第30話 ハローワールド

はじめまして。ここは公共転生施設です。


まずはご案内をさせていただきましょう。転生が当たり前となったいま、通称「ハローワールド」と呼ばれるこの施設は、すべての死者を管理する業務を担っています。


現世の人間の知識は、いにしえの聖書よりアップデートされていないため、天国や地獄の沙汰というものが私達ヒトによってなされていることは知られていません。


…とはいえ、ある程度はシステム化されており、治安管理の観点から極悪人は死んだ時点で地獄門へと送られるようになっております。我々が管理させていただくのは「凡人」か「善人」のどちらか。あなたは真っ当に凡たる人生を送った結果こうしてここへ送られたのです。おめでとうございます。



さて、本題に入りましょう。



あなたには選択肢がふたつあります。このまま天国へ行き永年の輪廻を待つか、いま転生するかのどちらかです。


既にこちらにいるご家族のもとに行きたいという場合はお調べし、天国部門の窓口にて経歴を確認させていただきます。問題がなければ、晴れて同じ区画の天国へ行けます。友人、恋人、ビジネスパートナーなどの多様性については、現状すべて叶えるのは難しいというのが実情です。「上」の判断もありますので、ご理解くださいますよう。


ほかの皆様ですか?そうですね、近年では「家族」の縁も希薄になっていることもあり、転生を望む方が圧倒的に多いです。


それから、現世で昔流行った「チート勇者」だとか「魔王になる」だとか、そういうイメージを持たれる方も多いようですね。ただし現実はあんなに突飛でも華々しくもございません。


どれだけ異世界での活躍を夢見ようとも、わたしたちはあなたの経歴をみて判断させていただくことしかできません。経歴、つまり、あなたが先ほどまで生きてきた人生すべてです。


良いことも悪いことも、幼心で蟻を踏み潰したことから、生徒会長を務めたこと、無責任な性行為をしたこと、迷子を保護したこと。ハローワールドでは、あなたのすべての経歴をみることができるのです。


慈善や他人のために人生を使った経験がない方は勇者の素質なしと判断されますし、特別秀でたものがなければ村民となる場合が多いですね。微細でも犯罪を積み重ねた人間は、魔王や悪党など駆逐される側への転生となります。


もちろん転生先でどのように生きるかは自由です。村民から学者になり世界を導くこともあるかもしれません。「悪」と呼ばれる側が「正義」だったと証明される場合もあります。逆も然り、国王になっても賄賂に流されれば淘汰されます。



さて、ここからは大切な部分ですので、よく聞いてくださいね。



我ら転生部と天国部で大きく変わるのは「輪廻」の有無です。天国へ送られた人間は、修行を積むことでいつかは生まれ変わることが出来ます。当然、時代も場所も選べないうえ、それまでの記憶は境界にて消されるため、輪廻をめぐって生まれたことはわからないようになっています。


ただし、転生部で処理された場合、記憶はそのままに転生できますが、転生して死んだ後に輪廻に入ることはできない。転生先で死ねば、永久の消滅しか残っていない。



たったひとつだけ例外があり、異世界にて素晴らしい成果を挙げた者だけは、ミッションをクリアしたあとに天国部へ迎え入れられ、記憶をすべて消されて輪廻へ送られる。


異世界の問題解決は、いわば天国でいうところの修行と等しいからです。勇者だけではありません。その世界を良くするために存在し得ればそのチャンスはあります。例えば鍛冶屋の職人だとか、旅先の商人、人を救う職種につくのも方法のひとつです。いずれにしても異世界で散ればコンティニューはできず、永久の無となることだけは心に留めておいてください。



まとめると、これまで積み重ねた人生を担保に、転生して生きていくか、この人生に別れを告げて天界にて「次」を目指すかということです。もちろん天界で永遠に生きるというのもアリですが、だいたいは平穏に飽きて輪廻を望まれますよ。



さあ、もう質問はありませんね?



それでは、説明は以上となります。天国部へいくか転生部へ行くかはあなたの選択次第。ご自由に選んでいただいて結構。ただし、転生して何者になれるかは、あなたの経歴をみて判断させていただきます。こちらの決定に口答えは許されません。ここでの選択を取り消すことは一切できません。これは現世でもおなじだったでしょう?



さあ、覚悟を決めて、お進みください。


我々、公共転生安定所「ハローワールド」は、あなたによりよい道が拓かれるよう、精一杯サポートさせていただきます。

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