った
「……その名前…………」
その声に
「……御存知だったのですか…………やはり真実だった…………」
そして
「────教えて!
時の流れは残酷だ。小さな一瞬で総てが変わる。
過去を
今、その真実に近付いた。
──……重要な誰かが…………まだ知らない誰か…………
しかし、
それでも
「──
その時、
床に倒れる音────。
その音が空気を揺らした。
「────
やがてそこに見えたのは、白い
そして落ち着き払った目。
しかし、そこに
その
「……
──……〝敵〟は、何だ…………
多くの考えが
──……今……信じるべきは…………
もはや
それを背中で感じたのか、
「……
──……まさか…………
その姿は足を大きく広げ、膝を曲げて姿勢を落としていた。
「…………
後ろ姿で分かった。
顔を見なくても分かる。
そう感じた。
──…………どうして…………?
その
「……私はこの世の者ではないぞ。
その瞬間を見逃さなかった。
文献を手で払うと、それは床を伝って
しかしその直後、
そこに
「
その時、
『
それに
『でも……
『すでに
『……だって…………
──……残してなんかいけるわけがない…………
『私が諦めると御思いですか?』
その言葉に、
その姿に、
──……これで、ホントにいいの?
未来が見えなかった。
それを邪魔しているのが誰なのかも分からない。
それでも、
走った先、階段を飛び降りると、振り返らずに参道の石畳をブーツが叩き付ける。
大粒の雨が容赦無く顔を打ち付けた。
その左右から
あっという間に
男たちの前の空間が
「────結界とはこういうものだ……
それ以上先に、誰の足も進めない。
「再び命を頂いた〝あの世の者〟を
そして、その
──……靴を脱ぐなってこういうことか…………
差し込まれたままのキーを回し、エンジンが掛かると同時にアクセルを踏み込む。
タイヤが容赦無く水溜りを弾き飛ばした。
そして、メーターも見ずに走り続ける。
本殿の中では、倒れて意識を失ったままの
「御迎えに上がりました…………
そして次の瞬間、その
それは
同時に首の苦しさから解放された
──……
もはやそこには恐怖しかない。
逃げられるはずがなかった。
──……逃がしておいた息子たちが見付からないことを祈る…………
二人を避けるように、周囲の男たちは距離を取っている。
その二人が本殿に上がると、
全身に汗が浮かぶ。
その体の寒さは、冷たい雨が空気を冷やしているだけではない。
──……石は投げました……
そんな
血の匂いを含む、まるで
「……面白いものよのう
「あの文献に書かれているものは────」
「────
それは通常であれば立場的に有り得ないこと。しかし
──……引き返す気は無い…………御先祖の恨みを晴らす為なら…………
「
「左様……それは同時に
「ほう……面白いことを言う。貴様に
顔を上げて
「
そのまま、
「
その姿は自身に満ちていた。まるで何かが解き放たれたかのように力強くもあり、まるでそれは〝脅威〟を体現しているかのようだった。
「さて……
「はい…………母上……」
そう応えた
二人が仰向けの
「
「……
「どういうことですか
「なに……隠れているだけですよ…………こちらの様子を伺っているものと…………母上、御早く」
その
「〝迷い〟は〝
そして
──……
──……私は……恐れているのか………………
それでも
途端に本殿に重い空気が流れた。
雨の音が、いつの間にか強くなっていた。
参道では
☆
まだ
「
夕食の時、
「そうですか? 私には
「そうでしょうか……やはり
「
──…………私たちの子?
「しかも
──………………え? 何を…………
──……まさか……記憶を操作されてるわけでは…………
──…………まだ
その頃の
成長すると、
二才になったばかり。
その二人は
理由は
──……何か、
一人は
一人は
お湯が熱かったのか、ミルクの温度が高かったのか、総ては想像するしかない。
しかも二日続けて。
──……よもや……自殺させたのか…………
──………………いつ自分が操られることになるか…………
──……
──…………まさか……
──……それか………………操られていたのか…………
やがて、
そして同じ日、
共に成長する過程で、
成長と共に始まった修行の中で、
未来や過去も見える。他人に対しての意識操作も、しだいに相手に気付かれないように出来るようになっていた。
しかし
すでに
そんな時に小学校で事件が起きる。
そしてある日、
その夜、
「…………あの五人……私を
──……コントロールが出来ないまま大人になったら…………
窓から飛び降りた五人を救っていたのは、実はその場に居合わせた
もちろん
すでに
「
その
「でも
「未来が見えた……
「そんな姉様…………
その揺れ動く感情に、さらに
「
それから数日、
「
本殿裏の祭壇でその日の修行を終えたばかりの
「
「あの五人…………私と
救ったのは
「…………二人が…………救ったと…………」
──…………救ったのか…………
──……私は…………とんでもない後継を育てたのか…………
そして
「母上…………私は……
それを僅かに感じた時、
──……一番恐れるべきは…………
──……よもや本当に伝説の産まれ代わりだとでもいうのか…………
そして、それから何年も後、
一番の恐怖の対象が
──……まさか…………私も感情を操作されてはいないか…………
やがて、
──……伝説は
「かなざくらの古屋敷」
〜 第二二部「冷たい命」第5話(第二二部最終話)へつづく 〜
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