第二二部「冷たい命」第2話 (修正版)
室町時代。
西暦一五二二年。
すでに年の瀬。
細かな雪が舞う夜の事。
御互いに村で産まれ、村と共に生きてきた。
しかしその
その黒幕が
「
その
その〝
その
その為、
多くの時間も掛けていた。
失敗は許されない。
それは、
長きに渡る内紛を終わらせ、朝廷を
深い森に囲まれた
巨大な本殿を軍勢が取り囲む。
夜空から、細かな雪が、ゆっくりと降り注ぐ。
その中から放たれるのは、火を伴った幾本もの矢────。
空を照らしながら、その矢は瞬く間に空気を切り裂く。
自然の
その幾つもの小さな炎は、途端に空を燃やした。
乾いた空気に包まれた本殿の木材が熱を吸い込み、風を作り出す。
そして火が走った。
悲鳴と怒号が響く中、炎から逃げ惑う人々が軍勢によって次々と斬り殺されていく。
火の粉が辺りを照らしていた。
命を絶たれようとする者達の
血の匂いが周囲に漂い始めた。
立ち尽くしていた
完全に本殿は包囲されていた。
例え
殺さずに捕らえるようにと
人相の特徴も全員に伝えられ、全員が
──……私が……村人達の復讐を果たさねば…………
しかし、未だ報告は入らない。
そして、痺れを切らした
ゆっくりと、炎に包まれた本殿へと足を踏み入れた。
周囲からの炎の熱さなど感じない。
自分の命などどうでもよかった。
村人を皆殺しにされた
それだけが
やがて本殿の奥の一室。
「────
「いかにも……
「
人を殺したことなど無い。
あるはずがない。
しかし、
「────村を⁉︎ 一体何の話を────」
しかしその
その痛みの中で
そして、歴史が動いた。
それより数ヶ月。
新たな本殿が建築され、
名は〝
その新たな
頭を下げる
「
「はい」
「やはり
「…………はい……」
しかし、
真実が見えていた。
行方をくらました
そして
──……もはや……戻ることは出来ぬ…………
それでも、誰かに伝える義務を感じていた。
──……
──…………私は何の為にここにいる…………
もはや
そして
それは
やがて、現代。
☆
元々は
しかし同じように
実の母親である
──……こんなに不安があったら……
店を急遽休んだ
「私も胸騒ぎを感じていました……」
そう話すのは
その
「……何かしらね…………」
そう言って返した
「ここにいる
外の雨音が空気の振動を埋める。まだ昼間だというのに黒く厚い雲が陽射しを遮っていた。しだいに強まる雨音が
その
そして
「……
そう言って敢えて質問を投げ掛けた
祭壇の前で俯き、全員に背を向けたままの
雨音だけが間を繋いでいた。
──……私は、どうしたらいい…………?
その気持ちは、解決を導き出せるものではない。そんなことは
そんな
「……
そこに、
「……〝敵〟を見付けて…………私たちは
すると、小さな
「…………未来はここにある…………今も…………過去だって…………」
──……そうだ……みんなに応えるのが……私の役目だ…………
「……総てが…………ここで見えるはず…………」
その
「…………ここで、見る…………」
そう言った
そして、
自分だけ。
その強さを全員が認めていた。
本殿を不思議な空気が包んでいた。
決して呪文のようなものを唱えるわけではない。
ただ祈るだけ。絶対に余計なことを考えられない集中力が必要だった。独特の空気が流れ、言葉で説明の出来ないような空気の揺らぎが漂う。
──……誰だ……出てこい…………
しばらく経ち、やがて
「……直接動いてるのは
「あそこか…………」
構わず
「
それに返すのは口元に笑みを浮かべた
「どうする?」
「────行って。私はここで
「そういうことか……分かった」
「
「分かった」
そして
「……
しかし
それは
「あなたに…………間違ってほしくないんだ…………」
そう続けながら、
そして、
「────
その
しかし、
☆
──…………嫌な雨………………
そこは、都心からはすでにだいぶ離れている場所。
途中で休憩を挟みたい気持ちもあったが、なぜかそれすらも危険に感じていた。
明らかに今までに感じたことのないもの。この先に対する精神的な不安の蓄積とも考えたが、
ここまで見えないことも珍しい。それでも
──……邪魔をしてるのは、誰…………?
本筋はそこではない。
──…………
大きな幹線道路。とは言っても周囲には田畑のみ。その向こうの山々がしだいに近く感じられてきた頃。
遥か前方に、信号とは違ういくつもの明かり。
そしてそれは、薄暗くなり始めた夕暮れの中で点滅して見えた。
──……やっぱりおかしい…………周りが見えない…………
前方に見えるのは、明らかにパトカーの回転灯。しかも一台や二台ではない。
残りは一〇メートルほどだろうか。
車を停めた。
パトカーから数名の警察官が降りるが、なぜか近付いてこようとはしない。
──……検問には見えないわね…………
すると、背後には脇道から突如として現れた黒塗りの車が二台。それは間違いなく内閣府の物。元内閣府の
──……私が気付かないなんて…………誰だ…………
後ろの内閣府の車から降りた人影が、
特徴のある歩き方。
忘れるわけがない。内閣府に引き抜かれる前に警視庁にいた
その
「大丈夫だよお母さん。私を信じて……」
そしてパワーウィンドーのスイッチを押す。少しずつ開いていくガラスの隙間から冷たい空気が車内に入り込む。そこに混じる煙草の匂い。ヘビースモーカーの
その
「久しぶりだな」
しかし
「お久しぶりです。ここまでの手間を掛けてまで私に接触する理由を説明願います」
しかし
「相変わらずの口ぶりだな。せっかくお前が逮捕される前に話せる時間を作ってやったのに」
──…………逮捕…………?
「お前が内閣府を辞めてからなぜかその所在が掴めなかった……あれは蛇の会のやり口だ。そうなんだろ? まったく……やっぱりお前らはまともな人間じゃないらしいな」
その
「
──……やっぱり……
「私の罪状は…………?」
話を断ち切るような
「情報漏洩だ。内閣府の内部情報を漏らした罪、なんだとさ」
「……娘には関係のないこと…………丁重にお願いしたい…………」
「俺には関係のない部分だな」
そして小さく続ける。
「最後の慈悲だ。お前の娘は
──…………
入れ替わるようにして前方の警察官が近付く。
二名の警察官の後ろにはスーツの刑事らしき男。その男が折り畳まれた紙を開きながら口を開いた。
「
☆
すでに夜と言ってもいい時間。
駐車場に他の車は見当たらない。
この辺りでも少し前までは雨が降っていたらしい。この時間でもアスファルトの濡れた色が分かったが、何より雨の匂いが強く残っていた。
運転席の
嫌な胸騒ぎを感じていたのは
キーを抜く前に窓を少し開けた。冷たい空気が車内に入り込む。木々の香りがした。その香りと共に、外に目をやった
──…………え?
その小さな紙切れが、風に舞うように窓の隙間から車内へ。
さすがに
二つ折りにされたその紙を手にしたのは
『私と
事の理由はまだ分かりません。
一つ確かなのは、中心に
その字は間違いなく
時を超えられる
「……
それからしばらくはお互いに黙ったまま。
今までとは違う恐怖があった。明らかに自分たちが着々と追い詰められていることを感じる。敵が小さくないことは初めから分かっていたこと。国の中枢を相手にしていることは理解出来ていたはず。
この国の歴史そのもの。
外の冷気が車内の空気を程よく入れ替えた頃、先に口を開いたのは下を向いたままの
「……
やがて助手席のドアノブを軽く引く。
その音に
少しだけドアを開けたまま、
「……私は誰にも答えを求めない…………自分で決める…………」
ドアを大きく開け、
そのまま。
「だから…………先に進むよ……」
その光景に、
「…………そうね…………」
そして
車のキーを抜くも、すぐにまた戻して外に出る。
外の空気は澄んだもの。気持ちよくさえ感じる。不安が払拭されたわけではない。しかし
──……大事なことを忘れてた…………
「でも例え
すると、その
「
「
「だからいつも驚かされる」
そう応えた
追い詰められていた。
だからこそ今大事なものが何か、二人には見えていた。
ここに来たのは二度目。
二人は一つ目の鳥居を潜り、並んで参道を歩き始めた。
左右は均等に並んだ木々と石の
しかし、未だ
やがて二つ目の鳥居と共に視界に入るのは、巨大な本殿。
──…………
「かなざくらの古屋敷」
〜 第二二部「冷たい命」第3話へつづく 〜
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