第二一部「堕ちる命」第2話 (修正版)
夕暮れ時。
季節の涼しさが増す。
その参道の石畳を鳴らすハイカットブーツの音に、本殿にいた
「
子供のようなその満面の笑みに、
「おやおや、まるで遠距離恋愛の彼女にでも会ったみたいな顔だよ
その
「それを言うなら彼氏にしてよ。私は
「あれ?
「違うに決まってんでしょ! なんでそうなるのよ!」
しかしそう応える
そこに
「はいはい、
そして
「……
そして本殿への階段を登り始める。
笑顔になった
「お疲れ様です……突然すいません…………私で力になれるかどうか…………」
「
そして首の水晶を左手に絡めると、その手を
「…………大丈夫…………元気ですよ」
その言葉に、
そして、
「
そこに本殿の奥からの足音。
お盆を持った
全員の視線を受けながら、
「……確かに〝壁〟がありましたね…………それを壊せたのは
「でも良かった…………
自然と笑顔になった
「そう?」
「そうですよ。何度〝繋がり〟を切ろうと思ったか…………」
「ごめん」
そこに
「
その
その
「でも……どうするの?」
「
その言葉に、
しかしその表情を見て声を上げたのは
「私は⁉︎ 私は何をすればいいの⁉︎」
自らの立ち位置を定めれば、
それを熟知していた
「元々その島は強力な〝何か〟に守られてた……誰にも見付からないようにね。どうせ衛生写真にも写らないように
「……場所は分かった……ここからでも私も感じる…………今までで一番の結界だ…………よく崩せたね……
そしてさらに続ける。
「さすがだよ…………でも、
ネックレスを外すと〝火の玉〟を左の
ゆっくり腕を降ろすと、二つの水晶が小さく音を立てた。
二人の手に包まれた二つの水晶が熱を持つ。
「────行くよ」
その
「私たちを……その島へ…………」
意識が覆い尽くされる。
しかしその直前、
──……………………?
☆
江戸時代初期。
西暦一六二四年。
元々は対
その世代の子孫の中に、
家の
この島の信仰の中心でもある
現在の
そろそろ祝言も考えなければならない年齢ということもあり、
それは
しかし
それは島の生活基盤を構築していく過程で、どうしても人々をまとめる為に必要だった規律。そしてそれがなければ、宗教への信仰心だけでは人心は一つにはならなかっただろう。
血筋が重要視される世界。
二人の間には大きな〝
しかし初めて会った時から、二人は一目で
それは言葉ではなかった。
ただ、感じるもの。
それからはお互いに常に相手のことを感じ、体の中心で想い続ける日々。
二人とも立場の違いは理解していた。
しかし感情が動く。
気持ちが走り始める。
何かが繋がっていた。
お互いの気持ちと同じように手を繋いだ時、すでに言葉は必要なかった。
激しくお互いを求め合い、心の繋がりを確信する。
二日と間を置かずに
陽の高い時もあれば、夜、月の輝く頃、会い続けた。
会い続ける程に、少しずつ気持ちの中の何かが膨れ上がっていく。
しかし二人のその感情は、決して許されるものではなかった。
その現実が二人の背中に大きくのし掛かり続けた。
会い続ける程に、それはしだいに大きくなっていく。
その二人の姿は、その日、十二社の影にあった。
「これを…………」
「…………これは……?」
それは小さな〝水晶〟。
「昨夜、夢の御告げで授かりました……これは
「
「……私にも分かりません…………しかしこれは神の御告げに違いありません」
その二人の姿を見ている者がいた。
建物の影に隠れているのは、
──……あの二人…………先祖も同じだったっていうの?
──…………そんなことが……………………
それから二人が会う度に、それを見守る
──……どうしてあの二人だけを見せられるの………………
「……あの二人の人生に……どんな意味が…………」
──…………教えて……
そして、二人の関係が
それは
誰も疑いを持つことのない〝血筋〟の規律。
今までも同じようなことが無かったわけではない。しかしその度にその二人は
当然島の誰もが今回もそうなると考えた。過去の文献からもそれは疑いようもない現実。
二人に、会えない日々が続く。
それぞれの自宅に監禁されることとなって一週間程。
今夜の月明かりは決して明るくはなかった。その月明かりが壁に四角く穴を開けただけの窓から差し込む。
しばらくの間、
手の中に
その夜、
『……ここを抜け出しなさい…………今夜…………』
「……今夜⁉︎ あなたは誰⁉︎」
『……
──…………
手の中の水晶が熱い。
その時、
──……
気持ちが高揚した。
──……今…………会いに行きます…………
闇に紛れるように、
やがて、二人で何度も
「……水晶が……熱くなって…………
そう言って大粒の涙を流す
「私もです
「同じです……私にも声が…………」
その二人の姿を、やはり
洞窟の入り口を見下ろせる崖の上。
──……現代でも……もしかしたら同じ流れになるっていうの…………?
「…………? なに?」
足元が明るい。
視線を落とした
周囲の、それまでただの草地だった場所が黄色く染まっていた。
「……これは…………」
──…………
「……
洞窟の中。
「…………はい……
その
二人は洞窟の中で膝を落とした。
お互いの刃先を胸に。
そして、
「…………来世で…………再び…………必ず……………………」
静かになった。
洞窟からの二人の声が聞こえない。
──…………まさか……!
しかし、遅い。
二人は体を重ねたまま、笑顔で、息絶えていた。
両の目には涙が浮かぶ。
お互いに短刀で胸を刺し合ったまま。
「…………どうして…………」
──…………もしかして…………あの二人も……………………
☆
「────
すでにだいぶ暗くなった本殿に
しばらく本殿に静けさが漂うが、それを崩したのは
「…………産まれ代わり…………」
しかしそれにすぐに
「やめてよ……そんな安っぽい言葉……そんなものは存在しない……ただの宗教概念だ……」
それが真実か、何が真実かは実際のところ
再び静まる空気を、
「あの二人が伝説の始まりではないね……起源はもっと深くにある…………」
それに
「……もっと深く…………〝誰か〟がいる…………誰かが助けを求めてる…………」
「…………
そう言って声を上げた
「あれは…………〝水の玉〟だった…………あれを過去に使いこなせたのは…………」
「その可能性もあるか…………でも、どうして…………」
そう返した
「
そう言った
──……もしかして…………
それを
「
その
「〝負の念〟…………
拾うのは
「それは私たちにとっては〝人の想い〟そのもの…………でも、こんなに強いものはそうはないよ…………
「やるよ」
そう即答する
「やれるかどうかじゃない……やる…………それが私たちの求めるものでしょ…………負ける未来なんか見たことない…………」
それでも、そこには間違いなく何かの〝覚悟〟が感じられた。
それに気が付いた
「……そうね……そのために私たちはここにいる…………もっと深いところまでいこう…………
☆
室町時代後期。
西暦一五二〇年。
京の都。
いずれも名のある神社の宮司達が八名、密かに〝
その名目は、すでに京の都で勢力を伸ばしていた
やがて密かな活動は信奉者を増やしていく。神職に就く者から
しかしその中で、
朝廷の
一度は
この日、
「……
そう言いながらも、なぜか
「しかしすでにあの者達は朝廷にまで入り込んでおります。いずれは
「
「さすれば……
「簡単なこと…………
そう言って目を光らせた
「……
〝火の玉〟と〝水の玉〟。
それは
──……やはり…………あの噂の水晶は、ただの〝石〟ではないのか…………
「さすれば貴様ら
「しかしながら……
「────
──……私に……迷いがあってはならぬ…………
西暦一五二四年。
京都御所。
その横に控えるのは
その日、朝早くに二人が呼び出したのは
「鬼門と言われる鬼の間に我を呼び出すとは、いかなる要件か」
朝廷に使える
「
「
その
「しかしなれど……仮にも我等と同じ神職に就く者が八名……しかもその力は強大に御座います。
「いかにも。
「…………御協力を……」
その
「過ぎるぞ
「
そこに
「いえ……近い内に必ず…………」
そして、これより
すでに京都御所に入り込んでいた
そこには
やがて
そして無人島だった島に、ゆっくりと社会基盤が作られていく。
農家や漁師、料理人から機織り職人等、島に渡った人間たちは社会基盤の為に働き続けた。
そして島に
気が付いた時にはかつて以上の脅威となっていた。
しかし
武力を持てるくらいに本土との密輸が行われていたと同時に、島内での基盤が整備されていた。
すでに〝社会基盤〟が出来ていた
その中心を担ったのはやはり
安土桃山の時代。
日本の正史には残されていない
結果的に双方に多くの犠牲者を出した後、
多くの犠牲を出したとしても、その〝力〟は
そして同時に、すでに行方の分からなくなっていた
☆
「さらに一〇〇年
「どういうこと? 起源はもっと前なの⁉︎ 誰を救えばいいのよ!」
そして
「落ち着いて
「でも誰か……誰かが助けを求めてるんだってば! 私の中の誰かが────!」
──……
そう思った
「それって…………誰?」
「……分からない…………でも……まるで自分のことのようで…………」
自らの中から何かが流れ落ちる。体の中心で他人の心臓の鼓動が聞こえた。
──……誰かがいる…………誰かが私を動かそうとする…………
「────それが誰か知りたければ…………もっと深い所まで潜れ…………
それを
「
すると、
そして小さな声。
「…………ごめん……」
その
自分でも冷静さを欠いたことは理解していた。そして
確実に分かることは、自分の中で〝何か〟が間違いなく
そして次の
「……救って欲しがってるのは…………一人だけじゃなさそうです…………」
「……一人じゃない?」
そう返したのは
「…………はい。感じます。あの二人以外にも…………さらに二人……」
「二人?」
そう挟まった
「その二人に、
「残念ながらそこまではっきりとしたものではありませんが……似たものは感じました……」
「……どうにもあの島の組織……引っかかるね…………今まで
返すのは
「どうやら、今までの神社とは違うようだね…………」
「
その
「その一つが
答えに行き着けずにいるその場の空気に、
「…………本殿の奥…………
「
返したのは
「……そこに……………………〝二人〟がいます…………」
そして、次の声が本殿の空気を変える。
それは
「────
急な静けさが辺りを包む。
空間が張り詰める。
そして、本殿に
『……
「教えると思う?
即答する
『私の邪魔をしているのは……誰だ…………
──……邪魔? 何のこと?
『……この二人は誰だ……』
その言葉に反応したのは
──…………二人?
反応した
そして叫んだ。
「────
途端に、本殿に外の風が戻る。
「────
そしてその視線は
「一緒にきてくれたの?」
「え?」
──…………なに…………?
「
「だって、ずっと一緒だったよ。お姉ちゃんと」
その
「……一緒って…………」
そして、突然その目から涙が流れ落ちたのに気が付いた
「……なに? なんなの?」
そして、見えた。
──……そんな…………ありえない………………
その
「……〝あの子たち〟…………誰なの? …………教えてよ…………お母さん………………」
「かなざくらの古屋敷」
〜 第二一部「堕ちる命」第3話へつづく 〜
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